卵・卵・コカトリス?
イースターおめでとう!
春の訪れの日から最初の白の日。季節の女神オーレリアの娘で春の女神であるタローの誕生を祝う日である。
春の訪れ日は年によって違うため、春の女神の誕生祭の日もまちまちである。
これはまだ、リラ祭りの前の話である。
「ねえ、リエ?」
「なんですか?アルギスさん」
今日も今日とて、神殿の卵を持ってやってきたアルギスとマーサと一緒に卵の鑑定をするアマーリエ。もれなくシルヴァンと南の魔女も一緒である。
「明日、タローの誕生祭なんだけど」
「春の女神の誕生祭か。この辺はリラ祭りがあるから、あんま関係ないのよね」
マーサが、熱心に卵を見つめながら答える。
「そうなんですね。領都の方もすずらんの花飾りを飾るぐらいだったしなぁ」
めんどくさそうに卵を見ては、かごに移していくアマーリエ。
「なんかやんない?」
訓練以外さして、やることもなくこのところ暇になってきているアルギスであった。
「なんかですか?いきなり言われても困るんですけど。明日ですよね?」
「オンオンオン!」
「何?シルヴァン?卵おかしいの?」
「オン!」
「「コカトリスの卵!」」
「見せて見せて」
みんなで目に魔力をまとわせて、じーっと卵を見つめることしばし。
「おかしいわねぇ、魔力の量が。アマーリエあんた軽く卵割ってみなさいよぉ」
「え、私がですか?」
「力任せにやるんじゃないわよぉ?」
前回の記憶がまだ生々しく残る南の魔女は、一応アマーリエに釘を差しておく。
「はーい」
南の魔女に言われて、アマーリエは軽く机に、卵を軽くあててみる。
「ゴツッ」
「……割れそうにないですね」
「「やったー!コカトリスの卵!」」
喜び舞い上がるマーサとアルギス。アマーリエの方はというとその卵をじっと見て何やら考え込む。
「これでなんか催事でもするか」
「「はいぃ?」」
「さっきなんかしたいって言ってたじゃないですか、アルギスさん」
「うん」
「この卵に色付して、神殿の庭に隠して、卵探ししましょう!」
アマーリエ、前世のイースターを思い出し、卵探しを提案する。
ちなみに多くの国でうさぎが祝い事のモチーフになるのは、その多産生が理由である。日本や中国でも春をさすのは卯でこれは芽吹きの象徴でもある。
「当たりはこのコカトリスの卵。コカトリスの卵が欲しい人は参加で」
「面白そう!」
「欲しくない人はなんか別のものと交換で」
「いいね!」
「卵はここにいっぱいあるから、卵の殻に彩色したい人を集めて、ついでに神殿の敷地に隠しちゃいましょう」
「ヴァリーに許可……って言ってもぉ、まあ、ヴァリーだしぃ、だめって言わないわねぇ」
目の前のお祭り小僧達を止める人間はいないかと、軽くため息をつく南の魔女だった。
「じゃ、早速!村役場の会議室でも借りて、卵の彩色作業を暇な人に手伝ってもらおうっと」
そんなこんなで、アルバン村でイースターもどきが行われることになったのであった。
暇なそうな村人に声をかけ、村役場に来てもらって茹でた卵(コカトリスのは除く)の殻に彩色してもらっていく。ある程度卵の彩色が終わるとアマーリエがそれを持って神殿に行き、ヴァレーリオに事後承諾で卵を隠していく。神殿の敷地図に隠した卵の位置の印をつけながらである。回収しそこねたゆで卵が腐ったら大惨事になってしまうので。
ヴァレーリオの方は、進入禁止の札を作って、明日進入禁止の場所に札を下げて回る。
シルヴァンは、コカトリスの卵をどこに隠そうか、一生懸命悩み中である。
役場で残りの卵の彩色を管理しているのは、アルギスと南の魔女。彩色できたら、マーサが神殿に運んでアマーリエに渡す。
なんだかんだみんな卵探しの方に参加したいらしく、アマーリエが一人で卵を隠すことになった。
「だって、卵の隠し場所知ってたら、卵探すの楽しくないじゃない」
「ですよねー」
マーサの言葉に頷いて、せっせと卵を隠していくアマーリエ。
「来年は、卵隠す人も増えるといいなぁ。子供だけのイベントにしたいなぁ。あーあ、なんか娯楽増やさないとなぁ」
だんだん卵を隠す場所もなくなっていき、悩み始めるアマーリエであった。
「うわーこの卵かわいい。色彩センスいいね。このまま飾っときたいぐらいかわいい。この辺に隠すかな、よいしょ」
面倒になってきたアマーリエは、何個かまとめて卵を隠し始める。
