プロローグ
「アイツ…遅いな。」
公園のベンチで座りながら腕時計を見る彼女の名前は一ノ瀬刹那。彼女は自身のショートカットの黒髪を指で退屈そうにいじりながら公園の入り口を見た。
すると、公園の入り口に一人の少女が現れた。彼女はキョロキョロと辺りを見渡し、公園で退屈そうに座っている刹那を見るや笑顔で駆け寄ってきた。
「セツナッ!ごめん待った?」
相当急いできたのか、肩で息をしている彼女の名は刹那の数少ない親友の一人である春風美亜。刹那と幼少期からの付きあいである彼女は学年でもトップクラスの美少女であり、刹那の不愛想とは異なり誰にでも裏表なく接する彼女は誰からも慕われている。おまけに性格もよくて親友もかなり多く、非の打ちどころがない。そんな彼女に見とれるかのように刹那は口を開いた。
「遅いぞミア。お前から映画に誘っといて10分も遅刻とは。道中腰を痛めた婆さんの荷物持ちとかやってたのか?」
「え、すごい!どうしてわかるの?セツナって超能力者?」
「皮肉のつもりが当たってんのかよ…。お前さ、人助けもいいけど悪い大人に騙されるなよ?私が危ない大人だったらまっさきにお前狙うからな。」
「えへへ。セツナにだったら狙われてもいいよ!私の一番の親友だし!」
美亜のその言葉に嬉しさと恥ずかしさがこみ上げて思わず顔をそむける。
(まったくコイツは・・・。よくこんなセリフを恥ずかしげもなく言えるな!バカなのか?)
心の中で悪態をつくも、恥ずかしさで顔が紅潮しうつむく彼女に美亜は心配そうに声をかける。
「どうしたのセツナ?お腹痛いの?大丈夫」
美亜がそっと手を指し伸ばしたその時、刹那は素早く立ちあがり一回り小柄な美亜の背後に回りわき腹に両手を添えた。そして———
「あっ、あはは!やっやめてセツナッ!なんでくすぐるの~!?」
「ふふん!自分から遊びの待ち合わせ時間を指定したくせに、10分も遅刻した罰だ!よって今から10分間くすぐりの刑に処す!」
「あはははははっ!く、くすぐったいからやめてってば!あ、謝る、あやまるから~っ!」
その言葉を聞き、刹那はわき腹から手を離した。
「わかればよい。ほら行くぞ。ぐずぐずしてると今話題の映画『おでん屋七兵衛~この恋の熱はまさしくおでん~』の上映に間に合わないからな」
「はぁ。はぁ。うん、そうだね!私この映画すっごく楽しみにしてたんだ!」
そういうと、美亜は刹那に手をさしのべ笑顔で言った。
「早くいこっ!セツナ!」
「ああ」
刹那は差し出された手を握り返し、二人で映画館へと走り出した。