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おっさんとパーティ追放

だいぶお待たせして申し訳ありません

なんやかんやで無事ギルドに登録したおっさん。


色々あって一か月が経ち、既に半人前であるEランクを卒業し順調に一人前の入り口、Dランクの冒険者へと昇格している。


意外かも知れないがおっさんは地味にコツコツと成果を積むタイプなのだ。


なにせ「千里の道も一歩から、でも俺は足が長いから人より早く千里を進める」が座右の銘の一つなのである。


ちなみに、座右の銘は一つだけなのでは?とおっさんに疑問を呈した後輩の山内くん(当時29歳、独身)に対し、

「俺の席は一番左だから座右はいっぱいあってもいいんだよ。そうやって細かいからお前は彼女が出来ないんじゃないの」

と言い放ったの受け、いたく腹を立てた山内くんが翌週には美人と評判の受付嬢と交際を開始し半年後には婚約に漕ぎ着けた、通称、山内くん魔法使い未遂事件は営業部の中で未だに語り継がれているのだが、それはこの場で語る話でもないのでまた別の機会に譲る事とする。

 ちなみに君島くんはちょっとだけ泣いたそうだがそれも置いておく。


 さて、今日も今日とてジーナ嬢に借り受けた資金を返すために労働に勤しもうと依頼を物色するおっさん、Dランクにしては異様に高い依頼に目を止める。


「お姉ちゃんお姉ちゃん、これやたら報酬いいけど人気ないの?」


とりあえずで依頼を剥がしギルドの受付嬢に尋ねる。


「オサナイさん、わたしはユリーです。お姉ちゃんじゃありません!」


「それ言ったら俺だってオサナイさんじゃなくておっさんですぅー」


「オサナイさんの名前はオサナイ オサムで愛称がおっさんでしょう?わたしはお姉ちゃんが名前じゃなくてユリーが名前なんですぅー。ちゃんと名前で呼んでくれない人には対応してあげませーん」


「じゃあユリーちゃん。で、おっさんの事はおっさんって呼んでくれるんだよな?」


ユリーとしては本人がおっさん呼びを求めているとは言え、そう呼ぶのには抵抗があるのだが、ちゃんと名前で呼ばれた以上は仕方がない。


「わかりましたよ、おっさん。で、その依頼ですね?」


名前を覚えない事に定評のあるおっさんに名前を呼ばせる辺り、このユリー意外と出来る受付嬢である。


「そうそう、他の依頼に比べてやたら報酬がいいじゃない?なんか厄介なのこれ?」


剥がした依頼票を目の前でヒラヒラと振ってみせる。


「はい。これはですね、内容自体はいたって普通の薬草採取なんですけど、薬効成分のないフッツーノ菊と非常に似てますから見分けが難しいんですね」


一旦言葉を切り、さらにと続けるユリー。


「さらに、エブリキーズ菊はとても繊細でして、根っこに傷の1つでもあれば途端に薬効が半減すると言われていまして。報酬の割に手間が非常にかかるうえ、失敗扱いにはなりませんが報酬額が下がるケースが多いので、他の薬草採取に比べて人気がないんですよ」


需要は多いんですけどね、と小さく付け加えたユリー。おっさんは難聴でも鈍感でもないので当然聞き漏らさない。


「なるほど、需要が多いなら納得だねえ。じゃあおっさんこれ受けるから手続き頼むわ」


「おっさん私の話聞いてましたぁ?取り扱いにすっごい気を使うんですよぉ」


安請け合いに見えるおっさんに話を聞いていたのかと不安そうにするユリー。


「ダイジョーブダイジョーブ、おっさんこう見えて結構繊細だからね。よく強化ガラスの神経って言われてたから」


言うまでもなく、滅多なことではヒビすら入らないという意味での皮肉なのだが。


 「たぶんですけどぉ、それって意味が違うと思うんですよぉ」


 「いいんだよ、おっさんが繊細って言ったらおっさんは繊細なの。オーケー?」


 「はぁい。じゃあ繊細なおっさんの無事の帰還と依頼の達成を祈ってまーす。いってらっしゃぁい」


 愛想が良く滅多に怒らない事で人気の美人受付嬢であるユリーでさえも、おっさん相手には最終的にぞんざいな態度になってしまう。人の真の姿を引き摺り出す、ある意味で恐ろしいおっさんの固有スキル(自前)である。