「……ウッへー!禁断の卵か!?禍々しいこの彩色!誰だよー、こんな呪われそうな色に塗ったの?子供がトラウマ抱えたらどうすんだっての。しゃーない、大人しか手が届かない場所に隠すか。あらよっと」
少し高めの木の枝の又に卵を隠すアマーリエ。なかなか、卵を隠すのも大変であった。
翌日。神殿の礼拝堂はやる気に満ち満ちた人であふれていた。
「思った以上になんかいっぱい人が集まっちゃってるので、卵を一人一個手に取ったらそこで終了ってことで!欲しい卵一個を手に取ってくださいね!コカトリスの卵がいらない人は私に申し出てください。お菓子の詰め合わせと交換します」
集まった人にざっくりな説明をして、いろんなお菓子を詰め込んだ大きなかごを皆に見せる。
「他の卵はゆで卵なんで、食べちゃってください。あ、その前に、見つけた卵を私に見せてくださったらお菓子の袋と交換します。ちなみに、彩色の数が多いほど、大きなお菓子の袋と交換しますからね!コカトリスの卵は一個ですけど、ゆで卵もお菓子の袋も十分あるので焦らず卵探ししてください。怪我だけはしないでくださいね!」
大中小の紙袋を皆に見せて、皆にむちゃしないようにだけ注意するアマーリエ。
「おお!」
「じゃ、探索開始!」
皆のんびりと神殿の外に向かう。皆が皆、コカトリスの卵がほしいわけではないし、昨日なんだかんだ彩色卵が増えて、住人の数より多くなってることを皆知っているので、祭りに参加する楽しみで動いているのだ。
冒険者達も面白そうだと参加していたりして、なにげに盛況だったりする。広い神殿の敷地で、楽しそうにおしゃべりしながら卵探しに勤しんでいる。
卵を隠したアマーリエとシルヴァンは卵探しには参加せず、卵を見つけて戻ってきた人にお菓子を配る役になっている。
「シルヴァン、コカトリスの卵どこに隠したの?」
アマーリエに聞かれて、シルヴァンはニヨーッと笑って首を横に振る。
「内緒なのね」
「オン!」
「見つからなかったときが怖いわ、ハハハ」
よろしくない想像をして、がっくりするアマーリエであった。
「コカトリスの卵と交換であの大きなお菓子の詰め合わせをぜひ!」
ファルは、目に魔力をまとい、必死でコカトリスの卵を探していた。子供たちも、大きなお菓子の袋が欲しくて、一生懸命、彩色の数が多い卵を探している。
「おねーちゃん!」
「ほい、見つかった?」
三色で彩色されたきれいな卵をアマーリエに見せる村の子供。
「おお!おめでとう!はい、この大きなお菓子の袋ね。一気に食べちゃだめだよ?」
「うん!ゆっくり食べるから大丈夫!」
「……この卵の色、なんておどろおどろしいのかしらぁ?」
ちょうど視線の位置にあった木の枝の上で見つけた卵の彩色の凄さに、ドン引きした南の魔女であった。
「あら、南の!それ、私が色付けした卵ですね」
東の魔女の言葉に情けない顔になる南の魔女。
「あんたの美的感覚を疑うわぁ」
「そうですか?」
「なんか呪われそうだわぁ」
「禁呪なんてかけてませんよ?」
「当たり前でしょぉ!」
真顔で首を傾げる東の魔女にブチ切れる南の魔女であった。
「お、卵発見。こりゃ、シルヴァンか?」
目が赤い狼らしき絵がかかれている卵を見つけて、顎を撫でるダリウス。ピーちゃんを頭に乗せて、早速お菓子と交換しに行くのであった。
盛況のうちに卵探しは終わり、アマーリエは見つけ損なわれたゆで卵の回収を行っている。
「アマーリエ!」
「ヴァレーリオ様」
「コカトリスの卵は?誰に?」
「あれ〜?そういや誰も名乗り出てないかも」
「あんた、コカトリスの卵がいらない人はお菓子交換っていったから、コカトリスの卵が欲しかった人は名乗り出てないんじゃないのぉ?」
「あ、その可能性もあるか。シルヴァン!卵どこに隠したの?」
アマーリエの言葉に首を傾げるシルヴァン。
「とぼけて……ないなその顔は。もしかしてどこに隠したか忘れた?」
「キュゥ」
「忘れちゃたのねぇ」
「まあ、生まれたらわかるでしょ」
「放ったらかしの場合どうなるんですかね?」
「さぁ?」
「なるようにしかならんな」
ピーちゃんが生まれて、さほどコカトリスのひなが危険なものではないと知れ渡った今、わりとざっくりな判断を下すアマーリエ達であった。
さて、シルヴァンが隠したコカトリスの卵はと言うと。主神像の手のひらの上に乗っていた。朝夕、主神への祈りを捧げるヴァレーリオが、孵った雛を見つけるのはもうしばらく先のことである。
四月馬鹿とどっちにするか迷った結果、卵を取りました!