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【プロローグ】野次馬おっさんと異世界転移

しらふで書いております。正気をお疑いかもしれませんがご安心下さい、これでも正気のつもりです。

 小山内治44歳独身、氏名のせいか昔からあだ名はおっさんだったが、現在は名実ともに立派なおっさんである。趣味はテレビ鑑賞と読書、それと飲み歩き。付き合いでゴルフもやるが、そちらの腕はイマイチ。本人曰く「接待ゴルフだからこれくらいでスコアを抑えておいたほうが喜ばれる」だそうだが。

 

 その日も仕事から帰ってくるなり風呂を済ませテレビをつけて夕飯代わりのツマミを手早く作ると、プシュッと言う音をさせて缶ビールを開ける。あくまでもビールだ、発泡酒や第三のビール、いわゆる新ジャンルではなくビールしかも銀のパッケージの売れ筋のドライビール。これはおっさんの数少ないこだわりである。やはりビールはこれじゃないとね、だそうである。

 

 「あーあー、そうじゃねえよ。なんで外角高めにストレート放っちまうかなあ、そこは内角低めにシュートだろうよ」


 「ああ、絶好球見逃しやがった。配球考えたら今ど真ん中ストレートくんのなんて目に見えてんじゃねえか」


スポーツ中継を見ながら選手にアドバイスとも文句とも言える声を上げるおっさん、テレビの前からでは届かないが。本人曰く「俺は野球にはちょっとうるさいよ」だそうで、特にキャッチャーの配球の組み立てとバッターの選球には手厳しい。野球未経験なのだが。


 「だからどうして無駄を削るっつって余計に費用掛けてんのかねえ」


 「人件費の削減は最後だって、先に他のとこ詰めるだけ詰めてからじゃなきゃあ駄目だよ。人材がいりゃあなんとでも立て直せんだから」


ニュースを見れば社会派なおっさんは的確で貴重なご意見を下さる、テレビの前でだが。


 「俺にやらせりゃあ、もっとこうスパッと解決しちまうんだけどなあ」


ビールから焼酎に切り替えてだいぶいい感じになってきたおっさんは呟く。優秀なおっさんは上に行こうと思えば出世など簡単なのだ、自分がいなければ現場が回らないという戦略的判断で営業部で万年係長をやっているにすぎないのだから。ちなみにスパッとの具体的な案はない。


 時間も深くなってきてニュースも終わり今度はアニメ鑑賞へとシフトするおっさん。少年時代は娯楽が少なく、1時間掛けて山向こうの町まで自転車で漫画を買いに行き、家にテレビがある本家まで30分掛けてアニメを見せにてもらいに行った経験から娯楽の希少性が染み付き、手軽に娯楽に触れられるようになったこの年になっても漫画、アニメを見ることを辞められなかった。


 「ああ、このイケメン分かってねえなあ。どう見たってツンデレの照れ隠しじゃねえか。殴られたくらいでなに怒ってんのかね、この程度笑ってゆるしてやんのが男の器量ってもんよ。俺の若い頃なんか麺棒で頭ぶん殴られても文句一つ言わなかったぞ。」

 

 若い頃というか少年時代、母親に怒られた時の話で、母親が怖くて言い返せなかっただけなのだが。


 「まーたそうやって挑発的なこと言って。礼儀がなっちゃいねえから周囲と揉めるんだよなあ」


今見ているのは最近マイブームの異世界モノだ。その中でも転移、転生ものがおっさんの琴線に触れている。自分だったらこうするのにとか、こうやればもっとスムーズに行くだろとか、言うだけ野暮な、というかスムーズに行ったら話しが盛り上がらないのだが、そんなことはお構い無しである。


 「この話の女神さまってのもなあ、俺を異世界に連れてきゃあ、どんな問題でもなんとかしてやんのになあ.。これでも大学時代は学生ボクシングでならしたもんよ、魔王だろうがドラゴンだろうがガツンですよ」


だいぶ出来上がってきたおっさん、異世界を救うという大言壮語。もっともおっさん自身はそれが不可能であるとは微塵も思っていない。おっさんとは優秀で自信溢れる生き物だから。


―――そのお話、本当でしょうか―――


どこからか鈴を転がしたような美しい声が聞こえる


―――もし本当なら私の世界を救っていただけないでしょうか―――


普通ならテレビの音声かせめて幻聴を疑うところだが、酔っていい気分のおっさんはそういうのを気にしない。


 「お、女神さまってやつか?いいぜ、おっさんにまかせりゃあ万事解決よ。どんな強敵も指先一つでダウンだぜ」


自信満々のおっさん、その場で快諾。


次の瞬間おっさんの視界は光に包まれる。


「おお、これが知らない天井ってやつだな」


一面見渡す限り白、天井どころか壁も床もない場所で目覚めたおっさんなのだが、得意満面の表情でそう呟く。世界を一つの部屋だと定義するのならば、確かに空は天井と呼んで差し支えないのかもしれない。


