表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/21

 2

暫くは世界観の説明などが多いです


 その死体は、まるでないものかのように、確かに存在していた。死体はそこにあって当たり前なもので、しかし日頃そこにはないもの。あまりにも自然にあるため、それが当たり前だと錯覚してしまうのだ。勿論、おかしいと思えば私のように分かる。だが、それが分からないのが、どうしようもなく壊れていて狂っている、この世界の人間たちである。


 木を隠すなら森。死人を隠すのは死人の中に、ってやつだ。この世の人達は、死人と例えてなんら問題ないんだから。


 三日月を模す形に歪む口を、隠そうとはしなかった。これだけ分かりやすい嘲笑を浮かべても、周りには天使の笑みにしか見えないのだから。天使じゃなければ、それこそ神のようだと言われるかもしれない。笑えない冗談だ。冗談で済むかも危ういけど。



「――――二千五十七年、地球温暖化による、後に〝神の敢行〟と言われる……」



 歴史を説明している教師の声も、ノートに書く文字の音も、聞こえる声は微か。何が面白いのか、教師を見て笑っている生徒。次の教科の課題について話している生徒。いつもならここまで授業を聞いてないのはない。今日、生徒がまったく話を聞いてないのは、黒板に走る歴史が、一番基本のものだからだ。生きていれば五歳で知っているようなことを、詳しく知っていくのが、今の授業となっている。


 その基本と言うのが、イル・モンド・ディ・ニエンテが、まだチキュウと言われていた時のこと。教師が話しているのは、その移り変わる時期のこと。


 千年前、地球温暖化のより人口の三分の一が焼け死んだ。地の奥から吹き上がってくる熱に、人類はどうすることもできなかったのだ。あのまま行けば、一人残らず人類は滅亡していた。その危機的状況を変えたのが、後である今に語られる、〝神の敢行〟と言われるもの。


 当時の人達にすれば、驚きなんてものではないだろう。

 ――――人類を助けたのは、これまで傍観していた神だったからだ。


 最初はどうして人が死ぬ前に助けなかったのか、と神を非難する声が出た。だが、死人への悲しみと怒りが沈むと、救ってくれたものを何て言いようだ、と真逆の非難をしてくるものが出てきた。それが、今の神官だ。そして、過去に政治家と呼ばれた人たちである。


〝異〟をつかさどる最高神――リリス・サイナー。

〝陽〟を司る神――アレイル・レートシンス。

〝陰〟を司る神――レイメル・オーギュスト。

〝死〟を司る神――セプリアドゥー・ドゥーウェン

〝癒〟を司る神――コンライト・アモーレ。


 この五柱を五大神と呼び、人類は神を崇拝するようになった。

 当たり前と言えば当たり前の結果かもしれない。今まで神の可能性を信じなかったり、外国で崇拝していなかったりしたのは、その姿を見たことがなかったからだ。

 だが、神は姿を現した。そして、自分らを救ったのだ。もう、信じないのは有り得ない。


 特に、最高神であるリリス・サイナーへの信仰心は、高い。熱狂的な信者もおり、世界のどこを探してもリリス・サイナーを崇めていない人間はいない。断言できる、いない。少ないとはそういう問題ではなく。


 聞けば、圧倒的な力があるとか。

 聞けば、国ではなく世を動かす美貌を持っているとか。

 聞けば、それは素晴らしい知恵を持っていたとか。


 それの姿を確認したものは、誰もその言い分を疑わなかった。

 そう、〝誰も〟。


 それならば、私はどうなのだろうか。

 確かに、私も前までは五大神というものを、崇拝していた。


 転機が来たのは一週間前だ。

 夢に見た、まだ、世界がチキュウと呼ばれていた時代。

 車が走り、神の文化はほとんどなく、誰もが苗字を持っていた時代。

 その夢で私は、サクラと呼ばれていた。

 容姿がそのまま私なため、タイムスリップというものをしてしまったのでないか、と思ってしまった。

 でも、サクラと呼ばれた私のことを知っている人がいて。つまり、そのサクラと呼ばれた私は、その夢ではチキュウにいることが当たり前のように、存在していたのだ。


 初めは、変な夢だと思っていたのだが。

 毎日毎日それが続き、〝チキュウ〟の知識が増えて行き、そして――新しい変化があった。


 ぴり、と手に静電気のようなものが走る。だが、これは静電気ではない。夢で見た静電気というものは、こんなものではなかった。

 新しい変化とは、これだ。この静電気のようなものが、〝ある単語〟っを聞くたびに反応する。静電気のような、と言えるだけ、これはまだマシなほうだ。だが、時には激しい痛みを訴え、吐いたこともあった。ああ、まるで遠いことのことを言っているようだけど、それがあったのは先程、保健室に行く前に教室であったことだ。


 そんな変化が出る、単語。それはどれも眉を顰めるような、不可思議なものばかり。

 チキュウ。

 転生。

 五大神。

 リリス・サイナー。

 取り敢えずはそれだけ。だけど、その四つは日頃聞く単語で、聞くたびに反応するのは困る。痛みに悲鳴を上げて、視線が集まるのだ。自分はこんな顔をしているが、目立ちたいわけではないのだ。



「愛佳、愛佳」

 話しかけて来た秋名に、返事した。

「サイナー現象って、どうして起こったんでしょうね?」



 サイナーとは、この世界で超能力者、またはその能力自体のことを意味している。それが生まれたきっかけが、そのサイナー現象である。

 地球温暖化で神が現れ、した行動を〝神の敢行〟と言うならば。そのサイナー現象は、サイナーと呼ばれる超能力者が出始めた時期と現象を示すのだ。

 人が勝手に、神がくれた恩恵だとか言って入るが、本当のきっかけは今も分かっていない。



「それが分かれば、今、サイナーなんていないよ」

「それもそうね。原因分かっちゃったら、先祖が力を手に入れていた時点で、なくなっているもの」



 ごもっともだ。

 いくらリリス・サイナーを崇拝できたとしても、自分の体に影響ができたなら、その場ではふざけるなと叫んだものだろう。言わずもがな、それも崇拝することによって変わってしまったが。



「それでは、今日はここまで。明日は愛神(いとがみ)市の歴史について学びます」



 淡々と言った教師に、生徒全員で礼をして、授業が終わった。

 教師が出て行くのを合図に、これまで煩かった話し声が、さわに煩くなる。


 愛しき神と書いて、愛神。これが、この世界の中心であり、この世界の全てである愛神市の名前だ。今いる中学校の名前も、愛神中学校という。

 この場合、市の名前はチキュウの時の県の名前である。言いやすくすると、この愛神市にとって、愛神はチキュウだった頃にすると、県名になると言うことだ。


 そして、そんな愛神市には呼び名があった。

 サイナーが占める世界。ラインと呼ばれた無能力者が完全排除された、高位のサイナーのみがいる、私から見ると周りから隔離された学校。そんな世界の中心は、〝怪異の集まる町〟と呼ばれた。



 なんでも、そこは何があってもおかしくないところ、だとか。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