 なんやかんやあって無事にギルドへと戻ってきたおっさん、ドサっと依頼の品であるエブリキーズ菊をカウンターへと乗せる。根には当然土が付着したままなのでカウンターの上は土まみれである。繊細な男のする事ではない。


 「ちょっとぉ!オサナイさぁん!なんでカウンターの上に置いちゃうんですかぁー」


 半分悲鳴の様な声でおっさんを非難するユリーだがおっさんはプイッと横を向いてしまう。


 「つーん」


おっさんの拗ねたポーズなどどこに需要があるというのか、しかもあろう事か口で「つーん」である。


 「はぁ。おっさん!困りますよぉー。根っこに土が着いてるんですからカウンターの上が土まみれじゃないですかぁ」


 「あれ?またおっさん何かやっちゃった?」


おっさん、それ言いたいだけだろ……。


 「やっちゃいましたよぉー。なんで剥き出しで大量の菊を引き摺ってくるんですかぁ!」


 強化ガラスの神経のおっさんに根っこを布で包むとか袋に入れるといった発想はない。ちなみにこのおっさん、サラリーマン時代には財布を持たずポケットに直接お金を入れておく主義であった、ポケットが急に破れて満員電車で小銭をばら撒くまでは、だったが。


 「ああ、おっさんマイバッグとか持たない主義だから」


 スーパーやコンビニと違ってフィールドではビニール袋が貰えるはずもなく、仕方なしに大量の菊を剥き出しのまま引き摺ってきた訳である。


 「せめて床に置くとか、倉庫の方で納品するとかあったじゃないですかあ!」


 「あ、そういうパターンね」


少なくともカウンターに直乗せのパターンはないと思うのだが、おっさんはその発想はなかったなと納得げに拳と掌をポンっと叩き合わせる。


 「ギルドの初心者向けの教本に、大量納品と汚れそうなものは直接倉庫にって書いてあったじゃないですかあ!!」


愛想がいい事で人気なユリーだが、その愛想にも限度があるというもの、だんだんと声が大きくなってくる。


 「ほら、おっさん実践派で説明書とか読まない人だから」


だからやっちゃう訳である。


 「ほら、それにさ、こんな綺麗な菊だから一刻も早くユリーお嬢ちゃんに見せてやりたいと思ってさ」


 急に(本人的には)キリッとした表情とイケボになるおっさん。


 「私のために……。って騙されませんからね!今回だけですからね!次やったらぷんぷんですからね!」


 結構ぷんぷんしていたユリーだが、まだ上があるらしい。一瞬ちょろいのかと思いきや、やはり手強い。そしてあざと可愛く頬を膨らませてみせる。


 「じゃあちょっと鑑定に回しますので少し待っててくださいねー」


そう言い置いてユリーが大量の菊をずるずる引き摺りながら倉庫へと向かっていく。気遣いの出来る男ことおっさんとしてはこれを手伝いたいのだが、ギルドの規約で依頼品を引き渡した後は、不正防止のためにギルドの職員以外が触れてはならないと言う事になっている。そのためにグッと堪えて飲食スペースの方へと移動する。


