聖女 ハリーテ旅に出る。
・お読みいただきましてありがとうございます。この話は前作(おっさんがゴソゴソ頑張っていた話)の続きとなってはおりますが見なくても話は理解していただけるように書いていきたいと思います。
簡単な人物紹介
・ハリーテ もうすぐ20代の美少女(自国比) 大変男らしい性格の聖女様。
・アドルファス 30代後半のオッサン、外見はゴロツキっぽくて中身は子供なめんどくさい人。
・エドワード 30代後半のオッサン、魔道具の眼鏡をかけた一見柔和な雰囲気の人でアドルファスの 暴走を止める係、オカン属性でもある。
このテンプレ大陸で広く信じられている主神ウォルセアを深く信仰する国家『神聖国ウォルセア』により今代聖女に選ばれた、スモウーブ公国の第三公女ハリーテ・ドルジェ・スモウーブは法王猊下より要請された『ダンジョンの都』での依頼を果たすためにウォルセアより旅に出ようと馬を駆っていた。
ハリーテはスモウーブ公国の基準ではとても美しい令嬢である、顔は勿論だが『暴飲暴食を許さず』という教えを守り質素な食事が尊ばれるウォルセアと違い、スモウーブはそこまで主神ウォルセア信仰を重んじているわけではなく、むしろ『固太り』と呼ばれる体型が美しい女性の理想とされる国である。
ハリーテは背が高く巨漢といわれる部類ではあるが、その逞しい体つきに無駄な脂肪など存在しない、筋肉質な太ましい二の腕など惚れ惚れするような肉体美を誇っている。
その人柄は豪放磊落にして武人のような高潔さも併せ持つまさにスモウーブ公国の民にとって理想の女神のような存在であった。
そしてそんな彼女の護衛として付き従うのは若者とはいいがたい世にいうオッサンが二名。
その名をエドワードとアドルファスという、彼らはハリーテが師事していた『勇者マサタカ』の兄弟子達である。
「エド兄、今日の行程はどうなっておる?」
「一応、聖女様ご一行の道行きですからそこまで急ぐのも良くありません。今日は隣街の宿で宿泊する予定ですよ」
と、ハリーテが窮屈だから嫌だと拒否した馬車の中からエドワードが返事する。
「なんだ随分ゆっくりじゃねぇか」
と、粗野な風貌にふさわしい言葉遣いのアドルファス。
「聖女のお披露目も兼ねた道中の予定でしたからね、本当なら何か月もかけた行程でもおかしくはないんですよ」
と眼鏡をかけた柔和な雰囲気を崩さないエドワード。
「けっ……メンドクセェなぁ」
そういいながら先見の為に馬を飛ばしていくアドルファスを
「あっ! アドル兄ばっかりずるいではないか!」
と後を追うハリーテ。
「まったく……聖女様本人が先見についていってどうするんでしょうかね……」
そう呆れながらも放置の姿勢で、持ち込んだ本を読みふけるエドワードであった。
……少し馬を飛ばしながら駆けて行くアドルファスとハリーテの前になにやら道端におちているぼろ布のようなものが目に入った。
「アドル兄!」
「ハリーテは下がってろ!」
「う……しょうがない任せたぞ」
ハリーテも一応自分の立場を自覚はしている為、無理についていこうとはしないで馬の速度を緩めさせつつ足を止めさせる。
アドルファスも馬の速度を緩めながらボロ布へ近づいていく
「……こりゃ行き倒れか?」
よくよく観察してみるとボロ布ではなくすり切れたマントだったようだ。
アドルファスは馬を降りて倒れている人間へ近寄っていった。
年は50前後といったところだろうか、草臥れた容貌にドロまみれな服、そしてどうやら発熱からくる昏睡状態に陥っているようだ。
「ちっ……メンドクセェな……おいハリーテ! ひとっ走りいってエドワードを呼んで来い!」
「わかった!」
そう言って来た道をもどり、行き倒れがいるようだとエドワードへ報告するハリーテ。
「行き倒れですか?」
「あぁ、放置しておくわけにもいくまい。 エド兄馬車へ乗せるのを手伝ってくれ!」
「また面倒が舞い込んだ予感しかしませんね……分かりました中の準備は済ませておきます」
「頼んだぞ!」
そういって行き倒れの人間の元へと戻っていくのであった……。
* * *
男は目を覚ました瞬間思った……ここは天国と言われる場所なのだろうかと。
暖かい部屋のベッドで寝られるなどいつぶりだろうか
「ご……ゲフッゲフッ」
声を出そうとしたのだがうまく出せずにむせてしまった。
「あぁ、目を覚ましたのか。 無理をするな、今水を飲ませてやろう」
その声がした方へ男は顔をむけると若い女性がベッドの横へ座っていた、女性はコップの水を男の口元へと持っていき飲ませる。 久しぶりに飲む水を体が欲するのかゴクゴクと一気に飲んでしまい又ゴホゴホとむせてしまい女性が背中をさすってくれる。
「大丈夫か? あまり無理はせん方がいい、医者がいうには疲労と栄養失調が重なって発熱して倒れたという事だから今は何も考えずゆっくり休むがいい……」
「う……ヴぁ、あ、あなたさまは一体」
ようやく出せた声はひどくかすれ聞き取りにくかったが、そんな事を気にすることもなく
「私は旅の者で名をハリーテという。道中で行き倒れている其方を見つけた故に放っておくわけにもいかずこうして今日の逗留場所である宿まで連れてきたのだ」
とニコリと屈託なく笑いかける。 そんな笑顔を眩しく感じながら
「それは……大変感謝いたします。 しかし俺はこの通り無一文で彷徨っていた者ですからなにもお礼できるものもなくこうしてご厚意をいただいても何も返せません」
「何を言っておるのだ、具合の悪い者から金銭を得ようなどとは思う訳もなかろう! いいから其方はグダグダ言わずに体を休めろ、よいな!」
そういいながらハリーテは器に入ったミルク粥のようなものを差し出した。
「少しでもいいから食べて休め、今は事情は聴かぬからちゃんと食べて薬を飲んで寝るのだぞ」
その優しい笑顔に男の目から涙があふれてくる。
「こんな優しくしてもらったのはいつぶりだろう」
男は思わず心の声が漏れてしまったことにも気づかない、そんな様子を優しく眺めるハリーテの姿はまさに聖女と呼ばれるにふさわしい姿であった……。
・お読みいただきましてありがとうございます。
もし、前作も読んでやろうという広いお心をお持ちの方がいらっしゃいましたら、下の方にリンクがありますので読んでいただけたら作者は泣いて喜びます。