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  白の神と白の空間


 世界は壊れていると、少女が言った。

 そんな世界で、三つの願いがさまよう。


――自害の塊に惹かれた最高神。

――死を求めた恵まれし少女。

――親友を生かしたかった純血。


 それが叶うかどうかなど、初めから決まっていたのだ。

 物語の最後が必ずしもハッピーエンドだとは限らないのに。



 背景が真っ白な空間。ヴィオと呼ばれるその場所は、まるで線画の中のようだった。影がないためか、自身さえも張り付けられたように錯覚させられる。


 ヴィオには、二人の少女がいた。

 白に埋め尽くされたその一人は、ニヤリと笑っている。


 白い髪。地べたにつくほど長く、動くたびに空気と戯れている。

 白い服、純白のドレス。白い靴に、首には白いリボン。まるで首輪のように、枷のように結ばれていた。


 そして、――金に輝く目。


 その目が捉えているのは、その空間にいるもう一人の少女。〝白〟の少女が身綺麗なのに対し、その少女の格好は酷かった。

 バラバラに斬られた髪はボサボサで、元々の綺麗な橙色が今は汚れで分からなくなっていた。来ていた服は、破れに破れまくって白のワンピースが灰色に変色されている。ぞっとするほどの痩せ細った体、目には光が無かった。何もかもに失望した、〝無〟の目。


 凛とした声が、その空間に響く。


 ――お前は死を願望とする?


〝白〟の少女が問う。だが、その口は動いていない。機械のような声は、まるで四方から浴びせられているようだった。〝無〟の少女はその問いに即座に答える。



「勿論だ。君も分かっているだろう。早く消してくれないか……。私は君のこと恨んでいるよ。どうして止めたりしたんだ?」



 無。

 驚くほど何もない、無。

 そんな意味を込めて、その少女は吐き捨てた。

〝白〟の少女はまだ笑っている。その笑みは目の前にいる愚かな人間への、嘲笑。


 ――腐ったなお前!


 大きな笑い声に空間が歪む。



「それは……もっと前の私に言ったらよかったんじゃないかなあ?――ところで、私からも君に聞きたいことがあるんだけれども」

 ――よい、言え。

「君は、私をどうしたいんだい? どうして、私に、……私を、殺させなかった」



 眉間にしわを寄せ、怒気帯びた声が、しかし殺気まではない。

 生気のない目が白き少女を見据える。愉快だと笑っている白き少女は、その睨みの入っているキツイ視線に臆するどころか、なんだかねえ、と呟いて呆れていた。



「お前、何を企んでいる」



 刺々しい声が空間に響く。

 二人しかいない空間の中で、二人じゃない誰かが微かに嘲笑った。

 それに気付いた〝白〟の少女は、無の少女に分からないよう、溜息を一つ吐いた。



 ――ゲームを、しないか。



 白き少女がそう言った。相手の顔が歪んだことには、気付いているのか。それとも、気付いていて無視しているのか。

 長い沈黙、沈黙。



「――ゲーム。そんな理由で私をとめた、と?」

「そうだよ、ああ、そうだとも! 己はお前の意見を聞く耳を持ってない上に、さらに言えば、お前に拒否権などない」



 憎しみのこもった〝無〟の少女の確かな殺気に、〝白〟の少女は息をのむ。ビリビリと緊張感。それに耐えるように震える体。


 ――これはいい。

 ――お前は、確かな適応者だ。

 ――感じる。これほどまでの思いは――――(・・・・)以来だ。


 冷や汗が頬を伝って落ちると、空間の中で少しずつ姿が見えなくなっていく。白き少女は、また自身の口が三日月の形に歪むのが分かった。目の前には殺意と自害の塊。自分を殺すのに迷いがない少女。


 ――期待できるね、これは。


 声を出して笑いたいのを必死で我慢する。そして、いまだ怒声を出している無の少女に制止の言葉を発した。



「やめないか、――〈アオイサクラ〉」



 声は、ちゃんとした言葉だった。今までは、音のようなコエ。

 ぴた、と声がやむ。〝無〟の少女は何か言いたいのか、口をもごもご動かしている。



「最後まで黙って話を聞くがいい」



 命令口調で〝白〟の少女が言うと、〈アオイサクラ〉と言われた無の少女は、石のように動かなくなった。唯一動いているのは、瞬きのみ。


 少女は淡々を、最後を言葉を紡いだ。



「ゲームに勝てば、お前を殺してやらんこともないぞ? なあ、死にたいもんな?」

「ルールは簡単だ。お前曰く〝腐りきったセカイ〟である〝チキュウ〟。それから千年後の世界〈虚無の世界イル・モンド・ディ・ニエンテ〉で新しい姿をやろう」

「ゲームは実にシンプルだ。その世界で、同じく転生したお前の親友――――アカオチルハを見つけろ。期限はお前が気づいてから(・・・・・・)一ヶ月。精々頑張りたまえ」




 少女が次に見たのは、覚えのない部屋――。

 春、それは出会いと別れの季節。




 そして、――死の季節。



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