3
その時まで傍観してきた神の介入により、人間の生き方は変わった。
今までは神の信仰なんてなかったのに、今までは人の生死に敏感だったのに、今までは神様なんて存在すら疑われていたのに。
それまでの過去が全て嘘だったかのように、生活ががらりと変わったのだ。
政治は神についての語りが多く、リリス・サイナーの初代の加護者が現れた時、崇拝されているその扱いに誰も疑問を持たなかった。
人類を救った英雄であると、白き神が祀り上げられている。
その美貌に誰もが頷き。
その能力に誰もが跪き。
その叡智に誰もが乞う。
リリス・サイナーとは、そんな存在だ。それはその加護者も同じ。
それはただそこに在るだけで、存在理由を認められる皆の憧れ。
だがその強大な力が故に、命を狙われる。嫉妬や恐れを思わない者はいないのだ。
それを防ぐために、最強に就けられた最強の護衛。
相応しい才能を持っていなければならないため、側仕えとも呼ばれることがある。
それが、四家と〝二つの槍〟の全て。
四家の中、雪月以外三家。桜欺、緋浪、夏宮が代表であり護衛になる者を出すのは、一人。だが、例外の雪月は二名出すことになっている。
リリス・サイナーの護衛を務めた三家の者は、大体はその家の次期当主となる。そんな中で雪月から二人だされるのは、〝二つの槍〟のためであった。
国の宝なる〝二つの槍〟は雪月の家から選ばれる。本来、護衛に選ばれた【五陀】は家の名を自分の名前とするが、その〝二つの槍〟のため、雪月のみが家名と自分の名を持つことができる。
つまり、初代のリリス・サイナーに仕えた先祖の四家の名。それぞれを世襲制で受け継いでいくが、その中で雪月だけはその受け継いだ名前と、自身の名を名乗ることができる、ということだ。さらに簡単に言えば、襲名だ。
そしてその難しいそれらは、全てリリス・サイナーに従うため。
偉大な神であるリリス・サイナーに平等に使えるために定められた、規則。
でもそんな規則は、全てリリス・サイナーの加護者がいなければ意味がない。
最高神リリス・サイナーは気儘だ。
その【五陀】選ばれても、その代に加護者がいなければただのお飾りで終わる。
今代は、リリス・サイナーはいないと言われてきた。
勿論それも、――後天性でない場合、以外だが。
「私が、リリス・サイナーと? そんな話は聞いていないがね」
「……橋野さん、ご説明されてなかったのですか?」
私が素直にそう返せば、雪月ひなつと名乗った黒髪の少年が、医師に言った。
「それを纏めた全てをご説明されると思いまして」
嫌味な笑顔で、橋野と言われた医師が言った。
雪月ひなつに向ける見下した目は、どうもリリス・サイナーへと信仰心が見えて、不快だ。
「――それもまあ取り敢えず。愛佳、結局まだ、その子しか名乗ってもらってないじゃない?」
「それもそうだねえ。取り敢えず、名前だけでも教えてくれる?」
私がそう言えば、雪月ひなつが一歩後ろに下がり、他の【五陀】を見やった。
銀髪が一歩前へ出る。
「俺は雪月白夜。俺も〝二つの槍〟をやってる。ま、よろしくな」
笑顔でそう言った銀髪――雪月白夜の言葉に、空気が変わる。
雪月ひなつを含めた【五陀】と橋野が驚き怒り、私の両親は驚き笑う。
それも当たり前だろう。使える主人に敬語を使わない従者なんて論外だ。
だが特に反応はせず、相変わらず口角を上げただけの笑みで、そうかい、とだけ言った。その反応にも、周りは驚いた。銀髪を含めた私と私の両親以外が、予想外のことに驚いている。
「おい……」
「なんだい白夜」
「そんなんでいいのか、リリス・サイナー。てか、いきなり名前呼び?」
「そんなんでいいんだよ、白夜。名前のことは、名があるのに呼ばないのは勿体ないからだよ。あと、私はその名が嫌いだから名前で呼びたまえ」
更に、周りは驚く。
まあ、それもそうだろう。リリス・サイナーの名を嫌っている者がその加護者になるなど、前例がない。そもそも嫌っていても、こう公にはしないだろう。
「はい、次」
しんとした空気の中、発した言葉に反応したのは、茶色に茶目の男。
「私は桜欺の者です。元々の名前は桜木一成。よろしくお願いします」
そして、残りの二人が続く。
「私は夏宮の者。元の名は奈津宮雄心。よろしくお願いします」
「私は緋浪の者です。元の名前は比波玲です。よろしくお願いします」
順に、茶髪に紫の目を持つ奈津宮雄心――今の名前を夏宮。
金髪に赤い目を持った比波玲――今の名前を緋浪。
前の名前を覚えるのは面倒だから、今の名前だけでいいか。
私は今から自分と従者になる【五陀】を振り返った。金目と目が合い、彼らの表情が強張っているのが分かる。それもそうだろう。今ここで私が気に入らないと言えば、その一言で彼らの地位はなくなり、違うものが【五陀】となる。折角リリス・サイナーの加護者の傍にいられるのに、そう簡単に地位を逃せられるものではないだろう。
座っていたイスから立ち、心のない笑顔のまま、やっと私の自己紹介。
「初めまして、私の【五陀】。今代のリリス・サイナーこと樋代愛佳だ。これから宜しく」
そんな薄っぺらい笑顔や言葉で、雪月の二人以外は、安堵の笑顔を浮かべる。
流石、というべきか。いや、言うべきだ。流石、【五陀】を指揮する雪月の〝二つの槍〟。嘘の笑顔が分かったのだろう。白夜の顔が引きつっている。
そして、私は心の中で思っていた。
――――死ねッ!
