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R & B  作者: たむゆら
3/4

第ニ章 鈴

俺たちが教室に入るのとほぼ同時に学校の鐘が鳴り響いた。


ちなみに俺たちの学校には教員はほとんどおらず、事務所にいる教員を合わせても10もいるかいないかだ。


では、誰が俺たちに勉強を教えているのかというと、机に備え付けられているPCが体育以外の教師兼、教科書の役割になっている。


PCには備え付けのAI(人工知能)が個別に備え付けられており、それらがそれぞれ生徒たちに合わせて個別に指導してくれる。


出席の有無は俺たちの携帯に学校用のIDとGPSがダウンロードされており、教室に端末が入り、AIが本人認証を指紋と音声でおこなう。


よって、ギリギリ教室には入れたものの認証が間に合わなかった俺たちは遅刻になるというわけだ。



「結局また遅刻じゃーん。」


羊が盛大に肩を落とす。

そんな羊に小学生のもののような幼い挨拶と慰めが羊の前のPCから流れた。


「羊ちゃんおはよー。そんなに落ち込まないで、羊ちゃんのGPSは時間内に教室に入ってたからこっちで間に合ったことにしといたから〜」


「え、ほんと!?さすがリッちゃん!!ありがとう〜」



「あ、わ、私も、トラが間に合ったことにしておいたからっ」

今度は俺のPCから声が流れる。


今の小学生みたいな声を発したのは羊のPC内にいるAIのRI352C通称リッちゃん。


俺のPCから流れた綺麗な声なのにすこしトゲがある喋り方のMIO368C通称ミオ。


「ありがとう、ミオ。いつもすまない。」


「そ、そー思うなら毎日ちゃんときなさいよっ」


「明日は頑張るよ」


「あっそ。」


なぜかトゲトゲしい言い方をしているのにほを赤らめている。


すこし離れた席では犬が

「な。なんでお前だけまた寝てるんだよー。」


「すまねー犬。朝には弱いんだ、諦めてくれ」


「そんなー、また俺だけー」




とこちらとはすこし違った内容を彼のAIであるOYS311C通称オヤッサンと交わしていた。


AIは全て女性がモデルとされ、声も画面に現れるアイコンもすべて20代未満の女性のものだ。(そのほうが親しみやすい、かららしい)


ちなみに呼び名はそれぞれのパートナー(生徒たち)が個人できめられる。




そんな犬とオヤッサンのやり取りを見てクラスの何人かがクスクス笑っていると


「お、おはよー、羊ちゃん、と、とらくん。」

と、おどおどとした声が俺の隣の席の生徒から発せられる。


「おはよう、あかね!」


「おはよう、西浄。」


彼女は 西浄 あかね (せいじょう あかね)

羊とは中学からの仲らしい、二年生になって俺ともよく(おびえながら)話す程度の仲になった。


「羊ちゃん、これで1週間連続遅刻の記録回避だね」


「まーねー、やればでにるこなのよ、私は」


「まーリッちゃんのおかげで、だけどな。」


羊が自慢げに言うので調子に乗る前に釘をさしておく。


「まーフツー1週間連続で遅刻するやつなんていねーんだけっ…くはっ…」


離れた席から犬がちゃかし声を発し、終わる前に羊から投げられた鞄で顔面を強打してそのまま倒れこむ。


「ほんと、二人とも仲良いねー。」


「ちがうわよっ」

「ちがうからなー」


あかねの指摘にふたりして否定する。


「あなたたち、もー授業は始まってるのよ、早く席についてテキストをすすめなさいっ!」


「「はーい。」」


今、羊と犬に怒鳴ったのはこの学校の風紀委員長兼、生徒会副会長の奏霧 玲那(そうむ れいな)


