第四回 阿鼻叫喚クリスマスプレゼント
シャンシャンと鈴の音が入っているクリスマスの音楽で番組がスタートする。
赤い鼻のトナカイがどうこうする歌詞のやつだ。
「ゼーット・ショッピング!!」
二人が前回の放送から始まったポーズをして登場する。
「皆さん、こんに…、メリークリスマス。ゼットショッピングのお時間です。販売員の有利泰蔵です」
「販売員の根賀貴司です」
「本日も前回の放送を見て下さいました視聴者の方から沢山のご意見を頂きましたのでお答えさせて頂きます」
いつものようにスタッフがカメラの前を通り原稿を渡す。
「埼玉県の方からです。『前回の放送で紹介されていた扇風機を買いました。届いたはいいものの家の中に入れられなかったので外に置いたんです。そしたら、その日に強盗が来たので扇風機で対抗することが出来ました。しかし、警察から強盗の車ごと吹っ飛ばして民家の壁を破壊したことを怒られてしまいました。でも、私は後悔していません!こんな扇風機を紹介してくれてありがとうございます!』と頂きました」
その時の新聞記事が登場する。そこにはでかでかと見出しで『扇風機、民家を破壊』と書いてある。
「いやぁ、嬉しいですね!初めてじゃないですかこんなお便り」
「民家ぶっ壊して嬉しいとか病院をすすめますよ」
「しかもこの記事は、ライバル局である東京M&Xのライバル番組『五里霧中!』の夕刊ベストテンで一位だったんですよね!」
「何そのヤバい番組」
「しかもマツコ・インデックスさんに散々いじって貰えたんですよ!しかもふかわりゅうさんも買っていたんです!」
「何でスタッフ嬉しそうなん?」
「当たり前だろ!特別ボーナスが出るって言ってたんだからな!」
スタッフ一同とても嬉しそうである。
「本日は商品紹介に時間がかかるので、ご意見はこの方だけになります。また、本日のBGMはクリスマスのフリーBGMを使用しております。さらに、今回も何処の事務所にも出演オファーをしていないのでタレントの方はおりません。その代わりに代表取締役兼社長と社長婦人がゲストとして出演します」
「スタッフ仕事しろや」
「それでは、一旦CMです!」
映像が切り替わる。
苦しい暑さのとき。
そんなとき。
頼りになる扇風機。
略して、『クソ扇風機』じゃね~か!
この番組は『クソ扇風機』でお馴染みのアクア工業がお送りします。
「改めまして、販売員の有利大蔵です」
「改めまして、販売員の根賀貴司です」
「それでは、本日のゲストにご登場して頂きましょう!どうぞ!」
画面の端から白髪のジーさんが登場する。
そして、二人と握手をする。
「社長!今日は宜しくお願いします!」
「宜しくお願いします」
「おお!宜しく頼むよ!沢山金をむしるんじゃ!」
いきなりのゲス発言が吐き出される。
「あれ?社長婦人はいらっしゃらないんですか?」
「そうなんだよ!あのクソババア!今日は生放送に出るって言っていたのに忘れてやがる!ホントにクソだよなぁ。君たちもそう思うだろ」
「うん、まぁ、そうですね~」
「何かうるさくないですか?」
根賀の言っている通り、外から車のエンジンが聞こえている。段々と近づいて来ているようだ。そしてその車が姿を現す。
「施設から頑張って来たのに、生放送に遅れちまうよぉ~!」
白髪にパーマをかけたババアが叫びながら、赤い軽自動車を運転している。
「は~い。社長婦人の登場ですぅ」
スタッフは冷静に車が突っ込んでこれるよう端による。そして、ハイスピードのままスタジオへと登場する。有利と根賀は反応して避けるが社長は動くことが出来なかった。
「危ないよぉ!!」
そう叫びつつババアは社長に車をぶつける。ぶつけられた社長は後ろにある装飾まで吹っ飛ぶ。
「だいしょぶかい!!」
そう叫び社長に駆け寄る。そして、追い討ちをかけるように蹴りだした。それを見た内田ちゃんが駆け寄る。
「もう止めて!社長の生命はもうゼロよ!」
「違うよ。これはあれだよ!ほら!心臓マッサージだよぉ!!いち!に!いち!に!」
「婦人!オーバーキルですよ!」