社会の荒波に揉まれてきただけの事はある、説明書を読まないタイプだと言ったくせに、こう言うことだけちゃんと把握している辺りが大人のズルさである。


 さて、適当に食事を頼んだおっさん、何か面白い話はないかと耳を済ませてみれば何やら興味深い会話が聞こえてくる。


 「ロウ、お前には今日でパーティーを抜けて貰う」


 「急にどうして!」


 「お前だって薄々分かってんだろ?自分がお荷物の足手まといだってことくらい」


 パーティーを抜けろ、と言った男の表情に決して嘲りはない、むしろ心苦しそうでさえある。だがその周りに立つ若い男が馬鹿にしたような調子で続ける。


 「ロウのおっさんは剣は二流、魔法は三流、一流なのは裏方仕事と逃げ足だけってね。裏方やるだけなら誰でも出来るし、それなら若い女の子入れた方が断然いいって」


 「やだージンったら。私はイケメンくんのがいいなー」


 若い女がそれに続く。


 「そういう訳だ。実際これから先、俺たちの受ける依頼はどんどん難易度が高くなっていく。お前のレベルに合わせてやれる訳じゃないんだよ」


 若い男女を諫める事はせず、後頭部を掻きながら続ける。


 「そんな、ウソだろケイン。俺たちは昔からずっと一緒にやってきたじゃないか」


 ロウ自身も分かってはいるのだ、自分がパーティー内で1番戦闘力が低いと。そして連携を意識した立ち回りでどうにか食らいついていってはいるが、モンスターの討伐数が他のメンバーに一歩劣る事も。

 だからこそ下調べや消耗品の管理、装備のメンテナンスなどを積極的に買って出て、自分もパーティーに貢献しているのだと言い聞かせている部分がなかったとは言えない。


 「俺たちと同じくらい強いやつ1人入れて、その他に誰でも出来る雑用係で可愛いねーちゃん入れた方が絶対良いって分かんだろ?」


 「そうそう、私達くらい強い人じゃないとねー」


 若者2人は討伐数、トドメを刺した数で物事を見ているようで、ロウがフォローしていたからこそ倒せたシーンが多いということには思い至らない様子。ケインはそれ自体は分かってはいても、自分達に近い技量の者を入れて、連携は改めて練り直せば良いと考えているフシがある。


 だからこそ苦渋の決断のような顔をしながらも、ついには決定的な言葉を口にするのだ。


 「ロウ、多少の金は出す。今日限りでパーティーをやめてくれ」


 悔しそうに俯くロウ、その心の内には何を思うのだろうか。



 「おー、これが噂に聞くパーティー追放ってヤツか。実際にお目にかかれるとはついてるねえ」


 初めの内は隣のテーブルで耳をそば立てていたのだが、遂にはロウの真後ろまで近寄っていたおっさん。初めて見るパーティー追放のシーンに、邪魔をしちゃいけないと思いつつも、思わずポロっと独り言が溢れる。


 「おい、なんだアンタは」


大事な話の最中に割り込んでくるおっさんをケインが咎めるように誰何する。


 「おっさんはただの野次馬だから気にせず続けてちょーだい、空気みたいなもんだと思ってさ」


 ギルドの食堂という場所柄、人目も聞き耳もないとは思っていなかったケインだが、流石に真横で耳をそば立てられ、その上に口まで挟まれてはどうにもやりにくい。話を一度中断しようと、この話は場所を変えてと言い席を立ちあがりかけたところで待ったがかかる。


 「待った待った!今ここで話中断させて他所に移るってのはどうなんだい?何事にもタイミングとか流れみたいなもんってあんでしょうよ」


 「その流れとタイミングを打ち壊した本人にだけは、言われたくないんだがな」


 ケインが迷惑そうな顔でおっさんに言葉を返す。


 「おっと、それに関しちゃあおっさんが悪かったわ。だけどな、ちょっと考えてみなよ。今ここで老け顔の兄ちゃんが他所に行ってそっちの幸薄そうな兄ちゃんに脱退を了承させるとするわな。ここなら他人様(ひとさま)の目があるから、多少感じ悪くても周りもああ、一応話し合いで解決したんだなあって思うだろうさ」


 わざわざひと呼吸置いてぐっと溜めを作るおっさん。


 「だけどな、人目の無いところで辞めることに対して積極的じゃねえ兄ちゃんを辞めさせる話し合いをしたらよ?本当に話し合いで解決してたとしても、もしかして何か後ろ暗い事をやったんじゃねえかって思っちまうってもんよ。だから腰を折られようがタイミング逃しちまおうがここで済ませちまった方が良いって寸法よ」


