タケシと邪異虎
初投稿です。
王歴150年、人間が統べる人間界は正に絶頂期であった。
魔力に長けた者や武芸の達人、果ては伝説の勇者が突如現れたりとやりたい放題であった。
そして人間と敵対していた魔族と呼ばれた異形の者達は、次第にその居場所を追われて行った。
やがて人間達は魔族狩りを始めるようになり、戦意をなくし逃げ惑う魔族達は次々に駆逐されてしまった。
魔族最後の砦
この砦には魔族に残された最後の戦力が集結している。
「人間共め、目に物見せてやる」
魔族の長であるタケシは、怒りに打ち震え歯を食いしばり血涙を流している。
「お父様……」
その姿を怯え眼で見つめる少女、邪異虎はタケシの一人娘である。
「邪異虎よ、これから父さん達は最後の決戦で敵の長を仕留めるつもりだ」
タケシは邪異虎の頭をそっと撫でながら言う、邪異虎は無言で頷く。
「私達は必ず勝って帰ってくる、それまで此処で静かに待っているんだ……」
「……」
「ゔるぁあぁ!」
警備中の獣人ブランが奇声をあげて戻ってきた。
彼は人間達に両親を手なづけられて、ペットにされてしまったワーウルフの子供である。
「人間共が動き出したか!」
タケシが慌ててクッキーをブランに食べさせる。
今回魔族達は、名軍師である植物人間の長老ムンの作戦により最終決戦に赴く。
「……行ってらっしゃい、お父様」
邪異虎は今出来る最高の笑顔で見送った。
そしてその日、タケシ達は全員死んだ。
その日から邪異虎の修行の日々が始まった。
魔族に寿命という概念は存在しない、死ぬ原因といえば外的要因による死亡あるいは餓死位である。
邪異虎はその特性を活かし、タケシの言葉を守って静かに人目につかずに修行を進めた。
100年……そして500年が過ぎ、人間界は全て人間の物となった。
これを機に邪異虎は魔の者が棲む魔界と呼ばれる世界で修行を続けた。
魔界には人間界等に微塵も興味を持たない、強大な力を持った魔族達が群雄割拠していた。
そこで邪異虎は、既に隠居していたハンフリークラフトという名の、魔界屈指の侠客である悪魔に出会い、魔界で本格的な戦闘の手ほどきを受ける。
そこで修行すること500万年……。
「邪異虎、お前の……勝ちだ」
「師匠!?まさか刃に屍を仕込んでいたのですか!?」
ある日、ハンフリークラフトから突然勝負を挑まれた邪異虎は、彼の用意した刀を使って戦い、この日初めて師であるハンフリークラフトに一太刀を浴びせる事が出来たのだ。
しかし……。
「ふっ、免許皆伝は師である私の命でもって完遂するのじゃ、見事であったぞ!邪異虎!!」
刀に塗られていた屍によりハンフリークラフトは絶命、邪異虎は涙を堪え、神々が棲う聖地天神界を目指しあてのない旅にでた。
数百年が経ち、邪異虎は天神界に辿り着いた。
「身体が……動かない?」
天神界は魔族が立ち入ることを許さない聖域、邪異虎は苦しみ悶えながら地を這い天神界を進む。
事情を聞きその気概に心打たれた主神プレモルは、邪異虎を天神界で生活出来るように計らい、自身の元で鍛錬を積ませることにした。
それから1000万年が経った。
更に力をつけた邪異虎により、天神界は崩壊しかけていた。
プレモルは消滅させられ、主神代理のエビスにより邪異虎は別次元の魔界へと封印されてしまった。
別次元の魔界は邪異虎がいた魔界や天神界とは、比べ物にならない程圧倒的な力を持った魔王により統治された平和な世界であった。
「エビスから聞いている、貴様は俺の女になれ」
否定を許さない圧倒的な強者のオーラが辺りを包み込む、邪異虎には、受け入れる事か死ぬ事しか選択権は無かった。
「そのかわり……ここで修行させて欲しい……」
「……よかろう」
数千万年が経った。
「くっ、貴様……まさか、まさか俺を倒す程に腕を上げていたとは……よかろう、殺せ……」
「駄目だよ、私には貴方は殺せない」
長年付き添ってきた旦那と呼べる相手、邪異虎は殺す事など出来なかった。
「……その代わり、私を人間界に送って欲しい、あそこには大きな借りがあるんだ」
そして数千万年の時を経て、再び人間界に最強の魔族邪異虎が降臨する。
不定期更新となります。