アマーリエ版番町皿屋敷
アマーリエは、帝国のやんごとなきお方から届いたココット皿で焼きプリンを作る。
「四個ってなんか数が悪く感じるんだよなぁ。前世の影響ってようわからん?いいや、五個送っとけ」
『兄ちゃん!今から焼きプリン送るからね!』
念話で一応帝国のやんごとなきお方に連絡を入れるアマーリエ。相変わらず雑な扱いである。
そして、相手の返事をまたず、アマーリエは使用食材のメモと皿が熱いと注意書きを付けて簡易転送陣で、やんごとなきお方に出来たての焼きプリンを転送した。
転送陣は、簡易も大掛かりなものも、受け取り手が受け取ろうとしない限り亜空間に物が溜まっていく仕様なので、今のところさしたる問題は起こっていない。
さて、念話された方は会議中だったので、ちゃっちゃと会議を終わらせるべく指示をとばし始めた。
「……陛下?」
「なんだ?宰相補」
会議が終わり、執務室に戻ったやんごとなきお方に、緑青がじと目を向けつつ、声をかける。そばには宰相も居るため態度は多少敬々し目ではあるが。
「いつも以上に会議でやる気を出していましたけど、理由が?」
「ないぞ。ないったらない!」
「「絶対ある!」」
なぜか、護衛のいつもの二人にまでツッコミを受ける、やんごとなきお方であった。
「あのソワソワは、美味しいものがアルバンから届くときと一緒!」
観察力と勘だけは人一倍鋭い狼人の護衛、ヴォルグがさらに追求する。
「チョッ、いつ我がソワソワした!」
「会議中!後ろからちゃんとみえた!」
「いつもと変わらぬお姿でしたがの?ヴォルグにはそうみえたのかの?」
「うん!宰相様、すんごいソワソワするのを我慢してたよ」
ヴォルグがドヤ顔で、おじいちゃん宰相に報告する。
「バレバレでしたよ」
「ほう、宰相補にもそうみえたのですか」
鼻で笑いながら言いつける緑青に、頷く宰相。
「ぐぅ」
「そうですな。会議から戻るときの浮かれた足取りは、おやつが届いたときと同じでしたな」
竜人の護衛ドラコも後押しする。
「ぬぅ」
「「「何が届いたんですか?」」」
「陛下?おやつが届くとは?」
キョトンとした顔で騒ぐ三人の様子に首を傾げ、おじいちゃん宰相がやんごとなきお方の方を向く。
「むぅ。お前達、なんで宰相のいる前でバラすんだ!内緒だと言っただろう」
「「「あ」」」
「秘密でしたか?」
人のいいおじいちゃん宰相の瞳がうるうるする様子に、諦めて、結局一通り説明したやんごとなきお方だった。どうでもいい秘密ほど守られた試しはない。
「陶器の皿が熱いそうだから、気をつけろ」
やんごとなきお方は簡易転送陣から木の皿の上に載せられたココットと木のスプーンを取り出し、それぞれに渡していく。
「プリン!器が違う?」
お気に入りの一つになったプリンを見て、首をかしげるヴォルグ。
「プリン?」
「宰相様、これ卵のお菓子!甘くて優しい味!ちょっぴり苦い!」
「ほうほう」
「今回は蒸して冷ましたのとは違う、焼きたてのプリンだそうだ」
アマーリエのメモと注意書きを見ながら、説明するやんごとなきお方。
「ほんとだ!縁がカリカリしてるし、ほろ苦ソースが溶けてる!これも美味しい!」
掬ったプリンを吹き冷まして、ヴォルグは口に入れ、ホヤヤーンと顔を蕩けさす。
「ほう、誠に優しいお味ですな。妻やひ孫に食べさせてやりたい」
おじいちゃん宰相も年老いた妻やまだ小さなひ孫の顔を思い浮かべながら、プリンを堪能する。それを聞いたやんごとなきお方は、下町の窯元にココット皿の追加注文をしたのである。
『パン屋の娘!皿を戻すぞ!』
『はいよー』
念話でココット皿の返却をうけ、簡易転送陣を起動するアマーリエ。
「一個、二個……五個、六個……十個?増えた……」
倍になったココット皿に、要求が増えたことをアマーリエは確信する。
「倍々ゲームになったら、この簡易転送陣こわれたことにしよ。うん、そうしよう」
流石にねずみ算になりはしなかったが、少しずつ増える皿に、なんとなく恐怖を覚え始めたアマーリエであったとさ。
落語だとお坊さんの念仏「なんまいだ」に「いくら数えても9枚です!」というオチがつくのがあったり、2日分数えてるのがあったりするんですけどね。




