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ピーちゃんと神殿のちょっとした日常

 パン屋さんで生まれた、コカトリスの雛のピーちゃん。ダリウスと主従契約を結び、ダリウスの従魔になっているが、今はまだ彼の癒やし要員でしかない。

 そして、ダリウスがダンジョンに潜っている時以外は、ダリウスの頭の上に定住し、村の人や村にやってきた冒険者達の腹筋を無理やり鍛えるのが、現在の主なお仕事である。

 ダリウスがダンジョンに出かけている時は、シルヴァンが村に居ればシルヴァンの頭の上に乗って、村の人々や冒険者に癒やしを与え、そうでない時は、ヴァレーリオの頭の上に乗せてもらい、人々の腹筋を恐怖に陥れているのである。

 スルー力の高いアマーリエは、すぐにそれを普通の光景として受け入れ、自分の腹筋崩壊をかろうじて免れている。

 笑いの沸点が低いらしいグレゴールは、未だにひよこ載せダリウスやヴァレーリオには慣れず、ふとした拍子にその姿を見ては必死で笑うのをこらえる日々が続いている。最近では、きれいに割れた腹筋にさらに磨きがかかったとか言う話が出ているようである。


 さて、そんなピーちゃんの普段の過ごし方と言えば、朝一緒にダリウスと目覚め、神殿の朝の訓練に参加するところから始まる。

 腹筋するダリウスの膝の上に乗って、回数を数えるピーちゃん。

「ぴ!」

「よっ!」

「ぴ!」

「よっ!」

「ぴ!」

「よっ!」

「……腹筋するおっさんに和む日が来るなんてぇ」

「いや、南の魔女様、ダリウス殿ではなく、一応ピーちゃんに和んでるんですよね?」

 神殿掃除をするアルギスとその護衛をする南の魔女。時折、魔女様、火の下級魔法を投げつけて、他の冒険者に不意打ちを食らわせる訓練をしているのは親心からである。と願いたい。

「そぉよぉ。くぅ、可愛らしい!なんなの!あたしもコカトリスの雛が欲しくなっちゃうじゃないのぉう!」

「じゃあ!一緒に卵拾いに行きましょう!」

「そこは面倒なのよぉ」

「えーっ」

「ここの鶏ったらぁ、昔コカトリス混ぜた馬鹿のせいで、普通の鶏より凶暴なんだものぉ!」

「そりゃ、毎日生傷絶えませんけどね」

 ジタバタしている魔女様を神殿の鶏たちの卵採集に誘うアルギス。朝のタンパク源でもある卵拾いは、アルギスが鶏をひきつけている間に、遊びに来ている子ども達やコカトリスの雛狙いのマーサが行うお仕事である。毎日自分に回復魔法をかけ、ずいぶんと回復魔法が洗練されてきているアルギスであった。

「よし!じゃあ次は、腕立て伏せするぞ、ピーちゃん!」

「ぴぃ!」

 膝からピーちゃんをすくい上げて、頭に乗せるダリウス。ピーちゃんの掛け声とともに今度は腕立て伏せである。

「ブクク、だめだやっぱり慣れない」

「グレゴール。あんた、まだ、あれ見て笑えるの?」

「マリエッタさんはもう慣れたの?」

「欠片も面白くないわね。おかげでお腹周りが緩み始めたかしら?腹筋鍛えなきゃね」

「……ピーちゃん、恐ろしい子!無意識に皆の腹筋を鍛え上げてたのか!」

「グレゴール、つまんないわよ」

「えー」

 身内をネタに、会話するマリエッタとグレゴール。そして、南の魔女の飛ばしてきた火の玉を無詠唱で消滅させつつ、倍返しするマリエッタであった。

「ちょっとぉ!危ないじゃないのぉ!」

「……どこがです?あっさり魔剣で叩き切っといて」

「まあまあ、落ち着いてよ、マリエッタさん」

「あんたも!距離取りながら言ってんじゃないわよ」

「えー、俺、魔女様の下級魔法どうにかするスキルないし。逃げる他無いからー」

「射抜くとか、ちょっとスキル上げたらどうよ!」

「そんなレジェンド級の魔法を何とかするような、レジェンド級のスキルが早々身につくわけ無いでしょ!無茶言わないで!」

「……やらなきゃ身につかないわよね?」

「え?ちょっと?」

 イラッときたマリエッタが、多重詠唱で下級のファイアーボールを多数作り上げる。照準はもちろんグレゴールである。

「「「ギャー」」」

 逃げ惑うグレゴールとそれに巻き込まれ始める他の冒険者達。ダリウスの方は我関せずと、ピーちゃんと共に開脚前屈中である。

「あんた達!逃げてないで叩き落とすなり、射落とすなりしなさい!」

「わーすごいことになってるよ」

 掃除を終えたネスキオが、その光景を見てドン引きする。

「あ!ひよこちゃん!なにあれ?ちょーかわいい」

 ネスキオが、見たくないものから視線をそらした先には、スクワットをするダリウスの頭の上で、これまた掛け声よろしく鳴いているピーちゃん。それにフラフラと近寄り始めるネスキオ(モフモフスキー)

