5話 警察官の意地
遡ること30分。
「よし、着いた。・・・けど警察がすごいな。」
〇山は警察が入り口や駐車場を閉鎖して一般の人が入れないようにしていた。
なので、創太はバイクを許可を得て近くのコンビニに停めることにした。
(さてと・・・どうやって入ろうかな。)
正面から強引にというわけにはいかないので創太は周囲を見渡して入れるところを探した。
(あそこなら入れるかな。)
さすがにこれ以上うろうろしていたら怪しまれるかなと思ったところで、ちょうど入れそうな獣道を見つけ、創太は山に入っていった。
獣道だけあって人が通るには難があった。四つん這いになり、服を汚し、小枝で傷を作りながらも創太は奥へと進んでいった。
うわああああーーーー
何とか歩ける所まで出たとき突然、創太の耳に人間の叫び声であろう音が聞こえてきた。そんなに大きくはなかったが、確かに聞こえた声の方へ駆けて行った。
「安藤、しっかりしろ!」
佐々木は叫び声をあげて腰を抜かしそうになっている安藤に声を掛け、目の前に現れたモノに銃口を向けた。
(なんだあれは!?あんなでかい蜘蛛なんかいるのか!?)
目の前のソレは姿かたちは蜘蛛そのものだが、大きさは自動車ほどあった。
「バケモノっすよ~!」
安藤は何とか堪えて立ちながら、そう声をあげた。
佐々木は確かになと思いながら、この状況をどうするか考えていた。
「いいか、少しずつ後退するぞ。」
佐々木は全員の命を最優先として、このバケモノから逃れることを選択した。そして、なるべく刺激をしないようにゆっくりと、じわりじわりと後退していった。バケモノはその場から動かない。このままいけば助かると思ったその時だった。
「うわっ!」
「なんだこれ!?」
「ネバネバする!?」
後ろから声がして佐々木と安藤が振り返ると後ろにいた警察官3人が蜘蛛の糸に捕まっていた。
「大丈夫か!?」
「助けて下さい!動けません!!」
「待ってろ!今・・」
「先輩!!バケモノがいないっす!!」
バケモノめ、糸を張り巡らせていたのか!と自分の判断が甘かったことを悔やみ、佐々木は3人を助けようとしたが、安藤の声を聞き、バケモノのいた方へ向き直った。するとそこにバケモノの姿がなかった。周囲を見渡して探していると、安藤が声を上げた。
「上っす!!!」
上を見るとバケモノが猛スピードで向かってきていた。咄嗟に佐々木と安藤はこれを避けた。
「「「うわああああ!!!」」」
「上田!加藤!島崎!」
バケモノが向かった先を見ると糸に捕まっていた3人がバケモノから出される糸によって雁字搦めにされていた。佐々木は立ち上がって助けに向かおうとした。が、声によって止められた。
「佐々木さん!安藤と行って下さい!!こいつが俺たちに夢中になっている間に!」
「ばか野郎!何言って・」
「そうですよ!早く行って下さい!」
「俺たちを無駄死にさせないでください・・・!!」
「・・・くっ」
「先輩!行くっすよ!」
「安藤!お前!」
安藤は涙を浮かべ、唇を噛み締めながら佐々木を見ていた。佐々木はその顔を見て思った。こいつも警察官なんだと。普段はチャラチャラしていてだらしないが、人を助けたいという気持ちは同じなんだと。そして、あいつらの気持ちも汲み取らなければならないと。これ以上被害が広まらないためにも。
「上田、加藤、島崎!助けを呼んでくる!あきらめるなよ!」
佐々木は拳を握りしめて安藤と走り出した。
険しい山中を二人は何度も転びながら走り抜けていった。しかし、無情にもあのバケモノの音が聞こえてきた。意を決して佐々木は安藤に言い放った。
「安藤!お前はそのまま行け!俺がここで食い止める!」
「先輩!何言ってんすか!」
「このままだと2人とも追いつかれちまう!だから行け!」
「でも・・・」
「俺より若いやつをもう失いたくないんだよ、頼む!」
佐々木は足を止め、安藤を見送ると音のする方を向いた。
「来やがれバケモノめ!警察官の意地見せてやる!」
銃を構え、バケモノを待ち構えた。音がどんどん近くなり、そしてついにバケモノが現れた。
バケモノは速度を緩めずに突進してきた。
「くらいやがれっ!」
佐々木は銃を撃った。が、銃弾は空しく弾かれた。万事休すか、と佐々木は目を閉じた。
次の瞬間、衝撃が走り、体は宙に浮いていたが、それは佐々木が覚悟したものとは違っていた。
「大丈夫ですか!?」
聞き慣れない声に佐々木は目を開け、その声の主を確かめた。
そこには見知らぬ青年がいた。