聖女 山賊と出会う
深夜、寝静まった宿の部屋の中、話し合う人影はエドワードとアドルファス。
「引き渡しは無事済みましたか?」
「あぁ問題はねぇ。 ついでに捕まった冒険者に少し話きいてきたぜ」
アドルファスの言葉にエドワードは意外そうに
「あまり等級の高い冒険者達には見えませんでしたが、なにか変わったことでも言ってましたか?」
と問いかけた。
「それがな、その等級の高い冒険者が最近何組も行方不明になってるらしい」
その言葉に驚くエドワード。
「まさか例の新しい階層でですか?」
「あぁ、探索に行った連中の半分近くが戻ってこねぇんだそうだぜ、階層に聖域まで作ってそこに聖女様を出向かせてお祈りしてもらおうってのに、現状それだけの人数が戻ってこねぇんだ。 連中随分派手に動いてるみてぇだな……やり口から考えて生まれたばかりなんじゃねぇか」
「恐らくは……もうすでにかなりのボロを出してますからね、ですがこの先気づかれるのも時間の問題だと見切りをつける頭は持っていると見るべきでしょう。 ならばこの先はなりふり構わず仕掛けてくる可能性が高い……ハリーテの守りは厳重にすべきでしょうね」
「そうは言ってもあのお転婆が大人しくしてるとも思えねぇけどな」
「それでも、引き時は心得ている子ですからそこまで心配はしておりません……それよりも最悪の事態を引き起こして、フィルドから『勇者の剣』を受け継いだルイスを呼ぶ事だけは避けたいものです……」
「だからあいつを表に出さねぇ為に、今俺らが動いてるんだろうが」
と肩をすくめるアドルファス。 その様子を見ながらも硬い表情が抜けないエドワードは
「ええ……最善を尽くしましょう」
と答え窓の外を眺める。 いまだやまない雨は静かに夜の街を覆いつくすのであった……。
* * *
夕べの雨が嘘のように澄み渡った青空の下、聖女一行はウォルセアと隣国の境にある険しい山道をゆっくりと進んでいた。 流石に襲撃が予想される道中なので、ハリーテは仕方なく増員された騎士に囲まれた馬車で大人しく座っている。
「クレイグ殿、体調は問題ないか?」
少し顔色が悪いように見え、思わずハリーテはクレイグへ声をかけた。
「はい……問題ありません。 あの……少しお聞きしてもよろしいですか?」
その言葉にハリーテはニコリと微笑み
「うむ、わたくしで答えられる事ならばな! 答えられない事は正直に無理だと言うから何でも聞いてくれ」
とクレイグへ答えを返す。 その言葉に、クレイグは顔面の上半分を覆うマスクをして分かりにくい表情を少し緩め
「ハリーテ様方の真の目的は分かったのですが、表向きはどういった用件でダンジョンの都へ行かれるのでしょうか?」
と問いかけた。
「あぁ、色々ゴタゴタしていてちゃんと説明していなかったか。 実はな、ダンジョン内で新しい階層が発見されたのだそうだ、そこに最前線の冒険者が休める聖域を作り上げ祭壇を設置したのでそこに聖女の祈りを捧げてくれと要請されたのだ」
その言葉にクレイグは驚愕した。
「なんですって! まさか深層の扉を開いてしまったのですか!」
その言葉に同乗していたエドワードが鋭く反応する。
「深層ですか?」
その言葉にクレイグは、しまった という表情を一瞬浮かべた後瞑目する。
「……そうですね。 この件は本来歴代の都の領主であるギルドマスター以外には秘匿されるべき情報なのですが、皆さんにはお伝えすべき情報でしょう。 ……実は今までダンジョンの最下層とされていた場所には深層と呼ばれるさらに地下へむかう入り口が存在しており、その入り口は今まで厳重な封印が施されており開けることは叶いませんでした」
「なんと、あのダンジョンにはそのような場所があったのか……」
話を聞きながらハリーテも驚きを隠せない。
「えぇ、実際に深層へ降りたことのある人間は過去何人か居たそうなのですが誰も帰ってこなかったそうです。 余りにも危険だということで遥か昔にその入り口はギルドにより秘匿され、厳重に封印されたという伝承が伝えられているだけだったのですが、まさか封印が破られているとは……」
クレイグは沈痛な面持ちで考え込んでいる。 その様子を見ながらエドワードも考えを巡られていたが、突然外が騒がしくなり、様子を伺おうとするハリーテをエドワードが制止する。
「ハリーテ! 姿勢を低く保ち窓は開けてはなりません。 矢を放つ音がします!」
その言葉を言い終わらないうちに行動を起こすハリーテ、それをかばう様にクレイグも動く。
外からアドルファスの声が響く。
「エド! 山賊みてぇだぜ、崖の上に居やがる」
「分かりました」
エドワードは状況を考えつつ、馬車の戸を素早く開けスルリと抜け出しアドルファスと騎士へ身体強化を施していった。
「おいエド、見えるか?」
とアドルファスは崖の上の山賊を見据える。
「ええ、少々高さはありますが問題はありません、それにあの広さならそれほど人数もいなそうですね」
「ならついでにアレかけてくれよ、大魔導士のバーサンが得意のやつ」
そう言いながらキラキラと目を輝かせたアドルファスがエドワードを見つめる。その言葉にエドワードは呆れ果て
「戦闘中に、なんでそんな緊張感のない事が言えるんですかねアンタ」
と言いながらも魔法の準備を進めていく。 その間にアドルファスは騎士達へ
「いいか、ここからコイツの魔法で一気に山賊どもの前まで飛ぶ。 山賊どもを一気に蹴散らすからちゃんとついて来いよ!」
と檄を飛ばす。アドルファスのその言葉に困惑しながらも騎士達は覚悟を決めたようで
「承知いたしました!」
と返事を返してきた。 ならばとアドルファスはエドワードへ
「行ってくるぜ!」
と活き活きとした目で合図を送る。それを見たエドワードが腕を振ると10人ほどの騎士とアドルファスの体はフワッと浮かび上がり、そのまま突風に包まれ崖の上まで高速で登っていく。
そのすぐ後に剣戟の音や山賊の怒号が悲鳴が響いたが、エドワードは崖下で残った騎士達と馬車の周囲の警戒を怠らない、だが別動隊もいないようで騒がしい音も次第に落ち着きしばらくするとアドルファスと騎士たちは悠々と戻ってきた。
「首尾は?」
「まぁまぁじゃねぇか? 崖上に小さいアジト作ってたみてぇだったが他に生き残りはいねぇようだ」
「小規模な追いはぎ程度ですか……それでよくこの人数の騎士を相手にしようと思ったものですね」
エドワードは呆れたように崖上を見た。
「上から奇襲ならどうにか出来るなんて簡単に考えたんじゃねぇか? 確かにこの山道があそこまで普通なら結構な迂回していかないとたどり着けない作りになってるからな」
そうアドルファスは肩をすくめながら答える。
「そう考えるとうちの優秀な魔法使い様に感謝ってとこだな」
とアドルファスはニヤニヤしているが、その言葉に周囲の騎士も尊敬のまなざしでエドワードを見ながら頷いた。 その様子にエドワードは居心地悪そうに
「やめてくださいよ……」
と答え、急ぎ足で馬車の内部の様子を見に行くのであった……。