ちなみに俺はというと、とっくに席について我関せずとテキストにむかっていた。


羊にうらめしそうな顔で睨まれたがきにしない。


そんな朝の慌しいやり取りが終わり、俺たちはそれぞれ黙々とその日課せられたテキストをこなしていった。


授業は一授業につき一時間、これが一日に六授業おこなわれる。


休憩は授業と授業の間に10分。

四時限目の後には40分の昼休憩がある。



俺たちはそのうちの四時限までを乗り切り、今は昼休みになっていた。


「とらー、昼飯たべよーぜー。」


「あぁ。そーだな。」


弁当箱を持って寄ってくる犬に俺は答えながら自分の弁当を鞄から取り出す。


シャリーン。


取り出した弁当箱にひっかかって、今朝まぎれこんでいたリボン付きの鈴が床に綺麗な音色とともに落ちた。


「はい、とら…」


羊が拾って俺に手渡そうとした時、なぜか途中で手を止め鈴とにらめっこをはじめた。


「ん?」

「どうしたんだ?」


俺と犬が不思議そうに尋ねる。


「ねぇ、この鈴、朝見たあの人のつけてたのと似てない?」


「あの人って朝、階段で見かけた人のことか?」


「あ、確かににてるかもなー。」


俺はあまりよく見ていなかったので覚えていないが、羊と犬は彼女の付けていた髪留めを覚えていたらしい。


「もしかしてとら、あんまりにもあの人が綺麗だったからこっそり家に忍び込んで…」


「俺は今日、はじめてあの人をみたんだぞ?」


「ほんとにー?」


羊がしつこくたずねてくる。


「まぁ、はじめて見たって言うのはほんとじゃねー?なんせこの俺があんな美人しらないはずがないしなー。」


助け舟のつもりか、犬がおどけて言う。


「それにしたって似すぎてるわよ。」


「後で本人に聞いてみればいいんじゃないかー?」


「何年の何組の、名前さえ知らないのにどーやって聞くのよ?」


犬の提案に羊がもっともな答えをかえす。


「そ、その人の特徴的な見た目とかおぼえてないのっ?し、調べてあげてもいいけどっ」


どうやらミオが生徒の名簿から彼女を探し出してくれるらしい。


「確か、髪はまっくろでソックスも真っ黒、髪どめに鈴つきのリボンをつけてて、かなりの美人……だったわ。」


「わかったわ、ちょっとまってなさい。」


羊の回答からミオが検索を始める。


……


「おまたせ、たぶん、その人は甘凪 鈴音(かんなぎ すずね)ね。3年B組に少し前転校してきたばかりみたい。」


「あれ、そんな名前だったか?」


俺がつぶやくと皆んなが不思議そうに見てくる。


「知らないんじゃなかったの?」


羊がまた疑わしげにきいてくる。


「い、いや、なんとなく違った気がしただけだ、すまない、俺の勘違いだ。」


ミオが表示してくれた生徒の写真は確かに今朝みたあの女に間違いない、だがなぜかさっき聞いた名前がしっくりこなかったのだ。


「まーこれで名前もクラスもわかったんだから今日の放課後にでもいってみよーぜ。」


羊はまだ腑に落ちなさそうだったが犬の発案に反対はしなかった。






俺たちは今日の残りの二授業をこなし、犬の発案通り、甘凪 鈴音を訪ねにいった。


のだが、犬が「あ、今日たしか俺の集めてる漫画の発売日だったー。羊、お前も付き合っくれー。」


羊「え、いやよ、ひとりでいきなさい。私はとらと甘凪鈴音のところにいってくるから」


犬「まーまーそーいわずにさ、それに甘凪さんもいきなり後輩3人が押し寄せてきたらこまるだろー」


羊「そ、そうかもしれないけど、でもとら一人でなんて…ってちょっとー。」


あかね「あ、まって、羊ちゃ〜ん」


犬「じゃーまた明日な、とら!がんばれよー。」


といいながら抵抗する羊を引っ張ってとっとと帰ってしまった。


しかもなにやら含みあるニヤニヤ笑いを浮かべながら。


(普段犬は、羊に圧倒的に力で押さえつけられているのに、こういうときだけはなぜかその立場が逆転する。)


というやり取りがあり、結局俺一人で彼女のいる教室へ向かうこととなった。


彼女の教室は3-B、四階の角にある教室だ。


階段を登り、その教室の前まで来ると、教室のドアがあいており、そこからちょうど席に座り外を眺めている彼女が見えた。


また俺の鼓動がはやくなる。


なんと声をかけていいかわからず、その場で固まる。


彼女は窓の外をみたままで俺には気がついていないようだ。


教室には他に人はおらず静寂が俺をしばらく包こんだ。

とりあえず名前を呼べばいいか、という当たり前な考えにいたり、声を発する。


「き、霧森さん」


あれ、俺いま誰の名前呼んだんだ?

