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お見合いしたら幼馴染に拉致監禁されました。

作者: のどか

後半力尽きました。

生暖かい目で読んで頂ければ幸いです。

 見覚えのないフカフカのベッドの上に組み敷かれ、身動きができない状況だというのに不思議と焦りも恐怖もなかった。

 それは私を見下ろしているのがよく知っている翡翠の瞳だったからなのかもしれない。

 何を考えているのかわからない翡翠色を見つめながら考える。一体どうしてこうなったのか。

 確か私はパパのお願いで見合いをしていたはずだ。

 パパは有能だからパパと繋がりを持ちたい財閥の御曹司とか何とかだった気がする。ちなみに外国人だ。

 英語サッパリな私は美味しいごはんを食べてニコニコしてればいいと言われたので引き受けた。

 私を溺愛するパパが本当に私をその人に嫁に出すわけない。

 というかまずお父さんが許さない。所詮パパは私が第二の父親として勝手に懐いているだけであって、血の繋がりなんてない。お父さんの取引先のボスの部下のおじさんだ。お父さんがイタリアでのお仕事の間私の面倒を見ていてくれた優しくて有能でちょっぴり苦労性なのがパパだ。

 そんなパパに頼まれたお見合いをして、それで頑張ったご褒美にドルチェ食べに連れて行ってくれるって、でもその前にトイレに行って……現在に至る。

 あれ?本当になんでこうなった?


「余裕だな」


 苛立ったような声に現実に引き戻される。しまった。考え事しているのがバレたか。

 現在私を組み敷いているのは幼馴染であって、見ず知らずの男じゃない。

 こちらの考えなんてお見通しだ。私はやつの考えていることなんてちっともわからないけど。

 だって、何でいきなりこの体制?


「あの、ちっとも状況の把握ができてないんですけど」

「そうか」


 いや、そうか、じゃなくてね。

 なんで顔近づけてくるの?なんで私息できないの?なんで口塞がれてるの?


「んぅ、」


 変な声でたぁああああ!!そしてどうしてまたキスをする!!

 こいつホントに変なものでも食べたんじゃないだろうか。

 自慢じゃないがこの幼馴染はモテる。パパのボスの息子だから地位も財産もあれば顔もいい。おまけに最近じゃおじ様(パパのボス)のお仕事を手伝いはじめたとかなんとか。そりゃモテない訳がない。

 なんだかんだで私がこっちに滞在している間は私に構ってくれるけれど、綺麗なお姉さんを連れているのを何回か見たことがある。それも全員違う人。

 そんなやつにどうして私キスされているの?初めてなのに。

 そう思うと悔しくて悲しくて苦しくて涙が出た。


「っ、そんなに、嫌か」


 幼馴染の、レオンの顔が歪む。それこそ今にも泣きだしそうなくらいに。

 私が何も答えられずにいるとレオンは苦しそうな顔をしたまま私をじっと見つめる。

 しかしそれもほんの少しの間で控えめにノックされたドアをギロリと睨むと体を起こし私の頬をひと撫ですると部屋を出て行ってしまった。


「なんだったの……?」


 というか、ここはどこだろう。

 泣いていても仕方がないのでレオンがいなくなった部屋で改めて状況を整理する。

 見たことない部屋だ。おじ様のお屋敷は小さなころに探検したし、イタリアに滞在するときはホテルじゃなくておじ様のご厚意でお屋敷でお世話になっているからそこならわかるはず。窓の外からの景色とかね!


 ……。

 見覚えない。

 全くない。

 こんな庭知らない。

 チョットマテ。ここはおじ様のお屋敷じゃないの?私はすぐさまドアまでダッシュした。


 ガチャガチャガチャ!!


「か、鍵がかかってる。嘘でしょ……。

 ちょ!誰かー!パパー!爺やさん!アイシャさーん!!」


 必死に助けを呼ぶ。けれど答えてくれたのはパパでも優しい爺やさんでもメイドのアイシャさんでもなかった。


「お嬢様、御用でしょうか?」


 でもそんなことはどうでもいい。とりあえずここから出してください。


「あの!鍵がかかってるみたいなんです!開けてもらえませんか!!」

「申し訳ございません。旦那様がお帰りになるまで開けてはならぬと」

「はぁ!?おじ様がそんなこと言うわけないじゃないですか!!」

「シオン様ではありませんレオン様のご命令です」

「……は?レオンが、旦那様…??」

「はい。この屋敷はレオン様のものにございます」

「………。

 そう言えば成人の祝いに別荘貰ったとか言ってたような……」


 いやいやいや!おじ様間違ってる!プレゼントの規模がおかしい。金持ち怖い。

 そしてあのバカは一体おじ様からのプレゼントをどんな使い方してやがるんだ。これじゃまるで監禁じゃないか。

 ……。

 え、私もしかして監禁されてる?

 いやいやいや!まさか、まさかね!


「ドアの前で何突っ立ってやがる」

「レオン!私、そろそろ帰らなくちゃ。パパとお父さんが心配して」


 帰ると言った瞬間レオンの目の色が変わった。

 ひどく凍えた目をしたレオンはまた私の唇を塞ぐ。

 逃げられないように腰をホールドされ、がっつり頭を固定されて息苦しくなるまで、いや、息苦しくなっても唇を重ねられる。


「逃がさない」


 キスの嵐のせいで足腰に力が入らなくなった私を抱き上げてレオンはベッドの方へと向かう。

 優しくベッドに下ろされてそのままレオンは私の上にまたがる。

 じっと私を見下ろす翡翠の瞳。怖くない。怖くないけど、苦しい。

 どうして、どうしてそんな顔しているの?被害者は私でしょう?

