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一塁ベースは遠い

野球を扱った青春小説です。

処女作でもあり、手厳しい意見、感想、お願いします。

内角低目の変化球、いつもの通り僕はその球に手を出してしまう。結果はいつもと同じサードゴロ。一塁は遠く、走っても間に合わない。

「アウト」

審判の手が上がる。一塁ベースを踏むこともなく、僕はいつもの通り少しうつむきながらベンチに戻る。

 監督は腕を組んでいて僕の方を見ようともしない。僕は、その横でヘルメットを脱いで、うつむいていた。監督からの指示はなにもなく、僕は逃げるようにその場を離れ、ベンチの隅で試合を見ていた。 

 僕の代わりに一年の吉田がレフトに入り、今日の僕の出番は終了。後は見守るだけだった……。

 


試合後のミーティングが終わり。今日の部活は終了。チームメイトは一緒にラーメンでも食べに行かないかと誘ってくれたが僕は断り、一人グラウンドに残った。

さっきまで試合をやっていたグラウンドは嘘みたいに静かだった。足跡一つないグラウンドの中を僕は、一歩一歩踏みしめるように歩いて行く。ネクストバッターボックスで一旦止まるが、後はバッターボックスまで足を止めることなく歩いて行く。僕は、バッターボックスに入る。バットは持っていない。でも、いつものフォームで構える。ピッチャーはいないがマウンドを睨み付ける。マウンドはいつもより近く見える。そのまま、ないバットでスイングし一塁に走ろうとする。だが、一塁ベースはなかった。そういえば、グラウンド整備をしたときに、ベースを抜いたんだった。なぜかそれが無性に面白くて笑いが止まらなかった。

ふと、空を見上げると、朝が夕日で真っ赤に染まっていた。それはまるで、空にもグラウンドがあるみたいだった……。



 家に帰った後は、毎日の日課である素振りをやる。今日、打ち損ねた内角低目の変化球の軌道は覚えている。その軌道を僕は、何度も、何度も、何度も、何度も、振り続ける。手の皮は、六年以上も野球を続けていることもあってか、悲鳴を上げることもない。だが、体のどこかが悲鳴を上げそうだった。でも、僕はその声を体に押し込め、今日見た空を思い出しながら何度も何度もボールの軌道にバットを入れ振り抜いた。

 一体いつまで振っていたか分からないが、母の、夕食だよという声で素振りを止めリビングに向かった。

 リビングでは、もう母と姉がテレビを見ながら夕食を食べていた。いつもの通りテレビではプロ野球の中継をやっていた。僕が打てなかった球なんて彼らは、当たり前のようにスタンドまで運ぶだろうし、それがなんの自慢にはならないだろうなと思いながら僕は少し冷たくなった夕食を食べた。母と姉は今日の試合の結果を聞いてきたが、僕がいつもの通りの顔をしたからなのか、慌てて話題を変えていた。

 テレビでは四番打者が相手チームのエースが投げた内角低目の変化球を打ち損じて、周りからブーイングを受けていた。だが、その打者は顔をうつむけることなく、ベンチへ堂々と帰って行く。僕は、彼のその姿を見ていられなくなりうつむいてしまった。

 

 いつもの通り明日の試合のための準備をし僕は、眠った。


 僕は、いつもの通り目覚ましの音で目を覚ました。時計を一応確認……六時前、いつもの通りだ。朝食を食べ昨日キレイに磨いたスパイクとグローブと姉が作ってくれた弁当をエナメルに入れた。そして家を出た。

 いつもの通りの時間、いつもの通りの道、いつもの通りの行動。それが何故か今日は違和感があった。その違和感を払拭するために自転車を強くこぎ学校に急いだ。



 学校に着き少し練習した後、今日の試合の先発メンバーが発表された。一試合目は、一・二年だけの試合で、三年の僕はアップをしながらその試合を見ていた。僕と、昨日交代した一年の吉田はレフトで四番で先発し、ホームランを二本打った。最終打席では三振したのにも拘らず、そのピッチャーを睨み付け、自分の存在をアピールしていた。

 僕は、昨日のプロ野球中継を思い出していた。



 二試合目の先発メンバーが発表された。僕は入っていなかった。吉田は、レフトで六番だった。僕は、驚いた顔をしたが、内心はそうだよな。と思った。

 発表の後、三年の仲間達は少し気まずいのか、僕のことを思ってなのか、僕を独りにしてくれた。そんな時に、監督が僕に近づいて来て、

「今日は代打で行くからな。期待してるぞ。」

 と言ってくれた。

 その言葉を聞いたとき、僕は無性に体が熱くなった。



 試合が始まった。


 

僕は、試合が始まってからずっとベンチで声を張り上げた。たかが練習試合かもしれない。でも大きく大きく声を張り上げて叫んだ。



 僕の名前が審判にコールされ、代打での出番がまわってきた。



 僕は、ゆっくりと打席に入りバットを構える。いつもよりピッチャーが近くに見える。一塁ベースは見ないようにする。チームメイトはいつもより気合の入っている僕を応援してくれている。そして……。

 初球内角に速い直球がやって来た。それを思いっ切り強振する。

 打った打球は物凄い速さでサードの横を抜ける。

 だが、審判の両手が上がる。

「ファール」

 おしい、誰もがそう思ったであろうし、僕もそう思った。

 2球目、3球目はボール。

 4球目は外角ギリギリの直球が決まり、2-2に追い込まれた。でも、不思議と焦りがない。



 そしてその時はやって来た。


 

 5球目の内角低目の変化球。

 それを僕は、思いっ切り引っ張った。いや引っ張ったつもりだった。

 打球は鈍い音を残して、サードの前に転がっていった。誰もが今日もかと思った時、僕は全力を振り絞って一塁に走っていった。サードも慌てて前に出てきて捕る。そして一塁に投げる。

 でも、その時僕は昨日から、いやそれ以前から見ることの出来なかった一塁ベースを見る。

 そして全力で走る。

 ファーストが捕球体勢になるのが見えた。

 その時僕は、飛んでいた。

 砂煙が舞い上がる。前が見えない。アウトなのかセーフなのか……。



 審判が動く。手が上がる。

「アウト」

 手にはベースの感触がなかった……。



 結局、僕の手には一塁ベースにすら届いていなかった。

 でも、僕は、一塁ベースを見れたこと、一塁ベースが近づいて来たことに喜びを感じた。



 でも、一塁ベースはまだ遠い。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 短文ながら胸が熱くなるような読後感でした!! 過去の思い出が蘇ってきて、大切なモノを再び手に入れる事ができました。 作者さんの素敵な作品をもっともっと読んでみたいです。
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