 他に移動しようとするきっかけを作ってしまったおっさんだが、せっかくの機会を見逃したくはないので口八丁で説得を試みる。周囲の印象がと言う言葉が、効果的だったのか、中途半端な姿勢のまま止まっていたケインが腰を下ろす。


 「確かにこれから名を上げようって俺たちの評判にケチがつくのは避けたいところだな。仕方ない、変な空気になっちまったが続けるぞ、ロウ。あとおっさんは口を挟まないでくれよ」


 おっさんに釘を刺すケイン。周囲はその言葉に目を逸らしたり俯いたりと様々な反応だが、ケインはそれを関わりたくないか気を遣って介入しない事をポーズで示しているのだと受け取った。


 しかしこの街に今日たどり着いたばかりの彼らは知らない。周囲は最近ギルド内で評判のたぶん只者じゃない名物おっさんが黙っていられない事を分かっているという事を。何をやらかすのかと期待でニヤけてしまうのを隠すため、あるいは笑いを堪えるために周囲の冒険者達はケインとおっさんの方から顔を逸らしたのである。


 「さて、改めて話を進めよう」

 

 「お、おう」


ロウの方もどういう気持ちで受け止めていいのか悩ましいのだろう。なんとも言えない表情で応じる


 「ロウが俺たちに少しでも貢献しようと交渉ごとやら資材の調達、装備のメンテナンスを積極的に買って出てくれてるのは俺もわかってるつもりだ。戦闘でも連携を意識した位置取りでジンとティナが戦い易いようにしてくれてる事も分かってる」


 「それがわかるならなんで!」


 ケインは自分の働きを理解していてくれたという事実に嬉しさを僅かに感じるものの、その上でも辞めろと言う決断に悲しみが勝ったか、悲壮感の強い声ですがるようにケインに声を上げるロウ。


 「それでもなんだよ。お前より強いやつを仲間に入れて、連携を鍛えれば戦力は上がる。メンテナンスだって交渉役だって専門のやつを雇えば済む話だ。もちろん裏方専門でやってくれるって言うなら辞めろとは言わんが、それをお前は受け入れないだろう?」


 「当然だろ!俺は冒険者なんだ!冒険出来なきゃ意味がないんだ!」


 「だからだよ!こっから先を戦えねえ奴が前線にいたって迷惑だっつってんだ!」


 「迷惑だと!俺が今までどれだけ必死にパーティーを支えてきたと思ってるんだ!」


 売り言葉に買い言葉、どんどん熱くなって声が大きくなる二人を周囲は固唾を呑んで見守る。2人とも立ち上がり、今にも互いに掴みかからんばかりの2人にギルド総野次馬化である。


 「はいはーい、落ち着いて落ち着いて。熱くなっちゃあ話し合いも何もないでしょうよ」


 激昂しつつある2人の緊迫した状況に水を打つように手をぱんぱんと叩いて、おっさんが割って入る。


 「まず2人とも座んなさいよ。話はそれからだわ。」


両者の肩を軽く叩いて一旦着席を促すおっさん。


 「うるさい、部外者は口を出すなと言ったはずだ!」


 個人評価で言えばBランクであるケインの身体能力は伊達ではない、肩に掛けられた手を力任せに払い除けると、おっさんがものすごい勢いで野次馬の群れの中に吹き飛ばされる。


 数人の野次馬をなぎ倒して止まるおっさんだがけろりとした顔で立ち上がりまた2人のもとへと歩み寄る。これでも女神から加護を授かっている身、案外このおっさん頑丈なのである。


 「いやあ、いきなり人を吹き飛ばすとかびっくりするじゃない。人をいきなり吹き飛ばしちゃいけないってお袋さんに教わらなかったのかい」


 ケインがやり過ぎたかと不安を覚えたのも束の間、平然とした調子でおっさんが話し始める。いや平然ではない、堪忍袋は万里の長城並みを自称するおっさんでも流石にこれには怒りを覚えたようである。ちなみに切れるのは堪忍袋の緒の方であり、こちらはあまり長くない模様だ。