 頭の上で一つにまとめられた手をよじって拘束から抜け出そうとする。けれど戒める手はちっとも緩まなくて、それどころか強くなって私の動きを封じる。


「サクラ」


 私の名前を呼ぶ声はひどく苦しげだった。


「何がそんなに苦しいの?」


 素直にそう尋ねると翡翠の瞳が僅かに揺れた。

 この体制がどういう体制かわからない訳じゃない。

 レオンが何を思ってこんなことをしているのかなんてわからないけれど、それでもこのまま進ませるのがよくないことくらいわかってる。私にとっても、レオンにとっても。

 そして私を見下ろすレオンの瞳に迷いがあるのだってちゃんとわかってた。

 だから、レオンが自分で止まれないなら私が止めてあげないと。私は必死に言葉を紡ぐ。

 一度この状況を忘れて、ただ苦しそうに、助けて欲しそうに私を見下ろすレオンのために。


「そんな顔しなきゃいけないならやめときなよ」

「っ、おまえの、せいだ」

「うん」

「お前が勝手に見合いとかするから」

「うん」


 手の拘束を解いて、レオンはぽすんと私の肩口に頭埋めた。それを優しく撫でる。

 ひとまず、安心していいのか。これは。


「こら、その不埒な手はなんだ」

「サクラは俺のだろう?」

「は?なんでそうなる。私は誰のものでもない。しいて言うなら私のものだ」

「いやだ。俺だけのものにする」

「ちょ、ま、レオ、ぅんんっ」


 揺れていたはずの翡翠の瞳は強い意志を宿して私を見下ろす。そして近づいてくる顔。唇を塞ぐ柔らかな感触。体を這う大きな手。


「いい加減にしろ―――!!!パパー!お父さん!!」

「ベッドの上で他の男を呼ぶなんていい度胸だな」

「え?ちょ、嘘!レオン?レオンさん?」

「諦めろ。

 サクラ、愛している」

「っ、」


 不覚にもときめいた。

 低く甘く囁かれた声に。

 今までとは比べ物にならないくらいに優しく触れる唇に。

 熱を宿した翡翠の瞳に。

 うっかりこのまま流されてしまってもいいのではないかと思うくらいに不思議と心が満たされた。

 射貫くように私を見つめる翡翠から目をそらせなくなる。


「れおん」


 回らなくなった頭でただレオンの名前を呼ぶ。舌足らずな、まるで迷子の子供のようなその声をひどく満足そうな顔をしたレオンが受け止めた。

 顔じゅうにキスの雨が降る。額に、瞼に、鼻に、頬に、そして唇に。

 これは本気でやばいかもしれない。抵抗しなきゃいけないのに、抵抗しなきゃいけないのはわかってるのに、頭がふわふわしてちっとも言うことをきかない。


「サクラーーーー!!無事かーーーーーーーッ!!!」


 そんな時、ドアを蹴破るようにパパが入ってきた。


「チッ」

「おまっ、レオンんんん!!!何やってやがる!!!

 さっさとサクラの上からどきやがれーーー!!このバカ息子がぁああああ!!!」

「テメェの息子になった覚えはねぇよ!」


 それでも渋々私の上からどいたレオンによって私の体も起こされる。

 パパは私の側から離れようとしないレオンを突き飛ばして私をぎゅうぎゅう抱きしめて無事でよかったと何度も囁く。

 レオンはそれをひどく面白くなさそうに眺めていた。


「いい加減サクラから離れやがれ。ロリコン」

「だれがロリコンだ!!テメェ自分が何やらかしたかわかってんだろうな!!」

「求愛」

「ふざけんなクソガキ!!立派な拉致監禁強姦未遂だ!!」

「ざけんなサクラは拒否しなかった和姦だ」

「怖くて抵抗できなかっただけに決まってんだろ!どんだけポジティブだ!

 というかボスに報告してテメェはサクラに接触禁止だからな」

「サクラは俺の嫁だ。んなの認められるかよ」


 ぎゃあぎゃあとパパと言い合うレオンに突っ込みたいところは多々あるけど、私がいつレオンのお嫁さんになると言いましたか?というか散々拒否しましたよね?あれはスルー??


「桜、バカどもは放っておいて帰るよ」

「お父さん!!!」

「怖い思いをさせて悪かったね」

「大丈夫、絶対来てくれるって信じてた」

「そう」


 そう言って頭を撫でてくれるお父さんにほわわんとなりながら私はパパとレオンを放置して日本に帰った。

 うっかりレオンに流されそうになったことは黒歴史として記憶の彼方に処理した。


 今日のことすべてを黒歴史として忘れることにした私は数年後、レオンの怒涛の攻めに負けてレオンの宣言通り私がレオンのお嫁さんになっているなんて想像もしていなかった。





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― 新着の感想 ―
[一言] 読了飛ばしたきり、感想欄にお邪魔するのが遅くなりました。 強引男子、いいですよね。 そしてお約束のお預け感。 あれ? 私にMの素質などあったかしら? なんて思ってしまったw この物語の続き…
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