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村の女衆のお家仕事

合唱曲「夢みたものは」のイメージです。

 今日は、村の女衆が集まって編み物大会である。

 神殿前の広場に布を敷き、羊毛をほぐすもの、糸を紡ぐ者、すでに染色が済んだ(かせ)の糸を二組で糸玉にする者、棒針やかぎ針それぞれが得意な編み方で手編みを始めるもの、様々だ。

 老いも若きも集まって、それぞれの技を披露しながら、村の噂話や遠くにいる親戚達から仕入れた話を楽しげに話す。

 アマーリエもシルヴァンが人化した時用にと冬の毛糸の靴下を編んでいる。

 そして、人化したシルヴァンは両手に糸綛をはめて、糸玉づくりのお手伝いである。相方は人化した黒紅である。

「アマーリエさん、その模様素敵ね。どうやるの?」

 生前覚えたアラン模様を靴下の前面に入れていたアマーリエに、同じく棒針を使って夫用のセーターを編んでいたナターシャが話しかける。

「こうやって、糸を交差させると縄目模様が生まれるんですよ」

 新たに編んだ編み目を移し替えて、網目を交差させて、やり方を教えるアマーリエ。

「あら、面白い」

「こうやって、増し目をして玉を作ったりとかね」

「ほうほう」

 女同士でいろんな編み方を教え合う。

「でけたー」

「主、巻ききったぞ」

 やりきった感満載で声を上げるシルヴァンと黒紅に、ニコニコ笑いながら糸を紡いでいた女衆が、糸綛の入ったかごをどんと置く。

「カセはまだまだあるわよー」

「「おー」」

 女衆から糸綛の山を見せられて、ばったり芝生に倒れるシルヴァンと黒紅。それを見て、毎年やって慣れている子ども達が、二人を引き起こす。

「シルヴァンも黒紅様も、まだまだだなー。もっといっぱい糸玉、要るんだぜー」

「飽きたのじゃ~」

「あう」

「んじゃあ、違うことする?かぎ針で鎖編みを覚えようか?」

「私が教えたげるー」

 アマーリエの言葉にシルヴァンより少し年上の女の子が、かぎ針と毛糸玉を持ってシルヴァンと黒紅に教えにいく。

「これっくらいの長さに出来たら、手遊び教えてあげるから皆で鎖編みの紐作ってごらん」

 アマーリエに言われて、かぎ針で鎖編みの紐を作り始める子ども達。

「あらあら、何が始まるのかしら」

 興味津々の母親たち。

「一人遊びの道具ができれば、しばらく静かに遊んでくれますから」

「それは助かるわねぇ」

 黙々と鎖編みをする子ども達を見て、コロコロ笑いながら編み物を続ける母親たち。

 今日はバックミュージックにと、伝説(レジェンド)級の装備達も神殿広場前に移動されている。穏やかな合唱曲が流れ、のどかな村の女衆の手仕事作業と相まってほんわりした空気が漂っている。

 劇作家のシダーは神殿の階段に腰掛け、そんな村の情景を文章で書き留めながら、次の芝居の構想をねっている。

「パン屋のお姉ちゃん、できたよー」

 手先の器用な子がアマーリエのもとに駆け寄る。

「じゃあそれの端を結んで輪にしてみて」

「うん……できた!」

「んじゃあ、一人で遊ぶ方法からね」

 そう言って、アマーリエはあやとりを教え始める。

「最初はこうやってまず指にかけて……【格子】ね」

「うん!」

「で次に指をこうやって、こうやると【お椀】」

「おお!」

「でさらにこうやると【亀】」

「うんうん」

 一人あやとりを教えていくアマーリエ。手軽に指先の器用値を上げるのに、あやとりほどむいているものはない。

 紐が出来た順に、違うあやとりを教えて、それぞれ教え合うように言うアマーリエ。こうすることで、人に教える方法が身につくのだ。

「一通り覚えたら、みんなで一緒にする方法も後で教えてあげるよ」

「「「「わかったー」」」」

 元気よく返事する子ども達に手を振って、靴下の続きに戻るアマーリエ。

「あれはしばらく一人で遊んでられそうねぇ」

「うちは細工見習いになりたいって言ってたから、指先を鍛えるのに良さそうね」

「結構複雑に指を動かすのね」

「ええ。それに糸で平面から立体と構造を変えていくので、最初は感覚で、その後考えていろいろ自分で造形できるようになりますよ」

 アマーリエの言葉になるほどとうなずく、細工士や魔道具士の奥さん達。

「りえたん、こんがらがった」

 団子になった紐を持って、しょんぼりやってくるシルヴァン。

「順番に、ほどこうね」

 アマーリエの膝に座り込み、一緒に紐をほどき始めるシルヴァン。それを見て他の小さな子も自分の母親の膝に座り込んでいく。

「あらあらあら」

「今日は甘えたさんね」

「シルヴァンのマネっこ」

「みてー、ホウキ!」

「あら上手ね」

 少し上の子もなんだかんだと母親のそばに寄っていき、覚えたあやとりの技を披露する。

「りえたん、おっきい靴下ほしい」

 身振り手振りで、靴下のサイズを表現するシルヴァンに、首をかしげるアマーリエ。

「え?なんで?」

「サンタさんにプレゼント入れてもらう!」

 どうやら、手編みの靴下を見て、シルヴァンの前世の記憶が刺激されたようである。

「シルヴァン、流石にセントニコラウスは異世界までお届けに来ないと思うなぁ。トナカイのソリがそこまで高性能かどうかも聞いたことないよ」

 こっそり、シルヴァンの耳にささやくアマーリエ。

「おおきいくつしたー。りえたんサンタ!お菓子の靴下ほしい!」

 パパサンタならぬ、アマーリエサンタの要求であった。

「私が中身を入れるのか」

「そう!」

「うーん、じゃあ、主神様にお願いしてごらん。主神様の冬の生誕祭のお下がりがもらえるようにいい子にしなきゃね」

 冬の主神の生誕祭のお祝いのお下がりをもらいなよと言うアマーリエ。生誕祭には、ごちそうを神殿に持ち寄って主神にお供えしたあと、夕方にお下がりとして振る舞われるのだ。

「うんー」

 よくわからないまま、靴下にプレゼントを入れてもらう約束をするシルヴァンであった。冬にはクリスマスツリーも要求されそうだと、内心でため息をつくアマーリエだった。


今日は編み物しながら夕方の6時からラジオで第九の予定〜。

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