 「いいかい、まずは老け顔の兄ちゃん!」


 誰が老け顔かと反論したいところだが、急に雰囲気の変わったおっさんに気圧されたのか、言葉をぐっと飲み込んでしまう。


 「かーっ、一人で大きくなりましたみたいなツラしやがって!兄ちゃんはさ、一人でおぎゃあと生まれて一人で大きくなって一人で生きてきたのかい?そんなことはないだろう?産んでくれた母親がいて、飯を食わせてくれた父親がいて、色んな人に支えられてここまで大きくなれたんだろう?」


 「その通りだが今なんの関係があるんだ?」


 怒りからの反論という訳ではなく、単純な疑問であった。


 「いいから黙って聞く!」


 聞いておいてこの言いようである、おっさんとは時に理不尽な生き物なのである。酒の席だけにして欲しい。


 「いいかい、本当の意味で一人で生きて来られた奴なんてまずいないんだ。兄ちゃんが身につけてる服や装備は誰が作ったね?飯は?寝床は?人間ってのは誰かの助けなしにはやっていけないんだよ。もしも身体ひとつで見知らぬ森に投げ出されたとしてさ、そこで自給自足したとしようじゃないか。それだって昔の人達からずーっと積み上げられてきた知識を教えてもらってるからできる事なんだ。おぎゃあと生まれた瞬間に森の奥深くに投げ出されて、それで一人前になるまで生きられる奴がいるかね?」


 「ドレイク族は卵から生まれた瞬間から一人で生きる定めを追っているぞ」


 「兄ちゃん、細かい事を言って話の腰を折るんじゃないよ」


 他人の大事な話の腰を折っておいてこれである。


 「今の兄ちゃんはアレだな、Sランクの結婚したくない男だわ。家庭をしっかり支えてくれた嫁さんをさ、病気だので寝たきりになっちまった時にあっさり捨てちまうタイプだろう」


 「そんな事はない!今はまだそんな女はいないがいずれ出会った暁には俺が一生掛けて守るに決まってる!働けない?病で伏せる?俺の全力を掛けて助けてみせる!」


 「そっちの幸薄そうな兄ちゃんだって似たようなもんじゃねえか。今まで兄ちゃんを全力で支えててくれたんだろう?」


 「そ、それとこれとは話がっ!」


 「違わねえんだわ。おっさんの故郷の言葉でな、相棒は女房も同然っつーのがあってな。付き合いの長い相棒ほど自分を理解してくれてる奴ぁいねえ訳よ。それは仕事において女房、つまり嫁さんだわな、それと同然だから大事にしろっつー意味なんだわ」


 ちなみにこれはおっさんのオリジナル慣用句である。恐らく野球のバッテリーにおいてキャッチャーが女房役と呼ばれる事から思い付いたのであろう。


 「ロウが、俺の……嫁?」


 「そうよ、それくらいの気持ちで大事にしろっつー事よ。まして長い付き合いなんだろ?なお一層ってもんよ」


 戸惑うように何かを考え込み始めるケイン。おっさんの方は言いたい事を言って満足したのか、今度はロイの方に向き直る。


 「さて、幸薄そうな兄ちゃん、兄ちゃんの方にも全く悪いところがねえって訳じゃねえわな」


 「俺は全力でできる事をやって、それでも要らないって言われたんだぞ!?これ以上どうしろって言うんだよ!」


 自分の陰ながらの貢献にも関わらず、戦闘力だけで評価をされているためパーティーから追放という憂き目に遭っているロウ。本人としては完全に被害者の意識であったために、まさか自分に悪い点などと言われては自分の努力が否定された様で穏やかではいられない。


