6話 強い意志
「君は一体!?ここは立ち入り禁止にしてたはず・・・」
佐々木は混乱した頭で目の前の青年に尋ねた。
「そんなことより早く逃げましょう!こっちです。」
青年に促され、佐々木は今置かれている状況を思い出し、どうやら青年に助けられたということは理解できた。佐々木は確かに今は話をしている場合ではないと思い、二人は立ち上がると青年がやってきた方向へ走り出した。突進を躱されたバケモノは転進して二人の後を追いだした。
創太は助けた警察官と一緒に逃げながら考えていた。
(このままじゃ逃げ切れない・・・!)
後ろから確実にあのバケモノの音が近づいてきている。このままでは追いつかれることは間違いないだろう。今度はあの突進を避けることは難しいことも何となくわかる。創太はあの時のことが脳裏によぎった。あの姿になれれば何とかなるかもしれないと。
(・・・やるしかない。助けるにはやるしかないんだ!)
創太はあの姿になることを決心して、あの時どうやっていたのかを思い返し、あの時と同じように力の限り叫んだ。
「ああああああああああああああああああああああ!!!!!」
「どうした!?大丈夫か?」
佐々木は隣で突然叫びだした創太に驚き、声を掛けた。恐怖でおかしくなってしまったのかと心配した。
「大丈夫だ!逃げ切れる!」
佐々木は警察官として人生の先輩として創太を安心させようと力強く言った。
創太はそんな佐々木の様子と自分の体を見て、あの姿になれていないことに気付いた。
(あれ?変わってない!?なんで!?)
同じようにやってみたのに姿が変わっていないことに自分がただ叫んだだけの変な奴と思われた恥ずかしさや変わらなかった焦り、絶望感で創太の頭はいっぱいになっていた。そして足元への注意が疎かになっていた創太は木の根に引っかかり倒れてしまった。
「うわっ」
「君!大丈夫か!?」
「すみません、大丈夫です!」
立ち上がろうとしたところ、創太は後ろからの気配に気付き振り返った。バケモノが10メートルもない距離まで近づいてきていた。
(逃げ切れない!・・・何が違うんだ!なんで変わらないんだ!なんで!)
恐怖と苛立ちに苛まれながら創太は必死に考えていた。体はあの時みたいに震えている。何が違うのか。それが解ればあの姿になれるという確信が創太の中に何故かあった。そのまま動かなくなった創太に佐々木が声をかけた。
「早く逃げるんだ!・・・くそがぁ!」
そして佐々木が創太を助けようと創太の元へ駆けようとしたその時だった。
「そうか、わかった。」
創太はぼそりと呟き立ち上がると目の前に迫るバケモノを見据えた。
「変身!!」
創太がそう叫ぶと心臓がドクンと大きく鼓動し、体が熱くなった。
創太の元へ向かおうとした佐々木は目の前の光景にまたしても目を疑いたくなった。
「何が起こってやがる!?」
目の前の青年の体が見る見るうちに黒く染まっていき、髪は白く染まりながら腰まで伸びていき、全身が黒く染まり終わると全身を走っている赤い線が発光した。
(俺は、テレビでも見ているのか?)
テレビのヒーローの変身シーンを目の前で見ているような感想を抱きながら佐々木はその様子を眺めていた。
「やっぱり。」
創太は変身した体を見ながらそう呟くとバケモノに向き直り、両手を前に出した。
次の瞬間、大きな衝突音とともにバケモノの突進が止まった。創太はバケモノの突進を両手で受け止めていた。そのまま両手でバケモノを突き放し、距離をとった。
(あの時にあって、さっきまでなかったのはバケモノを倒すという強い意志だったんだ。)
あの時は母子を助けるにはバケモノを倒すしかないと思っていたが、先ほどまではバケモノから逃げ切ろうとしか思っていなかった。どうやらその意志の違いが変身できるかどうかを決めているらしかった。思わず変身と叫んだのは小さい頃から憧れていたヒーローの影響が大きかった。まさか本当に自分がこの言葉を使うことになるなんてと創太は感慨深く思ったが、すぐに気持ちを切り替えて改めてバケモノと対峙した。