一話
そういえば、俺は昔から怖い話が好きだった。
妖怪、心霊写真、テレビのホラー特集、ネットで話題の都市伝説・・・。
好きだった。
過去形である。
別に嫌いになったわけではないが、いるのかいないのかよくわからないものよりも、もっと身近に怖いものがたくさんあるのだと知ったし(将来への漠然とした不安、学校の教師etc...)、もっと手軽な面白いものもいくらだって見つけた。(アニメ、漫画、ゲームetc...)
要するに飽きたのだ。
オカルトに。
だってそんな、超常現象なんて一度も見たことないし。
ただ、アイツは。
俺の幼馴染は。
飽きるどころか、オカルト研究同好会なんてものを高校で立ち上げて活動している。
凄まじいまでの行動力である。
きっかけは知らないけれど、なんだかものすごい勢いでそっちの道に傾倒している。
その理由は知らん。
俺が聞いても答えてくれなかったのだ。
「うーっす・・・」
放課後部室に顔を出すと、まだ誰も来ていなかった。
と思ったけれど、一人いた。
あまりに静かで気配がなく、全然気が付かなかった。
「・・・こんにちは」
俺の蚊の鳴くような挨拶に視線だけを一瞬こちらにむけ、軽く会釈するとまたすぐに読書を再開する副会長。
まさしくクールビューティ、さらっさら黒髪ロングのオカルト研究同好会 副会長、桐生 冬歌さんがそこにはいた。
通称、副会長。
通称も何も役職名で呼んでいるだけだからなんの温かみもない話だが、本人がそれでいいと言っているのだからそれでいいのだ。
ちなみに高校三年生である。
「なに、読んでるんです?」
我らが副会長ははらりと本のカバーをめくると、表紙を見せてきた。
なんだか難しそうなタイトルの本であった。
つーか外国語の本だ。
すげえ。
普通にすげえ。
何語かはアホの俺にはわからん。
ばんっ。
その次。
部室の戸を勢いよくあけて入ってきたのは、小動物然とした少女だった。
黒髪ツインテールで小柄。
見た目は可愛い。
見た目だけは。
「暇人の先輩方はさすがにはやいですね。
こんなオカルト研究同好会なんて暗い部活動に貴重な青春を投げ捨てているだなんて、もっと他にやることはないんですかね?
まあ同好会として活動できなくなるのも可哀そうだし、しょうがなく数合わせで私も参加してあげますよ」
「俺が暇人なのは否定しないが、入っていきなり先輩をけなしまくるのはどうなんだ、みやび」
桜小路 雅。
この同好会唯一の一年生である。
「私のことを下の名前で呼ばないでください!
変態!スケベ!どスケベ大魔王!」
スケベて。
それにしてもまあ、キャンキャン吠えること、吠えること。
実際見た目だけは可愛いみやびなので、まったく下心がないと言えば嘘になる。
性格は最悪だが。
俺が下の名前で女の子を呼ぶのなんてコイツと妹と、まだ部室に来ない幼馴染くらいのものだろうか。
ちなみに言っておくが、俺は幼馴染には恋愛感情をもっていない。
絶対、と言い切れる。
今後俺と幼馴染が付き合ったりなんかする可能性は皆無だ。
もし俺が奴を好きになってしまったら針千本飲んでやるよ?
幼馴染を呼び捨てにするのは、彼女が単に、俺の幼馴染だからだ。
まあつまり何が言いたいのかというと、惚れた腫れたの関係ではないということだ。
「別にいいだろうが、それくらい。
お前こそ、そんな”暗い部活動”になんで来てんだよ。
あ、お前・・・もしかして・・・」
「!」
「まだ友達 い な い ん だ
だから寂しくて、話す相手が欲しくて、オカ研になんか来てるんだ?」
「わあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「!?」
いきなりでかい声。
びっくりした。
つうかやっぱり図星だったのか。
そう、みやびは俺がこの同好会に引き込んだのだが、いつ学校内で見かけてもぼっちの彼女を不憫に思ってのことだったのだ。
可愛くてぼっちの女の子なんて、どんな男だって声をかけるだろう。
まあ、ぼっちの理由はすぐにわかったのだが。
単純に性格が悪いのだ。
口が悪い。
ツンデレではなく、ツンツンなのだ。
以上。
「・・・」
「・・・」
しまった。
普通に気まずい。
やばい、若干みやびが涙目になってるじゃねえか!?
ちょっとかわいい。
「こらあ!
女の子を泣かすな!」
ぱあん!
「いてっ!?」
振り返るとそこに立っていたのは我が幼馴染だった。
大きなハリセンを持っている。
「あかり先輩!」
みやびは幼馴染に抱きついていった。
羨ましい。
幼馴染が。
彼女をあやしながら幼馴染は続ける。
「皆、次の日曜日”いいところ”に行くからね」
幼馴染にしてこの同好会を立ち上げた会長、日野あかりはニッコリと笑った。
あかりが言う”いいところ”がいいところだった試しがない。
彼女の一言に、俺はため息をついた。