 「それよ、そこですよ!」


 ロウの反応に我が意を得たりとばかりに得意満面のおっさん。


 「兄ちゃんは努力をした、そりゃあ間違いなくそうだろうよ。だけど兄ちゃんがやった努力は1人分の努力なんだわ」


 「そんな事はない!みんなの足手まといにならないように空いてる時間は一人で必死に人の何倍もの鍛錬をしてきたんだ!」


 「そりゃあな、独りよがりってんだわ」


 「独りよがり?俺の努力がかよ……」


 これまでの頑張りを全否定するような無情な言葉に崩れて落ちるロウ、その目には涙が滲んでいる。


 「いいかい、確かに兄ちゃんは他の連中が休んだり遊んだりしてる時間も、それこそ寝る間も惜しんで頑張ったかもしれない。だけどそれはずっと一人でやってたんだろう?」


 「そりゃあみんなに迷惑は掛けられないし……」


 なんとか声を搾り出して答えるロウ。


 「そこなんだよ。あっちの老け顔の兄ちゃん達は兄ちゃんの仲間なんだろ?しかも兄ちゃんを足手まといだって言っちまう程強い訳だ」


 「ははは、そうだよ。俺一人だけ弱くてみんなはどんどん俺を置いて強くなっちまう。どれだけ俺が必死に訓練しても差は広がるばっかりだ」


 自嘲気味に、しかし悲しそうに表情を歪ませて笑みを浮かべる。


 「その時にさ、なんで仲間に助けを求めなかったんだい?自分より強くて才能もある奴がすぐ近くにいるんだ、戦い方でも鍛え方でもコツでもなんでも教わりゃあ良かっただろうに」


 「みんなは俺なんかよりずっと強くて才能があるんだぞ?それを俺が真似して同じようにできるもんかよ。それに俺に聞かれたって迷惑なだけだろ」


 「そんなの教わってみなくちゃ分かんないでしょうよ」


 「俺にはケインみたいな豪腕の剣術は使えないし、ジンみたいな精度で矢を放つ事は出来ないし、ティナみたいに魔力のコントロールが上手いわけでもない。才能のない俺が教えをこうなんてみんなの負担になる訳にはいかないだろ」


 「ウジウジウジウジと迷惑だの負担になるだの男らしくない兄ちゃんだな!いいかい兄ちゃん、それは仲間を信じてないっつってるようなもんだし、そう言う気持ちでいるなら兄ちゃんは本当の意味では仲間じゃなかったって事だぞ!」


 痺れを切らしたかの様に突然のボリュームアップである。自称漢の中の漢、日本男児の教科書であるおっさんにはこの後ろ向きさが耐えられなかった様だ。


 「いいかい、さっき老け顔の兄ちゃんにも言ったけど人ってのは支えられて生きていくんだ。仲間だったら支え合うモンだろう?なのに兄ちゃんは一人で抱え込んで支えるばっかりで、支えられるって事をしてきてねえんだわ。そいつを仲間って言えるのかい?そんなのは体よく使われてるってだけだぞ」


 「違う!ケインはそんな奴じゃない!」


 「そう思うならなんで相談もせずに一人で抱えちまったんだい?仲間を信頼してるなら、迷惑だのなんだの気にせずに頼ればいいのによ」


 「でも俺が弱いせいでみんなが進めないのは事実だし」


 「だからウジウジすんな!仲間なんだ!出来ねえトコを支え合うのなんて当たり前だろうが!おっさんだってな、仕事手伝ってやる代わりに飲みに付き合ってもらったりするんだぞ!」


 仕事はそれなりに出来るのだが酒が入ると話が長く面倒な為に、おっさんとの飲みは敬遠されがちであった。そのため、仕事を手伝う代わりに定期的に飲みに付き合ってくれる君島くんの存在は意外にも貴重なのであった。


 「いいかい、仲間ってのは支えるだけじゃない。迷惑掛けて、支えてて貰って、それでも一緒にいられる連中の事を言うんだ。兄ちゃんは自分が一方的に支えてる側って意識でいたんだろうけれど、そんなのは思い上がりだよ」


