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死神に飼われた少女  作者: 真紅エレン
6/11

蜘蛛の巣と名づけられた少年



「感謝してほしーなー」


「誰がするかッ!」


 ゴンッと音をたてて少年の頭に拳骨を落とすアルネ。その目の前ではロザリアが呆然と座り込んでいた。

 ギルバートが死んだのを最後に見て意識を失い、気がつけば部屋に戻ってきていた。そこで突然この銀髪の少年が現れたというわけだ。


『やあロザリア! 人間界は楽しかったかな? 僕の名前はトワル、よろしくね』


 それに対してロザリアが反射的に『よろしく』と返してから数秒経った後にアルネが部屋に駆け込んできて今に至る。


「痛ったいなー……彼女がギルバートに興味あったみたいだから親切な僕が会わせてあげただけじゃんかー」


「下手すれば悪魔に襲われてたかもしれないんだぞ!? ビスマスがすぐに気づいてここに戻さなかったらどうなってたか」


「わーお。流石上位の死神だね」


「とにかく! 今回は大目に見ておくが今度やったらタダじゃおかないからな。わかったらはやく帰れ」


「もう少しこの子と話したいんだけど泊まってっちゃ駄目?」


「馬鹿、お前は悪魔だろ!」


 それを聞いたロザリアは思わずトワルから離れる。あんなものを見たのだ。無害だと分からないうちはそうせずにはいられなかった。


「俺が怒られるんだからな。許可証なしで入る奴があるか」


「あー残念だな。だってこの子可愛くない? あ、そうだ。ねえロザリア、今度良かったら一緒に」


「か・え・れ!」


 トワルは渋々「分かったよー」と返すと、姿を消し、部屋にいるのはアルネとロザリアだけになる。


「ごめんなさい。私、ここで眠ってて……気がついたらあの村にいたんです」


 沈黙に耐え切れず、聞かれてもいないのに言葉を紡ぐ。とはいえ何も行きたくて行ったわけではないし、ましてや探ろうとしたわけでもないので謝る必要はないかもしれないが。


「いや、違うんだ。君は完全に悪くなくてその……何か酷いことされてないかとかいろいろと心配で」


「私は大丈夫です」


「あの、ところで……どこまで見たんだ?」


 そう尋ねたアルネはどこか気まずそうで、まるで見られたくないものを見られたような、そんな感じでもあった。


「えっと……私、あの部屋に隠れてからずっと物陰にいました……ギルバートさんが隠れてろって言ってたので……なのでそこから先に何が起こったのかは見えませんでした」


「そうか……まあ、無事で良かった」


 アルネはホッとした様子だった。それを見て咄嗟に嘘をついて良かったと思う。


「ビスマスさん、怒ってました?」


「いや全然。君を見つけた時も『なんだ居たのか。言ってくれれば連れてきたのに』とかなんとか真顔で抜かしてたよ。それにしてもよりによって一番あいつに見られたくない姿晒したの本当最悪」


 何のことかは分かっていた。何でもないように振舞ってはいるけどアルネさんは過去に兄を亡くして……。


「アルネさん」


「ん?」


「悪魔って、怖いですか?」


 ストレートすぎて馬鹿げた質問に聞こえてしまったかもしれないが、死神の世界には普通に悪魔も暮らしているらしいので気になっていた。


「怖い、のかな。まあ全部がそうというわけじゃないんだけどね。でもアスモデウスって奴はハッキリ言って危険だ。今は牢に閉じ込めてるからとりあえず今は安心というわけなんだが」