彼女の名前は甘凪 鈴音だったろ?


俺は少し焦ったが、彼女は声が聞こえたことでこちらに振り向いてくれた。

俺がとっさに名前を呼び直そうとしたとき、彼女の顔を見て喉が詰まった。


彼女の顔は驚愕と恐怖が混じったような表情をしていた。が、それはすぐに消え、というか俺の視界から彼女そのものが消えた。

と思ったときには彼女は俺の目の前で俺の首にシャープペンシルを突き立てていた。


早すぎてみえなかったのか!?


「あ、あの…」


「なぜその名前を知っているのですか?」


「え?」


「あなたが先ほど呼んだ名です」


「わ、わからないです、なぜかとっさに口から出て。」


「誤魔化しはいりません。はぐらかすつもりなら貴方の喉を貫きますよ。」


いつの間にかシャープペンシルは真っ黒な細い刀のようなものにかわっていた。


さっきからなにが起こっているのかわからない。


俺はパニックになりながらも、手に持っていた鈴を差し出す。


「こ、これ、1年ほど前に俺がなぜかもっていたものです、貴女の付けているものと似ていたので、確認しにきただけです。」


「なんで、それが…」


彼女はまた少し驚き、そして刀をおろした。


「そういうことですか、わかりました。」


「わ、わかってくれましたか?」


「あなたも組織の一員なのでしょう?」


「そ、そしき?なんのことですか?それとその刀みたいなの、いつ、どこからだしたんですか?」


疑問がいっきに口からこぼれてしまう。


「あなた、まだとぼける気?そ、それとも、他の組織のスパイ!?」


また刀を構える。


「ち、違いますって。本当になにもしらないんです。」


両手をあげて否定する。


「ほ、本当になにもしらないの?」


俺は首を縦にふる。


「ということは、あなたもしかして…」


彼女は急に黙り込んで考え事を始めだした。


俺はもう何が何だか全くわけがわからない。

だが、なぜか彼女に敵意を向けられても、刀を向けられても驚きはしたが恐怖はなかった。

それどころかさっきからどこか懐かしい気持ちが湧き出てくる。


だが、さっきのはなんだったんだ?

今彼女の手にはシャープペンシルが握られていて、先ほどまで俺に突きつけていた刀は煙のように消えていた。


それにさっき声をかけた時、窓際の席からドアまで一瞬で詰め寄ってきた。

彼女は人間じゃないのか?


という馬鹿げた思想を巡らせているうちに彼女が顔を上げ、俺に告げた。


「あなたには知っておいてもらわなくてはいけないことがあるようだわ。私についてきて。」


そういうと返事も聞かずに俺の手首をつかんで引っ張っていく。


彼女が向かったのは階段とは逆方向、つまり角にあった教室の前の廊下の突き当たりだった。


すると、壁がさっきの刀の時のように霧のように消え、突き当たりだったはずの廊下がまだまっすぐ伸びている。


そのまま少し進み、あるはずのない3-Bの隣の教室のまえで立ち止まる。


俺はますますなにが起きているのかわからなくなった。

そんな俺に彼女が声をかける。


「まずはじめに、あなたを巻き込んでしまったこと謝るわ、ごめんなさい。けど、これはあなたのためだから。」


俺の手をはなし、正面から見つめてそういうと教室のドアを開けそのまま中に入っていく。


俺はしばらく迷ってからその後を追った。


教室のなかはまだ夕方だというのに完全な暗闇に包まれていた。

ドアから入る光はすぐに途切れ、俺の目の前は、1メートル先すらも全く見えない。


俺が数歩すすむと…


ガンッ。


扉が勢いよく閉まる音がした。


ドアからの光が消え、自分の足元すら見えなくなる。

もうどこがどの方向かもわからない。


「霧森さん、どういうことだ?」


返事はない。



すると突然背後に誰かの気配を感じた…

その時には俺は首を切られていた。


首を切られたことは、当たり前だがない。

だがなぜかその時、おれは自分の首が胴体から落ちるのを知覚した。


意識の消える寸前、あの綺麗な鈴の音と金色のひかりが見えた。



そして俺の意識は暗闇へと沈んでいった。



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