 そこまで言い切ると、ケインの方に顔を向けて声を掛ける。


 「老け顔の兄ちゃん!この兄ちゃんを、少なくともちょっと前までは仲間だと思ってたんだろ!?」


 ずっと真面目な顔で考え込んでいたケインが、決意を固めた様な表情で顔を上げる。


 「ちょっと前どころか今でもそう思っているさ!昔から1番側で俺を支えてくれていたのはロウなんだ!俺の人生で1番大切な奴なんだよ!!」


 「ケイン……」


 ズカズカと大股でロウに歩み寄るケイン、腰を屈めてロウの頬に手を当てたと思った直後、ぱあんと言う破裂音と共にロウの頬が赤く腫れ上がる。


 「ロウ!俺は怒ってる!お前が弱い事にじゃない!お前が悩んで一人で抱え込んで俺を頼ってくれなかった事にだ!そんなにお前の友達は頼りないかよ!そんなにお前の仲間は頼りないかよ!」


 打たれた頬を押さえながらもケインに視線を向けるロウ。


 「ロウ!俺は俺の怒りでお前の頬を打った!だが俺にもお前に謝らなくちゃいけない事がある!だから俺を殴れっ!」


 ひざまづいてロウに頬を差し出すケイン、ロウは突然の出来事に戸惑うだけで腕を振り上げる気配はない。


 「いいから殴れ!俺の気が済まん!お前に支えられている事は分かってた!なのにお前が俺たちに相談も出来ずに一人で抱え込んでたことに気付かなかった!俺はお前に甘えていたんだ!だから殴れ!」


 戸惑いながらぱちんと軽い音を立てて頬を打つロウ。


 「ふん、力のない弱い打撃だ。お前は弱い。だが俺だって最初から強かったわけじゃないのはお前が一番よく知ってるだろう?」


 「だけどケインは体は大きいし腕も太いし力も強いし、俺が同じになんかなれるかよ」


 「同じじゃなくていいんだ。仲間なんだ、ロウはロウの強さを身につけりゃあいいんだ。それによ、もう一つ謝んなきゃいけない事があるんだけど……」


 後頭部をかきながら、ポツポツと切り出す。


 「俺はさ、もっと強い敵が出た時にロウに大怪我をさせちまうのが怖かったんだよ。ずっと一緒にやってきた大事な奴を、戦いの中で失いたくなかったんだよ。さすがに照れ臭くていえなかったからキツい言い方してパーティー抜けてもらえれば、安全で平穏に暮らしてもらえるだろうって思ってさ。だけどさ、おっさんに言われて俺気付いたんだよ」


 一旦言葉を切って、ケインは大きく息を吸い込む、そして……。


 「ロウ!お前は俺の人生で1番大切な奴だ!おっさんに相棒は女房同然、ロウが俺の嫁みたいなもんだって言われて気付いた!これからはパーティーの仲間として、パーティーの女房役としてじゃなく!お前と俺とで!公私どちらも支え合って生きていきたい!!」


 「は?え?ちょっと待って」


 「待たん!パーティーを辞めさせる件は無しだ!ジン!ティナ!文句があるならお前らが抜けてくれても構わん!俺はロウさえいれば何処でもやっていける!」


 言いたい事を言い切ると、男性にしては華奢なロウを抱きかかえ、いわゆるお姫様抱っこで颯爽とギルドを立ち去るケイン。急転直下の事態に面食らいながらも慌てて後を追うジンとティナ。


 彼らの冒険は様々な意味で新しい扉が開かれたらしい、開く必要があったかはわからないが。


 何が起きたのか分からず唖然とした表示で見送る野次馬一同であったが、中には頬を赤らめる女性や、指笛で門出を祝う察しのいいお調子者もチラホラといたとかいなかったとか。ちなみにユリーちゃんの頬は朱が差し、なぜか少々息が荒かった。きっと彼らの和解に感動したのだろう。



 「そうそう。やっぱ仲間同士、支えあって仲良く楽しくやってかなきゃね」


 そう言って満足げに呟くおっさん、察してない側である。加えてこの男、未だにパーティーを組んだ事はない。



 数年後に二人の男性冒険者が孤児院を創設して、迎え入れた子を全て養子とすると言う話題が世間に流れるのだが、果たしてそれがこの二人の事なのかは定かではない。

不定期更新にはなりますが、完結はさせます。どれくらい時間が掛かるかは分かりませんが、またお付き合いいただければ幸いです

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