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聖女 馬車に乗るおっさんと話す

 雨が近そうな気配をみせる曇り空の下、聖女一行は予定通り宿を出発し次の目的地へとゆっくりと移動を始めた。


「すまぬなクレイグ殿、もう少しゆっくり体を休ませてやりたかったがあまりノンビリもしていられんのだ」

馬上のハリーテはすまなそうに並走している馬車内のクレイグへ言葉をかける。


「とんでもありません聖女様、これでもギルドマスターとなるために冒険者として経験は積んでますからこの程度なんでもありませんよ」

と顔色も良くなってきたクレイグはハリーテをみてニコリと笑う。


「……公式の場以外で聖女呼びは辞めて欲しいのだが……特に今は旅先ゆえ、いらぬトラブルを起こさぬようにハリーテと呼んで欲しい」


「それは……確かにその通りですね、では不敬をお許しいただけるのならハリーテ様とお呼びいたします。後、俺の事はクレイグと呼び捨て下さい」

と少し抵抗を感じるのかぎこちなくハリーテの名前を呼ぶ。


「うむ、わかったそれで良い! よろしくなクレイグ」


ハリーテはニコニコと機嫌よく返事をして先行しているアドルファスの方へ馬を走らせていくのであった。


「ハリーテ様は……少々変わったお方でいらっしゃるのですね」


クレイグは苦笑気味に同乗しているエドワードへと話しかける。


「……確かにお生まれは大変高貴な方ではあるのですが、なんというかとても型破りな性格をお持ちでしてね、まぁスモウーブ公国の女性はそういう傾向が強いものなのだそうですが……」


「彼の国は確か祖先が非常に優秀な騎馬民族であった名残で、名馬の産地であると共に優秀な騎手が沢山いる国だそうですね」


「ええそうですね……彼女もわずか10歳にも満たない歳でスモウーブからフィルドまで単独で馬を駆ってやってきましたからね」

そう言いながら遠い目をするエドワード。


「はっ? スモウーブからフィルドまでとは、普通に馬を走らせても半月ほどかかる道のりではありませんか、それを子供がたった一人で?」

驚愕するクレイグ


「ええ、 当時フィルドには魔王討伐に多大なる貢献をした『召喚勇者マサタカ』が住んでいたことは貴方もご存知でしょう? 彼女は彼の事が書かれた本を読み憧れ色々調べた結果、勇者マサタカがフィルドにいると知り、即馬を走らせて会いに行ったのですよ……」


呆れた口調で説明するエドワード。


「それはなんというか……すごい行動力ですね……」

クレイグもなんといっていいのか困ったように答えた。


「実は私もその場に居合わせたのですが、突然小汚い子猿みたいな子供が、突然一人で訪ねてきた事に勇者本人も非常に驚いておりましたよ」


その場面を思い出して思わず笑顔になるエドワード。


「それは……」


クレイグが言葉を発しようとした瞬間


「おいエドワード! この先にメンドクセェのがいたぞ」

と馬車に並走してアドルファスがエドワードへ話しかけると共に御者に速度を緩めさせ停車するように指示を出す。


「どういうことです? もう少しちゃんと説明してくださいよ」


「恐らく()()()探してんじゃねぇか? 冒険者が司教の恰好したやつと張り込んでやがったぞ」


「は? ウォルセア内のこんな道端で? まさか往来を行きかう馬車をいちいち止めさせて検分でもしてるんですか?」


「この国で司教に逆らうやつはそう多くねぇからな。 少し先で大人しく中見せてる馬車がいやがったぜ」


「なんていったらいいのでしょうね……まぁその辺は直接お会いしてからにしましょう……クレイグ殿、とりあえずそういうことなのでこれを被ってください」


と仮面を取り出した。


「……これ以上迷惑をかけるわけにはいかん……私はここで」


「降りるとか居なくなったほうがいいという意見は残念ですが通りません。 貴方は大事な証人でもあるのですから同行していただかなければ困るのです。 ですから大人しく指示に従ってくださいね」

とエドワードにニコリと微笑まれては、クレイグにもどうしようもないので無言で仮面を被った。



* * *


「そこの一行止まれ!」


そんな居丈高な声と共に冒険者の集団と司教の衣をまとった男が道の真ん中に立ちはだかる。


 その一行は少人数で真ん中の馬車を囲み、守るように配されており一見地味に見える黒い馬車は近づいてくるにしたがって見るものが見れば高級な作りをしている逸品とわかる馬車であった。


「これは要人が乗っていそうだな……少し脅して様子を見よう」


金銭を搾り取る算段を始める冒険者の横で興味なさそうにしていた司教であったが、しばらくして馬車に刻まれた印がみえた司教の顔色が蒼白になっていく。


「よせやめろ!あれに関わってはいかん!」


流石に腐っても司教の地位にある男は馬車の印がなんなのか即座に理解できたのだが、時すでに遅く冒険者がなにやら因縁をつけ始めていた。


「おう、俺たちは司教様のお言いつけにより背教者やお尋ね者を探すお手伝いをしてるもんだ。 まさか司教様のご意向にさからって馬車の検分をさせねぇなんて言わないよなぁ?」