それはもう、憤慨していたのだ。
それはもう、私でなければブチ切れていただろうってくらい。
親友探し。それに勝つことが、私がやっと死ねる条件。
そのゲームの期間中に、しかも倒れた拍子にリリス・サイナーの加護者になっただと?
……図ったな、あのクソ神が。
リリス・サイナーの加護者となるということは、世界の支配者となることだ。
支配者になるなら、世界に顔を覚えてもらわなければならない。仕事はないが、それなりに一人で出来る行動が限られてくる。
探し物の対象のヒントはくれない。
ゲームの妨害はする。
厄介な従者をつけてくる。
どれだけ自分が有利にいたいんだ。まるで子供のようだ。
それに、三つの中で厄介な従者こと雪月の二人は、特にいらない。
有能は配下に置くだけいいが、逆に聡い部分があって扱いにくい。
それに、私を見る雪月らの目。
リリス・サイナーの加護者であり金目を持っている私に、まったく敬意がない。
本当なら面白いなと喜ぶところなのだが、聡いだけに面倒くさい。こういう厄介なものが狂信していたならば、もっと楽だっただろうに。
それでも、リリス・サイナーの【なんでも叶う】力をくれたのは、有り難い。これが例え、それでも使って頑張ったら? 勝てないだろうけどプー、みたいな挑発行為であってもね。
「それでは、私の【五陀】」
呼びかければ、期待に目を輝かせる一同。
「早速、仕事をして貰おうか。――中央公民館へ行く。雪月の二人は着いてきてくれ。あとの【五陀】は弓佳たちに荷物を運ぶのを手伝ってくれ」
承りました、了解です、オッケー、喜んで従います、などなど二つ返事で肯定する【五陀】たち。指名された雪月の二人を睨みながらも、三人は仕事を始める。
厄介だと分かっていても、ほら、好奇心って抑えきれないでしょ?
だから別に、嫌がらせとかではないよ?
うん、ただ二人に興味を持っただけなんだ。
だからさ、そう、あからさまに不審そうするのはやめてくれないかな、白夜。
知らんぷりしているけど、君も内心では疑っているよね、雪月ひなつ。
――あーあ、どっかにリリス・サイナーの死体とは落ちてないかな。
そんなことを思いながら、部屋を出た。二人が着いてきている気配はある。
――はあ。もういっそチルハでいいから、落ちてないかな。
雪月の二人以外の【五陀】の名前は覚えなくても大丈夫です
名の世襲制について分かりづらかったかもしれないから、補足↓↓
リリス・サイナーの初代の守護者・【五陀】とされた人の名前が、雪月の〝二つの槍〟と緋浪、夏宮、桜欺。
その名が世襲制で、一族で一番強い者が名を持つことができる。
雪月の之突。緋浪の比波。夏宮の奈津宮。桜欺の桜木は、分家の名前。生まれた時にまず分家の名を持って、一族で一番強いと認められた時に【五陀】の名前を冠することができる。
つまりそういうことです(笑)
まだ難しいということならば説明しますので、感想でも活動報告でもメールでもなんでもいいので、聞いてくださいね^^