 「お目覚めですね」


どこかで聞いたことのあるような声に耳を傾けるおっさん、つい先ほどおっさんに救いを求めた声の主なのだから聞いたことがないわけがないのだが。おっさんが起き上がり声の方へと顔を向けると、古代ギリシャっぽい白い布を身にまとった、桃色ゆるふわ髪の豊満な美女が立っている。


 「ようこそ小山内治さま、私はルーネアス、一つの世界を預かる女神です。ここは私の世界の外側、いわば管理人室だと思っていただければ」


 「薄着の姉ちゃん、あんた一体何者だい?俺は一体なんでここにいるんだ?」


おっさん、酔っていたせいで世界を救う宣言を忘れている、そして女神の話を聞いていない。


 「私はこの世界の女神ルーネアス、ここは私の世界の外側、管理人室のような領域です」


世界の管理者、慈愛の女神であるルーネアスは話を聞いてなかったおっさんのために再度繰り返す。決してこっちの言い方の方がいいかなーとやり直しをした訳ではない。


 「薄着の姉ちゃん女神さまか。じゃああれか、俺死んじゃって異世界転生とかしちゃうわけだ」


 「いえ。小山内様は私の声に応え世界を救ってくださるとのことでしたので、召喚の形で肉体をそのままこちらの世界に転移させていただきました」


 「あーはいはいアレだ、転移ってやつね。じゃあアレだ、転移のなんやかんやで肉体が強化されたり特殊なスキルついたりするやつ、でチート貰ってなんかこう異世界で成り上がるやつ。あとその小山内様ってのどうにかしてくれ、いっつもおっさんて呼ばれてるからむず痒くて仕方ねえ。おっさんでいいよおっさんで」


 相手は女神なのだが、おっさんはいつも通りの調子で話す。おっさんからすれば見た目が20代前半の女神は親戚の娘さんとか職場の若いねえちゃんと同じ括りで接する相手なのだ。


 「ではおっさん様、おっしゃるとおりおっさん様の肉体は元の世界には存在しない魔素を扱うために変質いたしました。また、その変質の際にユニークスキルを獲得しておりますので説明させていただきますね」


 「様づけもいらないって。おっさん、呼んでみ?リピートアフターミー、おっさん」


大事な話をしているはずなのだが、呼び方の方が重要らしい。

 

 「では失礼して・・・・・・。おっさん、肉体の変質とユニークスキルに関して説明させていただきますね」


 「いや、大丈夫。自分の体のことは自分が一番良く分かってるから」


健康診断を面倒臭がるおっさんのような発言でお断りするおっさん、説明書も読まないタイプである。

 

 「では召喚に応えていただいた感謝の証としておっさんに私の加護と異世界を救うための力を」


 「いや、それも大丈夫。こう見えておっさん、高卒たたき上げでずっと仕事してきてるからね。今更不思議な力とか体一つで社会の荒波を越えてきた身にゃあ今更そんなもん不要ってね」


 女神の加護やチートもお断りのおっさん、いくら社会の荒波を越えられる力でも異世界の危機は越えられないと思うのだがそんなのおっさんにはお構いなしだ。


 「それよりとりあえず異世界いって世界をこういい感じにすりゃあいいんだよな?どーんとおっさんに任せて異世界に送ってちょーだい」


色々聞くべきこともあるだろうけど、勢いと精神的なタフさで数多の難局を切り抜けてきたおっさんは、そういうのをすっとばしてすでに異世界に行く気満々である。


 「わ、わかりました。おっさん、これより貴方を私の世界に送ります。願わくば世界の救済とおっさんのこれからの生に幸多からんことを」

 

 話を聞かないおっさんに説明するなんて小娘扱いの自分には無理だなあと諦めておっさんを異世界に送り出す。

光に包まれて白い世界から消えるおっさん、後には桃色ゆるふわ髪の薄着女神だけが残された。


 「大丈夫かなあ、人選間違えちゃったかなあ。自身満々っぽいし大丈夫だよね、うん」


手に持つ透明な板に転写されたおっさんのステータスとスキルを眺めながら自分に言い聞かせるルーネアス。


「一応いくつか保険は掛けておこうかなぁ」


言い聞かせ切れなかったのか、そう小声で呟くと白い空間にまた小さな光が灯る。


おっさんは世界を救えるのだろうか。そして女神の保険とは一体・・・・

お読み頂きありがとうございます。よろしければ完結までお付き合い下さい。

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