作者の苦悩
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今度新しく始まる、南国リゾートが満喫できる二泊三日の無人島ツアー。
そのプレオープンの招待客として私たちは招かれた。
本島から船で30分の無人島、その中心には大きなペンションが建っていた。
招待客は私を含めて男女5名づつ。
その日はおのおの無人島でのリゾートを満喫していた。
夕食時、天気はあいにくの空模様から雨がしとしとと降り始め嵐となった。
天気予報では嵐が収まるのは2日後、そして電話線が切れ外部との連絡手段が途絶えた事が判明。
その瞬間、一人の男が立ち上がると高らかと宣言した。
「犯人はこの中にいます!」
この言葉に私たちは戦慄した。
その男は名前を聞けば誰でも知っているほどの有名な探偵だった。
世間では「先読み探偵」と呼ばれ、数多の難事件を解決しその推理力は警察も一目置くほど。
「では始めますか」
そう言って探偵は招待客達の分類し始めた。
「まずあなた、非番でリゾート地に遊びに来ていたが殺人事件に巻き込まれた不運な警察官な顔をしています」
「あなたは序盤でなにかの様子を見に行って行方不明になり、犯人だと疑われるも中盤に死体で発見される顔をしています」
「あなたは最初の殺人事件の被害者になる顔をしています」
「あなたは最初の殺人事件の後「殺人犯と一緒になんかいれない!」と自分の部屋に引きこもり、翌朝死体で発見される顔をしています」
「あなたは中盤で犯人に関わる重要な何かを発見してしまい、イレギュラーで殺害される顔をしています」
「あなたは終盤まで意味深な発言から犯人と思われていたが、実はジャーナリストな顔をしています」
「あなたは中盤で犯人に襲われ軽傷を負うが生き残るヒロインな顔をしています」
「あなたはどう見てもモブです」
「そして私は行く先々で何故か事件に巻き込まれる不運な探偵なので犯人ではありません」
探偵はそこまで一気にまくし立てると、ふーっと小さくため息をつく。
「ここまで分類できればあとは簡単な推理でした」
「場所柄を考えて、事件は密室トリックと一人二役トリックを使ったケースで、動機は過去の怨恨と恋愛のもつれといったところでしょう」
そう言って私を指差した。
「つまりこれから起こる殺人事件の犯人、それはあなたです!!」
たしかに探偵の言うとおり、私の部屋には連続殺人を決行する為に準備した沢山の凶器が用意してある。
トリックも時間をかけて考えていたのに、ネタバレもはなはだしい。
いくらよくあるシチュエーションだとはいえこの仕打ちはあんまりだ。
私はあきれたように探偵に言った。
「これから面白い長編の推理小説が出来るはずだったのに、あなたのせいでこの話は短編になってしまった」
END
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「なんだこりゃ?酷い話だ」
締め切りを破った先生の原稿を取りに部屋を訪れた。
しかし仕事場に先生の姿はなく、パソコンには依頼した内容とはかけ離れた推理小説のようなものが表示されていた。
そう、私もいまスランプなんです。