ブラウニーさん、真冬にダンジョンへ
明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします!
シルヴァンと黒紅は雪の中、アマーリエとアリッサとメラニーをブリギッテの家に届けた後、パン屋の屋根裏に転移した。
「ひぃっ!?」
突如現れた最強の魔物に、お菓子を食べて寝っ転がっていたブラウニーさんは反応できず、お菓子を手に持ったまま硬直する。
『そなた、暇であろう?ツラを貸せ』
「あ、ブラウニーさん、怖くないよー」
黒紅とシルヴァンにそう言われて、顔を至近距離に近づけられた屋根裏のブラウニーさん。
「思いっきり、怖いわっ!」
思わず叫んでしまった。
「えー」
『酷いの、妾は優しいぞ?そなた、この真冬の真夜中に走り回っておるであろう?』
「あれえ?バレてますぅ?」
『ああ。主に聞いたら、屋根裏にずっといたら、運動不足になるからじゃないかと申しておったぞ。それを、妾が見事解消させてやろうではないか!付き合うのじゃ!』
「え、いや、一応私仕事中なんですぅ」
『主の警護と監視なのだろう?ここに居てできるのか?主は薬草園でお泊まり会ぞ?』
「……待機も仕事なんですぅ」
「ブラウニーのお姉ちゃん、あのね?」
「シルヴァンちゃん?」
シルヴァンに服の裾を引っ張られ、ブラウニーさんは顔を其方に向ける。
「みんなに内緒のお仕事があるの。手伝ってほしいんだ」
「内緒は無理ですよ?私の仕事は報告も含まれてますから」
「ああ!上の人はいいの!じいちゃまでしょ?黙ってろって言われるよー。だから大丈夫」
「何がどう大丈夫なんだか?何を手伝うんでしょう?」
「あのね!ダンジョンの主のところにこれから行くの。人手が欲しいんだけど、こういうの頼めるの、お姉ちゃんしか居ないじゃん」
「なるほど、内緒は村の人ということですね。なら私は最適ですね。でも、人手が欲しいなら、裏の冒険者も巻き込みましょう。あいつらも私の仲間ですから!」
「ええー!?」
『なんと!?』
自分だけ面倒に巻き込まれるのが嫌で、仲間も道連れにした、屋根裏のブラウニーさん。
こうして裏の家のブラウニーさんたちは、仲間をぶら下げた黒紅とシルヴァンに強襲されて、度肝を抜かれることとなった。
ところ変わって、ダンジョンの主の居住区。最近は、シルヴァンや黒紅、アマーリエからいろいろ贈られて、住環境がグレードアップしている。
「餅米そろそろ蒸しあがったかな?」
『もう少しです』
「臼と杵は用意できた?」
『準備できました』
ダンジョンの主は、ウッドゴーレムに手伝わせ、餅つきの準備をしていた。
「あ、黒紅ちゃんが来る」
ダンジョンの主が呟くと同時に空間が歪み、黒紅たちが現れる。
「へっ!?」
『主よ!妾たちも手伝いを連れてきたぞ!こやつらは安全じゃ』
「主ー、きたよ!この人たちブラウニーさん!」
「ブラウニーなの?じゃあ、お手伝い専門だね!でも、無理やりはダメなんじゃなかたっけ?」
「大丈夫!みんな優しから手伝ってくれるってー!」
「そうなんだ。皆さん、ありがとうございます」
そう、黒いもやにお辞儀され、緊張を解いたブラウニーさんたちであった。その後は自己紹介をし、ダンジョンの主の指導のもと餅つきを始め、丸餅と切り餅を大量にこしらえた黒紅たち。
シルヴァンが自分のアイテムバッグからあんこを取り出し、つきたてのお餅をしっかり味見したブラウニーさんたちであった。
「こ、腰に来たような?」
ひたすら、杵を奮い続けたダッカの腰は、無理が出たようだ。
「ダッカ、そろそろ引退?」
「アッシュ、こう見えて、ダッカもいい歳なのよ」
「……否定できん。俺も歳だと思ったから、この仕事に変わったんだ。パン屋さん周りは他の案件より危険も少なくて体も楽になると思ってたんだ。隠居前の仕事に最適だとな」
そう言って遠い目をするダッカ。
「あーうん。そうだね。他の案件より、緊張感はあんまないね」
屋根裏のブラウニーさんは同意して、シルヴァンから餅のお代わりをもらう。屋根裏のブラウニーさんは、運動はしたが、餅で確実に消費を上回るカロリーを摂取していた。真冬のランニングは終わらなそうである。
「「「屋根裏の!もっと緊張感もて!」」」
「ブーっ」
「ウッドゴーレムにマッサージ頼む?上手だよ。ささ、そこのベッドにうつ伏せになって。枕を抱え込む感じで」
ダッカは主によって、あれよあれよという間にベッドに寝かされてしまい、ウッドゴーレムの指圧が始まった。
「うっ、そこ!きく!はぁ、いい」
「え、何あれ、気持ちよさそう」
「ミッテさんも屋根裏さんも、フェイスマッサージとかしてみる?」
主に言われるがまま、椅子に座らされ、二人はウッドゴーレムのフェイスマッサージを受け始める。
「長くなりそうだね」
『ウム』
「そうだね」
「じゃあ!主と一緒にトランプしようよ!主ー、トランプ作れる?」
「うん、できるよ。ちょっと待て、ほい!」
そんなわけで、大人たちのマッサージが終わるまでババ抜きをして遊んだ、シルヴァンたちであった。
「ふおー!温泉もすごかったが、マッサージもすごい!体がすごく軽くなった気がする!」
「「いやーん!顔まわりがすっきししたんじゃないあんた!」」
マッサージが終わってすっきり艶々した顔のブラウニーさんたちが、マッサージの成果を口にする。
「「「ダンジョンの主さん!ウッドゴーレムさん!ありがとう!」」」
「どういたしまして」
主は弾んだ声で返し、ウッドゴーレムたちは軽く会釈で返す。
『さて、そろそろ暇するか』
元気いっぱいのダッカたちを見て、黒紅が立ち上がる。
「そうだね!トランプ面白かったー!今日は一日楽しかった」
「村の紙屋さんと細工師さんに今度作ってもらおうっと!」
「いいね!」
アシュとシルヴァンは、トランプを普及させる気満々である。
「「「あー、報告しなきゃけないけど、したらしたで、あとが怖いわー」」」
そう言って、どうするよと顔を見合わせる、ダッカとミッテ、屋根裏のブラウニーさん。
そんなブラウニーさんを見て、大人の事情って面倒だなーと思い、シルヴァンが、主に提案してみる。
「ねえ、主。零階層に、マッサージ屋さん作らない?」
「え、つくっちゃていいのかな?」
『主の領域じゃ。好きにすれば良かろう』
首を傾げる主に、何を今更と黒紅が背中を押す。
「「「雪が溶けたら絶対通う!だからぜひ!」」」
「そう?」
「「「そう!」」」
「わかった。じゃあ、春までに準備しとくね」
「「「お願いしまっす!」」」
やったーと小躍りするダッカたち。
『主よ。今年も一年よろしくの』
「今年もよろしくねー」
「「「春から通いますのでよろしくね!」」」
「うん!みんな、ダンジョンに遊びに来てね!」
こうして、アルバンダンジョンの零階層も人気のある階層になっていくのであった。