青木Pが止めに入る。そんな青木Pに訪ねる。
「ちょっと!救急車を呼んどくれ!」
「えぇ、呼ぶんですか?」
「ホレ見ろクソジジイ!これがあんたの会社だ!死人がいるのに誰も助けてくれない!恐ろしいねぇ!あんたはこれを変えてかなきゃならないんだよぉ!」
「誰が死人じゃあ!俺の生命はまだあるわ!」
社長は何ともない感じで立ち上がる。
「え、何で車に突っ込まれても大丈夫なの?」
そんな根賀にスタッフの山崎が答える。
「あぁ~、それはね、装飾の後ろに体操で使うマットをつけてあるからだよ。」
「何でそんなんあんの?」
「前にも同じことやって装飾壊されたんだよね。それで装飾が壊れないように付けたの」
山崎は有利にカンペを出す。
カメラには赤い軽自動車が半分くらい被っている。
「ということで本日のゲストの方が揃ったので始めていきましょう!本日はいつも見てくれている視聴者の為にクリスマスプレゼントをご用意させて頂きました!ねぇ!社長!」
「うむ!これは凄いと思うぞ!」
「というのでこちら!打ち上げ花火のご紹介です!」
「はいクソ~。今何時だよ?」
「二十五日の午後五時過ぎだけど?」
「クリスマスプレゼントってよく言えるな」
スタッフが花火大会で打ち上げるやつの花火を運んで来る。
「よくこんなん用意できたな。盗みは犯罪じゃないんですか?」
「いや~、今年は花火大会の中止が多かったので大量に用意出来たんだよなぁ。青木君?」
「そうです社長!安く買い取れました!」
「犯罪臭がプンプンしてるんだよな~」
「そんなことはいいから早く終わらしとくれよ!おばあちゃん花火楽しみにしてたんだよぉ」
婦人の機嫌が悪くならないようにとカンペが出される。
「本日は、ここにある花火を実際に打ち上げてみたいと思います。それでは移動しましょう!」
全員で屋上に移動する。屋上のなかなか開かない扉を開けると真っ白くなっていた。
「何で雪が積もっているんだよ!打ち上げられないだろ!」
屋上には五センチ程雪が積もっていたのだ。かなり久しぶりのホワイトクリスマスだ。世間では喜んでいるところだが、ここにいる人にとっては迷惑でしかない。
「スタッフ!急いで雪をどかせ!」
「青木君もヤるんだよね?」
「勿論やりますよ」
「おばあちゃんもヤってもいいのかい?」
「止めてェェ!婦人止めてェェ!構えないでェェ!銃なんで持ってんのか知らねェけどォォ!」
婦人が別の意味で捉えたので青木Pが止めにかかる。
そんなやり取りをしている間にスタッフはどんどん雪を退かしていく。
前に紹介していた扇風機も動かして吹雪の如く飛ばしている。その飛ばされた雪は目の前の通りに落下していった。
「あら~、吹雪だねぇ~。おばあちゃんこういう風流的なの大好きだよぉ~。下にいる人と車に積もってるねぇ~いいねぇ~」
婦人はとても機嫌が良いようなのでスタッフは無視する。下から怒鳴り声がした気がしたが扇風機の音で上書きして聴こえないように配慮する。
「さぁ、片付きましたので花火をセットしていきましょう!根賀君もやって!」
「はいはい」
「スタッフは特別な訓練をしています。危険なのでゼッタイに真似しないで下さい!おい!山崎!テロップ入れとけ!」
はいは~い、と一言返事がありテロップが入れられる。
「あれ?君たちこんな訓練させていたっけ?俺こんな事記憶に無いんだけど?無駄な事に金使ったの?ねぇ青木君?」
「何言ってるんですか社長!何も訓練してないに決まってるじゃないですか!」
「本当にそうだろうなぁ!男山根に二言は無いぞ」
「無いですよぉ。素人でも出来るって知られたら花火師を派遣する分の人件費取れなくなっちゃうでしょう」
「安全と倫理上の問題位テレビ局なら考慮したらどうなんだよくそP……」
「おい!根賀ァァ!!テメッ今の聞こえてんぞォ!」
青木Pが根賀を黙らせる。そんなこんなをやっているうちにスタッフが準備を終わらせ撮影を開始する。
「さて、準備が終わりました!今回はこの…尺玉を打ち上げたいと思います!」
有利が筒に花火玉を入れ、セットを完了させる。
