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微睡の中で

リメイク版?です


 ガチャ、とドアの音がした。

 きっと、兄さんが帰って来たんだろう。

 予想通り、すぐに顔を見せた自分の兄妹に声をかけた。



「おかえり、兄さん」

「ただいまサクラ」



 眉を下げて、しかし悲しそうではなく人懐っこそうな笑顔を見せた彼。

 いつものように友達に囲まれて弄られ回されたのだろう、髪の所々が跳ねて寝癖のようになり、服は上着が――もはや着ていなくかけた状態となっている。

 よく見れば、笑顔には疲労も浮かんでいる。



「今日も弄られていたのかなあ?」

「……うん。あ、今日ちょっとお風呂先に入っていいかな……」

「うん? いいよ、今日くらいなら」



 少し長めの前髪を掴みながらの願いに、軽く答える。

 私の兄は、見目がいい。フワフワの茶髪に、いつも細められている黒目。よくクラスメイトの女子に絡まれるため、あんなボロボロの姿で帰ってくることも多い。今日は特に酷かったらしい。

 兄がいなくなったリビングで、一人テレビを見ることにする。だが、中々私好みの番組が見つからない。



「なんか面白いのないのー?」



 誰もいないため、リビングで虚しく響いた。

 仕方なく動物と話せる少女とかいう特集の番組をつけておく。可愛い子犬が何やら鳴いている。それを外国人美少女が翻訳しているようで。


 兄さんの声が聞こえた。バスタオルを持ってきてくれ、とのこと。

 珍しい、忘れて入るなど。それに、少し行けば取りにいけるじゃないか。

 思いながらも白いタオルを持って風呂場へ。ここに置いておくよ、と風呂場前の着替え置場に置いて、声をかけた。

 ドア向こうからありがとう、と返事。どうだ優しいだろう、と胸を張って冗談を言ってやろうと思った時、視界に赤が入る。



「ん……?」



 脱いだ後で積み重ねられている中で、制服の中に来ているシャツ。はみ出している部分に、小さな血の跡。袖の部分で、新しいものだったから中からついているのだと分かる。



「どこか怪我したのか、馬鹿め」



 そういえば、妙にドジっぽいところがあったのなあ、と。

 まだ小学六年生のくせにお前は落ち着いているな、と前に兄さんに言われたことがあるけども。逆に小六までくると性格がハッキリしてきて、小五までの性格に比べると落ち着いて見えるのは当たり前なのだよ。


 私は、リビングに戻った。



 風が冷たい。まだ二月だから当然だろうか。

 霧がかかったように白んだ空気。吐く息も白い。手は赤いのに。

 鼻の頭が微かにヒリヒリしている。寒気に肩を上げた。


 ――もう、二年か。

 中学校生活一年目は、とにかく好奇心で終わって行ってしまった。

 始業式が終わって始まった二年生。帰宅部だが、友達が先輩がいなくなって寂しいと呟いていた。課題が多くなったとも愚痴っていたけども。



「サクラ」



 呼ばれて、振り返った。

 そこには、長い髪をツインテールに結んだ、自分の親友。



「チルハ。おはよう」

「おはよう。――寒そうだな、マフラーは持ってこなかったのか?」

「兄さんのを黙って持っていこうとしたら、見つかった」

「まず自分のはどうした」



 苦笑交じりのその質問に、笑って濁した。

 だって、なくしたとか言ったら、自業自得だって返される。

 本当にそうだとしても、寒いものは寒いのだ。



「――あ、おはようサクラ。チルちゃんも」

 クラスメイトの中野さんが挨拶してきた。

「おはよう」

「おはようさん」

「ねえ、昨日の番組見た? ほら、子犬とさ、動物と話せる女の子のやつ! 番組名忘れちゃったけど……」

 ああ、昨日のか。

「私は見たけど、ほとんど覚えてないなあ」

「わたしは見てない」

「そっかあ……」



 残念そうにするその子。

 チルハが違う番組の話に変え、学校につくまでずっとそれの話をしていた。

 中野さんが靴箱で上靴に書き換えている途中、兄さんが近くの廊下を通った。



「兄さん」



 声をかけたけど、どうやら聞こえてなかったようで。そのまま行ってしまった。

 俯いていて見えづらかったから気のせいかもしれないけど、横顔が随分とやつれていた気がする。

 最近、家でもすれ違うことが多かったから、会ってない。顔を見てないから疲労については知らなかったけれども。あれは、ただの遊び疲れか?



「――サクラ? どうかしたのか?」

「うん? いや、なんでもないよチルハ。さっさと教室行こうか」



 別に隠すこともなかったが、言うほどのことでもなかったため、軽く流す。

 そんな朝の、日常。

















 カーテンの間から見える太陽の光に、思わず目を細めた。ああ、眩しい。

 体を起こして暫しの間ボーッとする。部屋の角にかけている時計を見た。どうやら、今日はゆっくり準備してよさそうだ。

 響かない目覚まし時計を叩く。習慣になってしまったが、それはもう壊れてしまったもの。


「――――おはよう」


 抑揚のない声で、新しい朝に挨拶を呟いた。

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