「スキル【威圧】」

「ぴ、ぴーちゃん」

 ダリウスの毎度の威圧にも耐性がついてきたのか、ネスキオはなんとか言葉を発し、足を踏み出す。ピーちゃんに近付こうとするその姿はまるでゾンビの様!

「ぬっ。威圧が効かなくなってきただと?」

「ピッ、ピピー」

「ダリウスさん〜、僕にもピーちゃんを!」

 威圧を完全に解き、突進してきたネスキオの前に、手甲から盾をおもむろに取り出してスキルを唱えるダリウス。

「【シールドパリイ】」

 ダリウスは突進攻撃とみなし、ネスキオを盾で受け流す。ピーちゃんは足でしっかりダリウスの髪を掴み、衝撃に耐える。

「ぴぴ!」

「ぬぉ!まだまだぁ!」

 何故か始まるダリウスとネスキオの攻防を、やんやと見守るのは魔女のお弟子さん達であった。

「ネスキオ神官すごいですね!AA(ダブル)クラスのタンカーの威圧を解除するなんて!」

「ピーちゃんへの愛がすごいんですよ〜」

「真似できないよ」

「ピーちゃん、好きだけど、愛せない。だって蛇付きなんだもん。蛇だけは勘弁してください」

「「「「!【アイギス(絶対なる盾)】」」」」

 南の魔女のファイアーボールに気づき、慌てて防御幕を張るお弟子さん達。ちなみにシルヴァンから教えてもらい、お弟子さん達の中でブームになっている防御魔法である。この防御のいい面は攻撃を跳ね返すことにあるのだが、問題は攻撃の投射角により反射角が変わるということにある。そしてドーム状に幕が張られるため、思いもしない方向に飛ぶことがままあるのだ。

「「「「あ」」」」」

 弾かれたファイアーボールは、ベルンに弁当の中身チェックをされていたシルヴァンの頭をかすめて飛んでいく。

「きゃうん!」

「「「「ごめん!シルヴァン!」」」」

 首の後ろの毛が、見事にチリチリになったシルヴァン。ベルンとお弟子さん達は慌てて口を押さえて吹き出すのを堪えた。

「……」

 お弟子さん達は今日一日、シルヴァンからブサ顔で見つめられつつ、拗ねられたのであった。

「フッ、参ったか」

「ぴ!」

「……まいりましたぁ」

 ネスキオの跳躍しながらの突進を、飛んでくるゴキブリを叩き落とすかのごとく盾で地面にペシッと叩き落としたダリウス。どうやら、ダリウスのピーちゃんへの愛が勝ったようである。

 ネスキオの顔には、ダリウスの盾の横縞模様(ボーダー)がくっきりついてしまっている。

「ネス、邪さが顔に表れてるよ」

「え」

「ぴぃ」

「ぶふっ」

 アルギスにおちょくられて、慌てて顔を確認するネスキオ。

「ちょ!アル!回復魔法かけてよね!」

「ん」

「何その手?」

 出されたアルギスの手を叩くネスキオ。

「ただほど高いものはないんだぞ。ほれ、お代。身内価格で安くしとくぞ」

「かーっ!パン屋さんのやなとこが似てきたよね!」

「問題ない」

 仲がいいんだか悪いんだかの二人をニコニコ見守る東の魔女。

「アルギスさんにお友達ができてよかったわ」

「ありゃ、元暗殺ギルド一の凄腕だぞ?いいのか?」

 西の魔女が呆れたようにつぶやく。

「あら。世界一の兇手だったけど、今はアルギスさんの守護者だもの。大丈夫よ」

「まあ、東のが言うならそうなんだろうね。ところで、パン屋のところの魔狼が面白いことになっているぞ」

 めったにお目に見るかかることがないパンチパーマの魔狼(アフロオオカミ)を指さして、目を丸くする西の魔女。

「まあまあまあ。焦げちゃって!シルヴァン、大丈夫?南の!あなたちゃんと手加減したんですか?」

 心配する東の魔女に、早速甘えるシルヴァン。

「手加減したから、あの程度で済んだのよぉ。してなかったら、今頃シルヴァンの頭なし死体の出来上がりよぉ。あんた達ぃ!あたし達の居ないところで今後しばらく【アイギス(絶対なる盾)】は禁止!」