「さぁ!早速打ち上げたいと思います!この花火はパソコンで管理しているのでライターは要らないんです!便利ですねぇ」
「また無駄な金を使うんすね。これ誰が発射ボタン押すんすか?」
「それではね、せっかくなので社長!どうぞ押して下さい!」
「俺は見るのが良いんだよね。おい!お前やったらどうだ?」
「おばあちゃんも見る方がいいねぇ~。おばあちゃんも、青木を、ンンッ!青木が打ち上げる所が見たいねぇ~」
「あれ?なんか違和感感じたのは俺の気のせいすか?」
という社長と婦人の圧力によりプロデューサーである青木が打ち上げる事になった。
「はい!お待たせ致しました!それでは打ち上げましょう!どうぞ!」
「スタッフの後ろに有るのは何?」
勿論置いて有るのは消火器だ。
「これ、無意味ですよね?」
「根賀君?それは誰も言わなかったことだよ?ともかく!さぁ、どうぞ!」
青木Pが発射ボタンを押す。
ドンッと音がして花火が打ち上がる。
「打ち上がりました!さぁ……。あれ?これこっちに来てる?来てるね!ヤバイよヤバイよ!」
「さすがだわ」
不発の花火が落ちてくる。焦るスタッフ一同。急いで建物に入る。
屋上入り口にまで間に合わず取り残される青木P。社長婦人は容赦なく扉を閉めて鍵をかける。
ドンドンとドアを叩く青木P。
「ねェ!ちょっとォォ!!開けて!開けてェ!!死んじゃうから!死んじゃうからァァ!!!」
顔は分からないが、きっと必死の形相。
「これはー、あれかな?おばあちゃんのワンキルかな?ワンキルでいいのかなぁ?」
「知らないっすよ」
「はい!ということで青木Pはどうなってしまうのか!続きはCMの後で!」
映像が切り替わる。
苦しい暑さのとき。
そんなとき。
頼りになる扇風機。
略して、『クソ扇風機』じゃね~か!
この番組は『クソ扇風機』でお馴染みのアクア工業がお送りします。
映像は再び番組へと切り替わる。
「残念ながら花火は炸裂しませんでした!ということで青木Pも死んでません!あー残念ですね!!」
「あー、おばあちゃんワンキルできなかったよぉー。残念だねぇー。合法的にワンキルできると思ったんだけどねぇー」
「全く同意っすよ」
不謹慎極まりない三人。屋上のドアの鍵を開ける。すると、
「テメェらァァ!俺を殺す気かァ!!」
「はい」
「はい、じゃねぇだろォ!!」
「生きててよかったねぇー!おばあちゃん死んだかと思ったからねぇー!」
「ふざけんじゃねェぞクソババァ!俺を閉め出しやがってよォォ!!」
激憤する青木P。いつも通りの三人とはまるで対照的だ。
「じゃあおばあちゃんが次上げてみようかねぇー」
「おい!聞いてんのかババァ!!」
「発射ぁー!!ドーン!」
花火は打ち上がり夜空に大輪が花開く。
準備していた全てを打ち上げ大満足のようだ。青木Pが後ろでゴタゴタやっているが気にせず番組を進行させる。
「とってもキレイですね!ではこの商品の説明を根賀君どうぞ!」
「はい。こちらの商品は花火玉一発と筒、そして管理用パソコンのワンセットでの販売になります。花火玉のみの販売は有りませんのでご注意下さい。また、花火が炸裂しなかった場合でも返金は出来ませんのでご注意下さい。更に花火師が一緒にお届けとなります。なので、人件費として十五万円がかかります」
「それでは、この商品のお値段を発表します!こちらの商品は、…なんと!一セット百五十万円の所、クリスマスプレゼント価格で百三十万円+税になります!」
「安いな。これなら視聴者の皆さん買うよなぁ?」
「そうですよね!社長!」
「おばあちゃんも買って家に置いて置こうかねぇ~」
「また、使い終わった花火はZショッピングが受け取りに参ります。捨てないで下さい。送料は勿論有料になります。電話番号はこちら!」
今日は看板に書かれた電話番号を掲げている。社長が来ているからだ。
「最後は、社長!お願いします!」
「視聴者の皆さん買ってくださいねぇ」
「それでは皆さん!また次回お会いしましょう!」
───12月25日午後6時過ぎ。