ニヤニヤと笑いながら馬車へ近づき扉を開けようとする冒険者たち。

そんな様子を冷ややかな目で見ていた馬上のエドワードがすかさず


「お断りいたします」


と声を発し、それに合わせてアドルファスと護衛の騎士達が素早く冒険者たちに襲い掛かる。


まさか抵抗を受けるとは思わなかった冒険者たちは慌てて迎え撃とうとするが、鍛えられた騎士たちにただの冒険者がかなうはずもなく次々と倒され拘束されていく。


「テメェら司教様に逆らってタダですむと思ってんのかよ!」


拘束されても口の減らない冒険者共へ呆れたようにエドワードが


「貴方達こそ、この馬車がなんだかお分かりでないようですね……あぁいましたね、そこの司教!こちらへ」


エドワードの言葉に無理やり引き出されて司教が前に出てくる。 司教は膝をつき必死な様子で


「ひ……ど、どうかお許しくださいませ。 私はこいつらに無理やり脅されて……」


「言い訳は結構。 聞かれたことにだけ答えなさい」


「は……」


「あなたは一体何の権限があってこのような愚かな真似をしているのです?」


「そっ……それは、ダンジョンの都の冒険者ギルドから要請があり指名手配犯がウォルセアへ逃げ込んだようだから協力して欲しいと……」


「……では、あなたはダンジョンの都の神殿の司教なのですか? 要請ならば依頼書をお持ちのはずですよね?」


「そ……それならこちらに」

と司教は依頼書をエドワードへ渡す。 それをつぶさに眺めながらエドワードは


「これは無効ですね」

と断言する。


「なっ! なにをおっしゃるのです、大体貴方に何の権限があってそんな」


「まず最初の質問から、ここに押されている冒険者ギルドマスターの印章は偽物です」


「はっ? そんなはずは……」


「ギルドの印章は偽造できないようにとある魔法処理が施されているのですが、これにはそれがありませんので無効だと申し上げました。 二つ目は私は聖女の護衛として害意あるものを今代聖女様に近づけるわけにはいかないからです。 それは司教である貴方ならお分かりいただけると思いますがね」

そう言いながらエドワードは冷たい眼差しで司教を見た。


「で、ではやはりこの馬車には今代聖女様が……」

司教はガクガクと震えながら座り込んでしまった。


「この件は大神殿のほうで処理していただきますので覚悟しておいた方が宜しいですよ、実りある()()()()が送れればいいですね」

エドワードはそういいながら口の端だけを笑みの形にして司教を見る。


「ま……まさか私を修行場送りになさるおつもりか……そ、それだけはなにとぞ……」


「連れて行ってください」


エドワードは司教の言葉を無視して集団を騎士に任せてその場を離れる。


「あいつらはどうすんだ?」


「流石にこの人数をゾロゾロ連れて歩くのは目立ちすぎて危険です。 とりあえず麻痺と催眠をかけておきますからこの場に拘束して二人ほど騎士を残し、次の街で神殿へ連絡を入れましょう」


「まぁそれしかねぇか、なら俺が先に行ってくる」


「では私が手紙を書きますのでお願いしますね」


そうアドルファスと打ち合わせ、エドワードは現場の指揮をとりながらハリーテへ声をかける。


「ハリーテ様、済みましたよ」


その声と共にスッと出てきたハリーテの姿はとてもおてんばなご令嬢とは思えない美しい所作で辺りを見回した。


「エドワードよ、結局なんだったのだ?」


「どうやらダンジョンの都の神殿の者でした。 どうやら冒険者ギルドが偽造した依頼書を出して動かしたようなのです」


「それは……詳しく話を聞かねばいかんな」


「ええ、ですがこの場でするわけにもいきませんので、我々はひとまず次の街へ向かいましょう」


「分かった、仔細はエドワードにまかせるぞ」


そういって馬車に戻ろうとした時に


「お待ちくださいませ聖女様!」

と司教が声が枯れそうなほどの絶叫で呼び止めた。 ハリーテが声の方へ顔をむけると


「どうか聖女様のお慈悲を! 私はなにも悪事は働いておりませぬ!」

そう司教は懇願した。 ハリーテは無言で司教へを近づいていきそっと肩に手を置いて語り掛ける。


「わたくしに其方の身の処し方を判断する権限はない。大神殿からの判断が出るまで大人しくしている事だ、なにも悪いことをしていないならそのように慌てることなどなにもなかろう?」

とニコリと笑いかけた。


「そ……それは……」

そのまま何も言えなくなり黙り込む司教。ハリーテはそのまま司教を見ることもなく馬車へ乗り込み出発していくのだった。


……しばらくたって馬上のエドワードへ馬車の中からハリーテが声をかける


「なぁエド兄」


「なんですか?」


「あの司教どうなるのだ? まさか本当にあの入ったら死ぬか30年経たないと出られない高山の修行場送りになるわけではあるまい?」


「あれはただの脅しですよ、本気で言ったわけではありません。 まぁ神殿側でそれなりの罰則はあたえられるのではないですかね?」


「そうか……しかしダンジョンの都は一体何が起きているのであろうな」


真剣なまなざしでエドワードを見るハリーテ。


「今の所、情報を集めさせに人をやったばかりなので仔細はまだ……しかしただ事でないのは確かでしょうね……」


そういいながらハリーテの向い側にすわっているクレイグを見つめるのであった……。




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