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平和的解決?

ちょっと気分転換したかったんやー

 やんごとなきお方、今日も一癖も二癖もある部下たちと丁々発止と意見を交わし、なんとか政務を終えて私室へ。

 懐からマイ癒やしグッズ【シルヴァン人形】を取り出し、弟との語らいの準備に入る。

 とその時背後から殺気が!

「!?」

「!」

 思わずシルヴァン人形を手に持ったまま、振り返るやんごとなきお方。曲者は喉元に突き入れようとした刃をそのままに、固まってしまう。

「「……」」

 その間、数秒だったのか数分だったのか。

「か、かわいい」

「は?」

「ちょ、それ!その狼の人形!」

「あ?シルヴァン人形か?」

「どこで手に入れたの!?」

 曲者の勢いに、素のままで会話を始めるやんごとなきお方。

「弟が我に送ってきたのだ。見てると癒やされるからと」

「いいなぁ、ほしいなぁ、ね、ね、命と引き換えにそれ僕にくれない?」

「断る!これは我の可愛い弟が、我のためにとわざわざ送ってきてくれたものだ!そんじょそこらに売ってるものとはわけが違うのだ!」

「むぅ、じゃあじゃあ、どこで売ってるのかの情報と引き換え!」

「売っておらぬ」

「えー、詳しく!」

 自慢できる相手が現れて、ちょっと得意そうに色々話し出すやんごとなきお方。

「フフン、よく聞け?これは最果ての地にある村のパン屋が魔狼の毛を使って作る数少ない人形なのだ!年に数体しか作れないとても希少なものでな?しかも、おすわりやらお手、伸びをしていたりと皆違うものなのだ!我の力を持ってしてもすべて手に入らぬ特別なものなのだ!見ろ、この可愛らしさ。ほっこり心が癒やされるであろう!」

「うん、すんごい心がふわふわする。初めて!こんな気持!でもそんなに貴重なの?今年のはもうないの?」

「うむ。その村の冒険者ギルドで精鋭たちが試合った上で、三人がなんとか手に入れらたと聞くぞ」

「最果ての村?アルバン?あそこって精鋭って言ったら僕でも暗殺厳しいのに!潜入するのも難しいし」

「どうじゃ?潜入できるよう便宜を図ってやろうか?この人形のモデルになった魔狼も、さらに可愛いぞ?コカトリスのひなという珍しくて可愛いものもいるそうだ。我もぜひ見たいのだが」

「え?魔狼が可愛いの?コカトリスのひなってどういうこと?」

「応よ。可愛いぞ?魔狼はもふもふして人懐こく甘えてくるし、ひなのふわふわも聞いたところによればほっこり可愛いらしいぞ」

「なにそれ!気になる!見たいんですけど!」

「我の依頼は簡単だ。陰から我の弟を見守り、見たもの聞いたものを我に報告するだけの仕事だ?そなたが殺しを好むのであれば、我の弟やパン屋の娘を狙う馬鹿共を闇から闇へと葬り去ってくれても良い。どうだ?我専属にならんか?」

「やる!この依頼も失敗続きだったらしくて、ギルドの規則で僕に回ってきただけだし。そもそも僕この仕事やりたくなかったし、失敗して僕が死んだことにすれば問題なし!専属契約する!」

「よし、では詳細をつめようではないか」

 やんごとなきお方、弟から届いたパン屋のプリンを出して、胃袋からの懐柔も試みる。

「なにこれ!?ツルンとして甘くてちょっぴりほろ苦くて美味しい!これどこで売ってるの?」

「これも、最果ての村のパン屋で売ってるぞ?どうだ?そこに駐在すれば手に入るようになるぞ?」

「行く!行きます!行かせてちょうだい!」

 モフモフスキーで甘味スキーな暗殺者はちょろかった。こうして、帝国宮殿のやんごとなきお方の私室まで忍び込め、あと一歩のところまで手をのばすことのできるこの世界最高の兇手はあんちゃんの直属となりましたとさ。


 最高の暗殺者が、皇帝暗殺を失敗し、その理由が身代わり人形であったと噂されるようになる。もちろんこれは、暗殺者を一度死んだことにするための便宜上の噂でしかなかったのだが、貴族や暗殺される可能性のある人間からすれば喉から手が出るほど欲しくなるアイテムに違いなかった。そのためその人形の詳細を皆調べようとするが、結局出所がわからず、ただ皇帝陛下がいつも持ち歩いている小さな狼の人形がそうではないかとだけ、陰で噂されることとなった。

 一応それを耳にしたゲオルグが、アマーリエを呼び出すのは当然のことで。何故かアーロンとシルヴァン人形を手に入れた六人が同席していた。

「そなたシルヴァンの人形を作る時何をした?」

「え。何をって言われても、強いて言えば空の魔石の欠片に魔力入れたぐらいですけど」

「あのな、嬢ちゃん。シルヴァン人形を鑑定したら癒やしの加護が付いとるんじゃわ」

「は?加護?なんですかそれ?」

「シルヴァン人形を見た者や持ってる者の心がふんわり暖かくなるようなんじゃ。それだけなんじゃがの」

「害はまるっきりないんだ。落ち込んでる子供に貸してあげたら、浮上しましたし」

 アルギスは自分の持っていたシルヴァン人形を、落ち込んでいた子に貸してあげたのだ。自分が落ち込んでいた時に、シルヴァンが慰めてくれたのを思い出して。

「あー、もしかして?」

「アマーリエ?」

 ゲオルグの低い声にアマーリエがわけがわからないまま答える。

「魔力込める時に、これを見た人がほっこり癒やされればいいなぁって思いながら入れましたよ?加護になるなんて欠片も知りませんでしたけど」

 アマーリエの単純な言葉にそれはおかしいだろと首を傾げる人々。

「……シルヴァンの、魔狼の毛を使ったからじゃァないかしらぁ?」

「南の?」

「魔力のある素材とアマーリエの魔力に癒やしの方向性を与えた結果、加護になったんじゃないかしらぁ。シルヴァンは回復系の魔法も使えるしぃ、魔力自体が癒やし向きなんじゃないかしらぁ?」

「では兄上の身代わり人形の噂は?」

「推測よぉ?殺伐としてる暗殺者の心を癒やしちゃったんじゃないのぉ?この子」

 そう言って南の魔女は自分のシルヴァン人形をアイテムポーチから取り出して見せる。

「ほんと、これ可愛いのよぉ。シルヴァンも可愛いんだけどぉ。癒されるぅ」

「いくらなんでもないわー。暗殺者が癒やされてとか。アルギスさん、あんちゃんに何があったのか直接聞いてくださいよ。そのほうが確実ですって」

「だな」

 アマーリエの言葉にダリウスがうなずく。

「わかりました。聞いてみます」

 直接会話することの大切さが身に沁みているアルギスは、素直に確認することを約束する。

「大隠居様、シルヴァン人形ですけど……魅了じゃなくて加護だから次も作っていいんですかね?」

 次も作ってくれと要求されたアマーリエが確認する。

「アルギス殿に確認してもろうてからじゃの」

 事実確認が大事だろうと全員一致し、その場は解散となった。アルギス経由であんちゃんの暗殺の事実を聞いて、南の魔女の推測が正しかったことに、皆で脱力することになったが。

 いつの間にかシルヴァンを見守り隊が裏で結成されることになるとは誰も知る由はなかった。

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