「「「「えええええ」」」」

「反撃の方向を制御できるようになるまではぁ、絶対に他でやっちゃダメなんだからねぇ!」

「「「「はーい」」」」

「シルヴァンもよぉ!今から練習よぉ!」

「キュゥ」

 とばっちりを食らい、教えなきゃよかったとがっくりするシルヴァンであった。

「【アイギス(絶対なる盾)】はパン屋さんの考えた魔法だろ?あの子は攻撃魔法が使えないから完全に身を覆う構造にしているが、お前達は前方に盾のように張ってみたらどうだ?ダリウスのように」

 西の魔女に助言をもらい、魔力を早速練り上げ始めるお弟子さん達とシルヴァン。出来上がった盾に、威力を落としたファイアーボールをお互いにぶつけ合って、その盾の具合を見始める。

 流石に伝説級の魔女達から師事をうけるだけあって、すぐに盾型を物にするお弟子さん達であった。

 それを見ていたダリウスが、自分の盾に沿わせて魔力を練り上げる。

「あらぁ、あんたも器用なことするじゃないのぉ、ダリウスぅ」

「あぁ、旅のときにリエの防御幕を見て思いついたんだが、すっかり忘れてた。ピーちゃん、盾の上ではねてみてくれ」

 そう言うとダリウスは盾を上に向ける。そこにピーちゃんが飛び降りると、面白いぐらいに跳ね上がった。

「ぴ!」

「ぴぴ!」

「ぴぃ」

 ポヨンポヨンと盾の上で跳ね返るトランポリン状態のピーちゃんに、南の魔女が顔を引きつらせる。

「なぁにぃ?これ、思い切り物理攻撃したら、自分にそのまま武器が同じ威力で返ってくるんじゃないの?あの子ったら、またとんでもない防御思いついてちゃってもぉ。こんなの、あの子より周りが怪我するじゃないのぉ」

「なかなか、面白い現象だな」

 跳ね上がったピーちゃんをすくい取って、興味津々で盾の表面を撫でる西の魔女。

「西のぉ!面白がってる場合じゃないわよぉ。これ本気で怖い防御だから!」

「ある意味、耐える力さえあれば、相手の自爆で済むな」

 盾の魔力を解いて、感心しきりのダリウスに渋い顔をする南の魔女。

「ダリウスぅ、そりゃそうだけどぉ。あんた、目の前で自分の武器で頭かち割る相手を見たいのぉ?あんたクラスなら、仕掛けてくる相手もそれ相応の実力があるんだしぃ」

「対人戦はよく考えて使う必要はあるでしょうな。受け流しと合わせるとか、あえてこちらからぶつけていって、相手を跳ね飛ばすとか、使いみちはありますよ」

「ああ、あんたクラスならそれもできちゃうか。初心者には使わせたくない防御魔法よね、使う方も下手したら多大な心の傷を負うわよぉ」

「だから、リエはこの防御魔法を最終手段にするんだな」

「……あの子に対人戦で使わせる機会がないことを祈るわぁ」

「……キュゥ」

 出会った時に使ってたよなーと思い出すシルヴァンであった。

「ピピッ」

「ん。そろそろ朝食だな」

 ダリウスは軽く整理体操をすると神殿の食堂に向かったのであった。

 食後、ピーちゃんはヴァレーリオによって体長測定をされる。

「ホイ、動くなよ?」

 天秤秤の片側にピーちゃんを載せ、分銅をそっとおいていくヴァレーリオ。ダリウスもその様子をじっと眺めている。

「うむ。今日も変化なしだの」

「いつになったら、大きくなるんですかね?」

「さてのぉ?そもそもコカトリスの雛を見ること自体はじめてだからな。まだまだ、羽も生えてきよらんしな」

 和毛のままのピーちゃんに、二人して首を傾げるのであった。

 さて、訓練を終えてシルヴァンはパン屋に帰る。が、シルヴァンをさらなる悲劇が襲う。

 微妙な顔をしたアマーリエによって慰められつつ毛を整えられ、パンチな魔狼から、おかっぱ魔狼にされてしまったのである。村の人達と冒険者達の腹筋に喜劇が訪れたのは言うまでもない。見かねたソニアが、なんとかウルフカットに直したのは翌日のことであったとさ。

暑すぎて、頭が働かない……

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