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6 開示されし者


 あっけにとられ、呆然としていると「というわけで、みんな!こいつをよろしくね?」と、肩をつかまれ、その場に正座させられた。


「拍手ウ!!」


 バッシィ!小暮が竹刀で床を叩くと、坊主頭たちがビクッとなり、一斉に拍手を始める。いつの間に持ってきたんだ。


「この戸津床公太郎くん。公務員の父母のもとに生まれた彼は、成績優秀な秀才として育つも……受験に失敗して挫折を味わい、仕方なく入った底辺公立校では不良にインネンをつけられ……」


「おいやめろ」


 なんだよ!いきなり何かと思ったら、それ俺のプロフィールじゃねーか!


「公太郎くんはプライドが高く、身の程を知らない。理想だけ高くて、現実を認められない。身の丈を知らないから高望みするばかりで、恋愛経験もゼロ……いまだ童貞」


「オイ!それ誰から聞いたんだよ!あっババァか」


 俺の略歴を勝手に読み上げられる。なんでこんなこと公開してるんだよ。

 っていうか、こいつらも何の目的で俺のプロフィールをバラすんだ?そしてハゲ坊主ども!お前らも黙って聞いてるんじゃねーよ!


「そして自由を履き違え、働かずに何年もニート生活。その間もワガママ三昧。自分はパソコンの達人であり、実力を出してないだけと、自分も家族も騙してきた。そしてズルズルと引きこもり、貴重な青春を浪費……二十代も折り返し地点に差し掛かった」


 なんだよ。俺がクズだから、ここで矯正するって?こいつらみたいに?

 大きなお世話だよ。ふざけやがって!


「だから、俺はこいつらとは違うんだって!親はわかってないかもしれないけど、俺には才能がある!ネットでは人気者だ!気の合う友達だっているし……金だって稼ごうと思えば稼げる……ネットビジネスなんてその辺に転がってるし」


 そう説明していると、坊主頭たちがニヤニヤしながら見つめてくる。なんだこいつら?こんなとこに入れられてるボンクラのくせにヘラヘラしやがってよ。


「ああ、いいよ。わかったよ。そっちがその気なら、この施設のこと、包み隠さずネットに書き込んで拡散するぞ!?そしたらどうなると思う?炎上だよ、炎上。大変なことになるぞ?俺がちょっと本気出せば、こんな施設、ブッ潰せるんだからな!」


「ププッ……!」

「……フフフフ」 

「……アハハハ!」


 ハゲ坊主たちがクスクス笑い出す。


「???」


 な、なんだこいつら。なんか可笑しいところあるか?


「公太郎くんは、過去に一度はバイトをしたけど、『給料が低い』という理由でバックレるという責任感の無さ。バイトから逃げた後に、『再チャレンジしよう!』って根性も無い」


「それも聞いてるのかよ……てか、クソみたいな職場で給料も低かったら、働こうとは思わないでしょ?って言うか俺、ちゃんと働いてたんだぞ?……2週間だけだけど。そこを褒めて欲しいものだが?」


「そして『あいつが悪い』とか『親が悪い』 『社会が悪い』と言って、責任転嫁して生きてきた」


 さっきから俺の話は無視かい。

 ここの連中、おおむねこっちの話聞いてないよね。

 てか、さっきからひどい言われようだ。俺の人格攻撃ばっかりじゃないか。


「でも、その、あれですよ!もし、いじめられたり、挫折して立ち上がれなかったり、将来に絶望したりして……引きこもったなら、原因を作ったやつが一番悪いわけで……違いますか?」


 こいつらはなんか勝手にストーリーを作って解釈している。そのあまりの言い草に、俺は思わず反論してしまう。なんで全部が全部、俺が悪いみたいに言われないといけないんだよ。


「さっきから聞いてると、やっぱ駄目だわコイツ」

「甘えが染み付いてますね」

「そういう言い訳をする甘えた心があるから、自分はここに入れられたって理解できる?」


 ついついしてしまった俺の反論。それを施設の『先生』たちは、全否定していく。超絶頭ごなしに。話聞かないと思ったら、今度は聞いても否定かよ。


「いいかい?戸津床くん。ここのみんなも最初はそうだったんだよ?みんな甘えた心で、堕落した人生を過ごしていた。自分のエゴにとらわれ、人の忠告を聞く謙虚さを持ってなかった」


「いやいや、そういう考え方もあるかもしれませんが、僕には……」


 さっきからずっと一方的に喋って、人の話を聞かないのはお前らのほうだろ?なに俺のせいにしてんだよ?


「君の態度はまるで甘えた赤ちゃん。ギャーギャー泣く赤ちゃんと同じだよ?そんな君に必要なのは、生まれたままの姿になって、自分を見つめ直すことなんだよ?」


 とことん話通じないよ、こいつら!

 さっきからエゴだの甘えだの赤ちゃんだの、ずっと自分たちだけの理論をブツブツ言ってるヤバいやつらじゃないか!今もまた妙なこと言ってたし……って、ああ?


「う、生まれたままの姿って……」


「そうだよ。全て脱ぎ捨て、生まれたままの君になるんだよ?」


 この状況でそのフレーズはやめろ。すごい嫌な想像を掻き立てる。


「さぁ、服という余計なプライドを捨て去って、生まれ変わろう?」


 なんだよ、なんで指導員たちは近寄ってくるんだよ。

 その脇に置かれたねずみ色のスエットは何だ。あいつらと、この広間にいる連中のと同じじゃないか。


「や、やめろ……今なら許す、許すから!ネットに悪口書くのもやめるから、頼むって!」


 指導員がにじり寄ってくる。俺は無意識に後ずさりする。

 後ずさりする俺の後ろには、小暮が立っていた。


「今までの自分を捨てて、生まれ変わるんだよ?」


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