「牢屋?」


「ああ。どういうわけか関係のない子まで襲おうとしてたから何とか食い止めたけどあと一秒遅かったらどうなってたか……」


 つまりもしもあのまま見つけられていなければ私も命はなかったということだ。


「相手は悪魔だから……牢屋とか簡単に壊せそうですよね」


「いや、その心配はない。壊せるとしてもよほど強力な奴、例えばサタンやルシファー、レムみたいな階級の悪魔だな」


「そうですか……あの、そういえば悪魔ってどんな姿なんですか? やっぱり怪物みたいな感じかな」


「基本は人の姿だよ。これがまた厄介でね……当然ながら普通の人間には見分けがつかないから悪魔からしたら人型をとっていれば都合良く殺せる、というわけでもあるから」


「殺すって……」


 城の外へ出たら危ないかもしれない。実際、この目で人が襲われたのを見たばかりだ。


「まあ悪魔はだいたいやたら殺人は行わないものだけどね。奴らだってあまり目立って面倒な事態になることは避けたいだろう。だからこちらから刺激しなければ基本安全……って俺が言ったそばからビスマスの奴は!」


 突然声を荒げたアルネに驚いたロザリアが「どうかしたんですか?」と尋ねると無言でノートパソコンを開いてみせた。

……死神もノートパソコンなんて持ってるんだ。いやその前にどこから出した。空中にポケットでもあるのだろうか。


「『暇潰しにレムをからかいに地獄に行くから少し遅くなる』ってあいつ馬鹿か! 馬鹿だった!」


「~~!」


 文面を読んだロザリアは想像して思わず噴き出してしまった。


「うん。えっとね、俺はたまに……いや、もうほぼ毎日か。あいつ子供かと思う」


「あの人! そういうキャラなんですね」


「他の奴なら阿呆らしいで済むんだが……ビスマスの言う『からかう』はちょっと笑えないんだよな。相手がレムで良かったよ」


「え、そんなにまずいんですか?」


「まずい。レムは悪魔の中でも温厚だから許してくれるけど、サタン相手だと非常にまずい」


「小ネズミがやっと起きたか。ところで何の話だ?」


「ビスマスがレムからかいにわざわざ地獄に……って帰ってきてるしッ!」


「レムが留守だったので。つまらん」


「お前なあ……」


 レムが留守なら下手したらサタンを標的にしてた可能性もある。そう考えると運が良かったのかもしれない、とロザリアは割と真面目にそう思った。


「ところでアルネ、フェネクスが探してたぞ」


「先輩が?」


「はやく行った方がいいんじゃないか? あいつ、とても気が長いとは言えな」


 言い終わる前に部屋を飛び出して行ったアルネをビスマスは「騒々しい奴だな」と笑いながら見送る。


「あの……ご迷惑をおかけしました」


「迷惑だとは思っていない。あれは事故だ」


「……」


 怒ってもいなければ笑ってもいない。彼の感情を察することは難しかった。


「その」


「別に心配なんてしてない」


……まだ何も言ってない。心なしか早口になっていたし。いや、気のせいか。


「ところで……昨日から気になってたんだが、その身体の痣はどうした。親殺して逃げる時派手にすっ転んだのか?」


「そうです」


『転んだか』と訊いた時、明らかに馬鹿にしてるように見えたがあまり気にならなかった。むしろ相手が先に『この傷が転んでできたもの』だと思ってくれていたので助かった。

 本当のことを説明するのを苦だと思っているわけではない。ただ単に面倒くさいだけだ。そうは言ってもこの人の場合、話しても『そうか』で済ましてくれそうだから気が楽だけど。


「ずっと部屋に居るんじゃ暇だろう。好きに出歩いてて構わないぞ。場所覚えててくれた方が便利だ」


「あ、はい……でも、一応入っちゃいけないところとかありますよね?」


「と言われても俺は間違いなく入るが。この階にはないな」


「そうですか」


 それからビスマスは『仕事がある』みたいなことを言って部屋から出て行った。数秒経ってからロザリアは廊下に出て扉を閉める。探索するとしたらまずはこの階からだ。


「!」


……今、呼ばれたような気がする。いや、間違いなく呼ばれた。人が多い場所なら聞き間違えることもよくあるが付近には誰もいない。

 誰だろう。声をかけてみるか? 駄目だ。不用意に返答するべきではない。

 ロザリアはとりあえず廊下の奥まで進むことにした。数ある扉の中で一つだけ目につくものがある。縦に大きくひび割れた黒い扉が。

 ノブをまわしてゆっくりと手前に引く。その間、ずっと扉の陰に隠れていたが意を決して足早に中に入る。

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