ゼットショッピングの生放送終了後、スタッフと根賀、有利が残っていた。普段ならさっさと帰っているが今日は特別なのだ。他の番組のスタッフもロビーに集められている。
「何で皆さん残って居るんですか?」
「知らないな。青木P何で集められているんですか?」
今年からZON-TVに関わるようになった二人は何も知らないのだ。
「今日は何の日か知ってんの?」
「社長の誕生日ですか?」
「そんなわけあるか!今日はクリスマスだろうが!」
「じゃあ、クリスマスパーティーでもやるんですか?」
「クリスマスパーティーをやるんだったらスタッフ全員帰っているよ!そんな金無いし!今からクリスマスイルミネーションの飾り付けをやるに決まっているだろ!」
やりたくなさそうな青木Pが根賀に怒る。
「全員揃ってるか~?それじゃ、始めるで~」
ぽっちゃり体型の副社長が登場しスタッフが動き出す。副社長とスタッフ全員は、会議室と書かれた部屋に入る。
「会議でもやるんですか?」
「ここは資材置き場だよ。会議なんてほとんどロビーだし使わないからね」
「ショッピングの皆はこっちや~。これを持っていっていつものようにやってや~」
「はい分かりました~。根賀と有利、これ持って」
渡された大きな段ボール持ち会議室を後にする。他のスタッフもそれぞれに段ボールを持っている。箱には『クリスマスの電飾』と書かれている。
「電飾にしては無駄に大きな段ボールだな」
「開ければ分かるよ」
「これは何処に飾るんですか?」
「これ全部外だね」
ショッピングの全員は外の飾り付け担当らしい。よく見ればスタッフ全員厚着を着ていた。さっさと運び外に出ていく。外は相変わらず雪が降っている。
「はい、さっさと付けて帰るよ~」
「は~い」
一同が一斉に段ボールを開ける。有利と根賀も段ボールを開ける。
「青木Pこれは何ですか?」
「クリスマスの電飾だろうが」
「何処がですか…これ駄目じゃないんですか……」
「根賀君?うるさいよ?早く帰りたいんだから…」
根賀を黙らせる有利。
「だってこれ、赤色灯ですよね?」
「そうだよ。モノホンじゃなくて撮影用のやつだけど?」
「まさかとは思いますけど、窃盗してきたんすか?」
「いや、ゴミとして出されていたやつを資材として貰ってきたけど…。あ、当然無許可で。山崎!そこにある電飾ロケ車に付けといて!」
「それ付けて走ったら犯罪ですよ?」
「青木Pこれは?」
「おい!無視してんじゃねぇぞクソP!」
「それはパトカーのサイレンの音を出すやつ」
「これも使うんですか?」
「今回はそれは使わない事になったんだよね。去年それつけたら警視庁のモノホンが来ちゃって大変だったんだから」
そんな会話をしつつドンドン飾っていく。あっという間に建物に蕁麻疹ができたのかという位になった。
「これはいつ片付けを行うんです?」
「明日だな!まぁ、撮影ないから楽だけど」
「えぇ~、明日も来るの?休んでいいですか?」
「ボーナス有るけど?クリスマス飾り付けボーナス」
「来るに決まってるじゃないですか」
「これ点灯すんの?」
「するよ。午後8時から5分間だけね。電気代が大変な事になるから」
「見る人いんの?」
「やべっ!内田、今何時?」
「7時57分ですね。青木Pに残された時間は3分です」
「十分だ!!」
根賀の質問をさらっと流し片付ける物をしまう青木。その直後、建物につけられた電飾が点灯する。辺り一帯が殺人事件が起きたのかと錯覚するような赤い光で覆われる。
「あ~、終わった!」
「お疲れ様でした~」
建物の中にも電飾があるので真っ赤な光で一杯だ。この状態で動じない社員は流石だと誰しも思うことだろう。
全員が食堂に集合し、明日の連絡を聴く。
「ということで明日も宜しく頼むで~」
ようやく副社長から解放される社員一同。
皆疲れた顔だ。
「今日も副社長の話長かったな~」
「校長じゃあ無いんだから短くすればいいのに」
「今日の仕事はこれで終わりだ。解散!根賀と有利も帰っていいぞ」
「はい。お疲れ様でした。青木P」
「クソPお疲れしたー」
長い一日はようやく終了した。