やってみたかったらしい
諸事情を踏まえ、一年目編の小ネタ小話集を作りました。よろしくお願いします。
アマーリエはシルヴァンを連れて市場に出かける。
顔なじみになりつつある農家の小父さんに、この冬の間保存していた最期のオレンジ色のシルヴァンの頭より大きなかぼちゃをおまけしてもらう。何やらシルヴァンが目をうるうるさせてかぼちゃを見つめているが、アマーリエは買い物の交渉でまるでその様子を見ていなかった。
シルヴァンのおかげであれこれ今回もおまけしてもらい、意気揚々と店に戻ったアマーリエはシルヴァンから念話画像をもらう。
「え……ジャック・オ・ランタン?シルヴァンさ、かぼちゃもらったからって、なんで季節外れなことをしようとするかな?」
そう、アルバン村は春の初めで、一ヶ月もすればリラ祭りである。ぐるぐるとアマーリエの周りを回り、同じ念話画像をまたしても送るシルヴァン。
「秋まで待てないの?今やりたいって?変なことやりたがる子だなぁ。はぁ、しょうがない。その代わり今日はかぼちゃづくしだからね。このかぼちゃ、ちゃんと食べられる種類だから」
「オン!オン!」
アマーリエはちゃっちゃか、かぼちゃの底部をくり抜き、中身をスプーンで掻き出してボールに放り込む。
「こんなもんかね?」
なるべく薄く削り、外側に顔を描いてナイフで彫り込んでいく。シルヴァンはワクワクしながら、作業を見守っている。
「ほい、こんな感じでいい?」
シルヴァンに出来上がった、ジャック・オ・ランタンを見せるアマーリエ。
「オン!オン!」
シルヴァンは更に、風魔法を使ってかぼちゃの底穴を広げ、画像念話でシーツを要求する。
「……なにをしたいかよくわかったけどさ。この世界でやってもあんまり意味が無いっていうか……」
諦めたアマーリエは二階に上がってシルヴァンに予備のシーツを被せ、頭が出る位置をハサミで穴を開ける。
「これでいい?」
「オン!」
シルヴァンはいそいそとシーツの穴に頭を通し、ランタンをかぶせることを要求する。アマーリエはため息を吐きながら、その要求に応える。
「なんだっけ。この既視感?このあたりまででかかってるのに、でてこない!あーモヤってする。まあ、いいわ。かぼちゃプリンでも作ろう」
かぼちゃおばけになったシルヴァンは、何を思ったか魔法を駆使して浮遊し始める。
「……器用だよねぇ。似合ってるよ、シルヴァン(飽きるまで付き合わされんのかな、これ?)」
浮遊したまま階下に降りるシルヴァンに続いてアマーリエも厨房に戻って、かぼちゃを使い切ることにする。
「まずはペーストにしてっと……。種はワタをきれいにとって、乾燥っと」
お茶会で残ったパイ生地でカボチャのパイをこしらえ、かぼちゃのプリン、ポタージュ、種のローストを仕上げる。
「「ぎゃぁー!かぼちゃの魔物!!」」
「ん?ブリギッテさんとアリッサさんか?」
「オンオン!」
「「シルヴァン!?」」
「おはようございます。うん、それシルヴァン。ごめんね、朝から驚かせて」
「何があったの?」
「どうしたの?」
「いや、やってみたかったらしいんだよ」
「「???」」
「いたずらしちゃったお詫びに、かぼちゃのお菓子あるから、休憩の時にでも食べて」
「「おお!驚かされてよかった!」」
「ハハハ(イタズラかお菓子かの二択なはずの祭りネタなのに、なぜお詫びにお菓子を出してんだろ、激しくコレジャナイ感!)」
万聖節のイブに行われるケルトのお盆の祭りをやりたかったらしいシルヴァンに、空笑いをしたあと深々とため息をつくアマーリエ。
「よく出来てるねーこれ」
「ほんと」
「これかぶるんじゃないのよ、ほんとは。中に明かりを灯すの。秋の豊作の祭りの時に使うんだよ」
「「へ〜。今度の秋の祭りでやる?」」
「夜に、おばけの仮装して、いたずらが嫌ならお菓子おくれって練り歩くんだよ、このかぼちゃの明かりを持って」
「ほうほう」
「面白そう!」
興味津々のブリギッテとアリッサを見て、秋の祭りのイベントを増やしてもいいのかなと考えるアマーリエ。
「「フンギャ〜!」」
「「「ん?新たな被害者?」」」
慌てて、店の外に飛び出る三人。かぼちゃおばけに押し倒されたアルギスと可愛らしい驚きポーズで固まる南の魔女だった。
「シルヴァン、ほどほどにね?マリエッタさんにやっちゃダメだよ?間違いなく魔法ぶっ放されるから」
「オン!」
南の魔女にかぼちゃを脱がされながら、そのあたりはよく心得ていると返事をするシルヴァンだった。
「「アマーリエ!」」
「濡れ衣です。シルヴァンがやってみたかっただけですんで。私は手伝っただけですから」
「あんたぁ、ちゃんと止めなさいよねぇ!あたしの心臓が止まるでしょうがぁ!」
「ですよね〜、魔女さまの心臓は(強化)ガラス製ですし」
「そうよ!」
「まあまあ、かぼちゃのお菓子ありますので、食べて機嫌直してくださいな。シルヴァン、もうやめときな」
「キュゥ」
「秋にまたやればいいし」
「オン!」
「ヨハンソンさんを驚かすといいよ」
「「アマーリエ!」」
ちょうどソニアと一緒にやってきたヨハンソンに見つかり、話を聞いたヨハンソンがジャック・オ・ランタンを没収してしまった。
朝ごはんを買いに来た南の魔女とアルギスはかぼちゃプリンを付けてもらい、ヴァレーリオ用にかぼちゃプリンとパイを持って帰っていった。もちろんアルギスはやんごとなき方用の分も忘れない。
ブリギッテとアリッサは昼にカボチャのパイをしっかり食べ、かぼちゃプリンは家族のお土産に持って帰った。ヨハンソンはつまみ代わりにローストしたかぼちゃの種をせしめ、結局アマーリエとシルヴァンはかぼちゃのポタージュを夕飯に食べただけであった。
「キュゥ」
「お菓子に化けなかったねぇ。まあ、文化っていうのは浸透しなきゃ意味が無いんだよ、シルヴァン。よくわかったでしょ?」
「クゥ」
「秋には、お菓子巻き上げられるように下準備するんだね」
碌でもないことを吹き込む、アマーリエであった。