表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

百合短編小説

クリスマスケーキに百合の花束を

12月22日の金曜日はいつもより急ぎ足で過ぎようとしていた。

しかしその早さの原因は12月にも22日にも金曜日にも無いし、新手のスタンド使いに時間を飛ばされた訳でも多分ない。

ではなぜなのかと聞かれると、まあ簡単に言うと明日から冬休みということだ。

時間はその先に楽しみなことがあればゆっくり過ぎ、憂鬱なことがあれば早く過ぎるらしい。

つまり私の冬休みは憂鬱であることを指す。

「どうしたの、由紀ちゃん。」

憂鬱の原因である花乃が心配そうに声をかけて来た。

影のように真っ黒で輪郭を包みこむようにふわふわなショートヘアーは、生まれつき茶色く、水でも浴びたみたいにストンと落ちている私のストレートヘアーと対に見える。

私は適当に返答しようと口を開きかけるが、花乃を呼ぶ声が私以外の人間から発せられたのを聞くと、私は口を閉ざす。

「なあ花乃」

その声の主は佐藤という男子生徒のものだった。

「なにー?」

「明日どこで待ち合わせればいいんだ?」

待ち合わせ。

その単語が無関係な私の耳を通り、鼓膜を破られたような錯覚を覚える。

「えーと、11時に私の家… わかんないか。じゃあローソンで」

「どこのだよ」

「えっと… ツタヤの近くの」

坦々と話が進んでいくことに苛立ちを覚える。

そのクリスマス前の男女ならありがちなその会話に。

心臓に極細の針を一本一本刺されるような痛み。

佐藤が好きなわけではない。

というかプリントを配るとき以外に会話をした覚えすらない。

花乃がこのような仲になっていたことを親友である私に黙っていたことに対するものでもない。

私はカバンを背負うと、もう人の足があまり見えない床に目線を固定しながら廊下に走り去った。

放課後の廊下は日が照る。

ああ、まだ痛いよ。

あの目を、口を、花を、肌を見る度に血が勢いよく走る。

他の人と話しているのを見ると胸が締め付けられる。

ああ、どうして。

どうして私は女の子を好きになってしまったのだろう。


23日はすぐに来た。

目を覚ます必要が無くなったことで役目が半減された目覚まし時計の針がかすんだ視界に混ざる。

12時半か。

だからといってどうということも無かった。

どうせ冬休みなど宿題と雪かき以外することがないのだから。

なんとなくスマホを開く。

通知があったので見てみると、そこには花乃さんからメッセージと表示されていた。

その名前を見るだけで胸が高鳴る。

ああ、やっぱり好きなんだなぁ。

メッセージを開くと、そこには画像があった。

ケーキを作るための道具や素材が写されていた。

そういえば今日は佐藤と会うんだっけ。

そこで佐藤に渡すのだろう。

明日がクリスマスイヴだからか、それとも佐藤の誕生日なのか。

そんなこと、ケーキを送られる相手が私じゃないのならどうでもよかった。

そんな自分の傲慢さにどこか嫌気がさした。

自己嫌悪も甚だしい。

きっと明日も明後日も花乃は私の隣にいない。

どんなに想いを巡らせても、私は24日も25日もクリスマス特番を見るぐらいしかすることは無いのだ。


本当に何もない23日であった。

それと同時に、非・リア充にとって地獄の二日間の始まりのゴングは鳴らされた。

体内時計が戻ってきたのか、私は朝早く起きてしまった。

朝というものは頭が働かない。

よって朝早くに居間へ行くと親に除雪を頼まれるという法則を完全に忘れて呑気に部屋を出た。

案の定一時間後私は庭でスコップを持っていた。

なんというか諦めのついたクリスマスイヴだが、寒いものは寒い。

寒さの象徴と言っても過言ではないのは雪だ。

なので由紀という名前をしているが、雪は大嫌いである。

溜息が白く色づく。

彼女が隣に居たなら。

そんなこと考えても現実になにも反映されないのはわかっている。

でも...

でも、せめてそんな幻想は見て居たかった。

雪と同化するほど白いジャンバー上下にふわふわのネックウォーマーを付けた黒髪ショートヘアーの小柄な女の子が走り寄ってくる。

「由紀ちゃん!」と優しい声を発しながら走り寄ってくる。

そんな幻想ぐらい、見てもいいよね。

「由紀ちゃん!」

私は顔を上げる。

そこに立っていたのは、紛れもない、黒髪ショートヘアーの小柄な女の子、私が初めて恋した樽沢花乃だった。

「え… なんで? だって花乃は佐藤と…」

私は阿呆面で目を大きく開けながら、独り言のような声で呟いた。

「佐藤くんに教えてもらって作ってきたんだぁ~!見て見て! ...ってそういえばもう送ったか。」

「え…?あれは佐藤にあげたんじゃ...?」

私は涙を押し戻しながら訪ねた。

「いやいやぁ。佐藤くん料理部だから私の貰うぐらいならもっとおいしいの作るよ。それにそんなものあげたら佐藤くんの彼女に怒られちゃうよ。」

「え…?」

「それに私も嫉妬されちゃうしね。」

佐藤彼女居たんだ…

ああ、バカだな、私。

私は自分の右太ももを微かに殴ると、花乃に抱きついた。

「ちょ… 由紀ちゃん…?!」

「もう…!ばかぁ!ばかぁ!大好き…!」



12月23日。

私は大切な人にケーキを送るため、唯一ケーキが作れる佐藤くんに教えてもらっていた。

「花乃、そのケーキ誰かにあげるん?」

「うん。クリスマスに大切な人に感謝として送りたいなぁって。」

「一個言っていい?」

「え、うん」

「今作っちゃったら明日には食べたほうがいいよ。生クリーム使っちゃったし。」

「えぇ!?」

私は八割方完成したケーキを前に声を出して驚く。

「装飾終わった?」

「もう少し… うん、ほとんど終わった!あとはチョコデザインだけ!あとは家でやる!」

「…?チョコぐらいすぐ終わるんじゃ?」

「いーからいーから。」

私は首をかしげる佐藤をそっちのけに片づけを始めた。

数十分後。

私は家に帰りケーキを冷蔵庫に入れると、平らなチョコと先の細いホイップを取り出した。

私の想いを、すべて描く。

そして完成したデザインは、いくつかの百合の花の絵で「大好きだよ」という言葉を囲んだものだった。

クリスマスイヴということで、短編投稿させていただきました。

世界中のリア充が女の子同士だったらいいのになぁ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