見つけてしまった!
たこ焼き食べたいな〜。
とある白の日の昼下がり、シルヴァンはアマーリエから地下においてあるアイテムボックスから昆布を持ってきてと頼まれた。
シルヴァンは教えられたアイテムボックスの蓋を風魔法で開け、箱の縁に前足を引っ掛け顔を箱の中に突っ込む。そうすると箱の中身がリストとして目の前にポップアップされるのだ。
そしてシルヴァン、気になるものを見つけ、昆布と一緒にアマーリエのもとに勇んで持っていった。
「オン!」
「はい、ありがとう……昆布はいい、タコに青のり、ネギに天かす?あ、ローレンで買ったタコか!忘れてたよ」
「オンオン!」
削り節が踊るたこ焼き画像がアマーリエに念話で送られてきた。
「たこ焼き?そりゃ作れるけどさ。おやつに食べる?ダールさん用に昆布のお菓子作るから出汁とるしねぇ」
「オン!オン!」
嬉しさのあまり厨房を跳ね回るシルヴァンに、たこ焼き作る時に呼ぶから庭で遊んでるように言うアマーリエ。
「さてと。まず一度昆布を戻してっと」
アマーリエはさっさと錬金術を使って時間を経過させ、いつものように昆布の菓子を作り上げる。
『シルヴァン、たこ焼き作るよ』
念話でシルヴァンを呼び出すアマーリエ。厨房に駆け込んでくるシルヴァンの後ろにはファルとアルギスが付いていた。
「あれ、お二人さんいらっしゃい」
「「お邪魔します」」
「珍しい組み合わせですね」
「冒険者ギルドからの帰りですよ。庭ではしゃいでるシルヴァンが気になって」
「あれは絶対何か美味しいものが食べられるからはしゃいでるんだなと」
エヘッと笑う二人に、ハハハと引きつり笑いで返したアマーリエだった。
「オン!」
「はいはい。まあ、軽食というかおやつみたいなもんですけどね。タコを使います」
「「タコですか?」」
「ええ、苦手な方もいらっしゃると思いますので……」
「大丈夫、帝国では食べてたから」
「そうですね。沿岸部の人は食べてましたね」
帝国育ちの二人は問題ないと、アマーリエに作るように勧める。
「……そうですか。じゃ、作ります」
アマーリエは魔導コンロに合わせて作った丸いフライパン型のたこ焼き器やボウルを作業台の下から取り出していく。
「シルヴァン、タコ切ってくれる?」
「オン!」
大きめのタコが好きなシルヴァンは自分好みに風魔法でタコを刻んでいく。その間にマーリエは、薄力粉に冷ました昆布出汁と卵を入れタネを作っていく。
「オンオン」
「ありがとう。……また大きく切ったねぇ。存在感のあるたこ焼きになりそ。さてネギを刻んでと。こんなもんかな。後はこの間仕上げた荒節を削るんだけど……シルヴァン、花鰹にできる?」
燻製した後、乾燥のためにおいていた荒節をシルヴァンの前に置く。
「オンオン!」
頼まれたシルヴァンは、上機嫌で鰹節を作っていく。
「それは何?」
「カツオと言う魚を燻して乾燥させたものです。ファルさん前にたたきを食べたでしょ?あれですよ」
「ああ、こんなふうになるんですか」
「さらに工程を経て枯節とか本枯節という更に美味しい出汁の素になるんですが、まだそこまで手がまわらないんで、荒節止まりなんですよねー」
「「?」」
「ちょっと難しいんですよ、いろいろ。シルヴァン、お皿用意しといて。焼き始めるから」
アマーリエはたこ焼き器を火にかけ、たっぷりと油をひいて、なじませていく。その横でファルとアルギスが興味津々で見ている。
「半球にくぼんでるんですか?なぜ?」
「丸く作るためですよ。まあ、見ててくださいな」
十分にたこ焼き器が熱されたところで、アマーリエはタネを流し入れ、タコを放り込み、天かすと小ねぎをまぶし、その上からさらにタネを流し込む。
焼けるのをしばし待ち、竹串で溢れた生地をまとめ、気持ち焼けてない部分を残しながら返していく。しばし待ちながら、さらに焼け残っていた部分が底になるように返し、少し待って、さらにひっくり返して形を整える。
「「丸くなった!」」
「シルヴァン、お皿」
「オン!」
風魔法で浮かせた木皿をアマーリエに手渡すシルヴァン。出来たたこ焼きを木皿にならべて入れていき、特濃ソースを取り出してかけ、その上に青のりと花鰹をかける。
「はい、出来ましたよ。中はとろっとして熱いですから気をつけて食べてくださいね。一応お水用意しますけど。シルヴァンはどうする?もうちょっと冷めるの待つ?それとも半分に切って冷ます?」
ムームーうなりながら悩むシルヴァンを他所に神官二人はもらった串でたこ焼きを刺して、ふうふう冷ましながら口に入れる。
「「ンフッ」」
ハフハフと口を開けて空気を取り込みながら、口の中の熱の塊をなんとか冷ます二人。それを見てシルヴァンはおとなしくたこ焼きを半分に割って、鼻先で温度を確かめながら程よく冷めたあたりで口に入れる。
「ムフー」
幸せそうに、残りの半分も口に入れ、次のたこ焼きを半分に割るシルヴァン。
「これ、熱いですけど、外はカリッと中はとろっとしてて美味しいです。タコも美味しい」
「アチチ、これなんか癖になるね。ソースと磯の香りがいい」
「気に入っていただけて良かったです」
アマーリエはせっせと次の分を焼き始める。アイテムボックスがあるため焼きたてのまま保存できるからだ。
「ングッ、南の魔女様から念話来ちゃいました……」
念話に集中しているファルを他所に、アルギスとシルヴァンはせっせとたこ焼きをつまむ。
「ちょっと!ふたりとも!私の分も残してください!」
「まだアマーリエが作ってるから大丈夫だよ」
「ファルさん、南の魔女様はなんて?」
「あ、帰りが遅いからどうしたのかと」
「あ〜、でここに誰が来るんです?」
「えへへ、南の魔女様とヴァレーリオ様です」
「あれ、他のみなさんは?」
思ったよりも少ない人数に首を傾げるアマーリエ。
「冒険者ギルドで飲んでますよ。この書類をヴァレーリオ様に届けて、また冒険者ギルドに戻るはずだったんです」
「ありゃりゃ」
「ぬ、では先に兄上の分を確保しておいていいだろうか?」
カレーの時に懲りたのか、先に兄の分を確保しておくことを覚えたアルギスであった。
「はいはい。やけどしないようにちゃんと説明してあげてくださいよ」
「うん」
しばらくして南の魔女とヴァレーリオがやってきて二人に雷を落として(いい大人が道草食ってないでお使いを済ませろと叱った)しっかりたこ焼きを堪能してから、冒険者ギルドに飲みに行ったのであった。
巻き込まれるのを危惧したアマーリエは今回の飲みはパスをした。
後日、食べられなかったメンバーによるたこ焼きを食べてみたいで騒ぎになり、ダンジョンの海でタコ獲ってこいと返したアマーリエであった。