魔力付与を生業とした家に転生し、とある王家の王子と付き合いましたが魔力はもう要らないと捨てられたので地獄に落としてしまいたい
「はい、今日も魔力付与できましたよ♪」
「ありがとう、ルミ。君のお陰で毎日安定しているよ」
ルミはシュルトと言われる魔力の自然供給が乱れている王子に毎日のように魔力付与を行っていた。
王子と普通の少女、普通ならば交わらない二人は既に相思相愛と呼べるほどまでな関係になっていた。
今は王子の自室でルミが自らの手でシュルトの胸に触れ魔力を付与し終わった所だった。
「魔力の供給はどうですか? 良くなってきていますか?」
「ああ、でも、まだ少し安定していないんだ。これからもよろしく頼むよ」
「ええ、勿論です! シュルト……」
「ルミ……」
二人は雰囲気のままそのままベッドに横たわり互いの唇を重ねる。柔らかく、体温が重なり互いを求め合うその様はまるで。
「これからもずっと一緒にいましょうね?」
「ああ、ルミ。約束だ」
そう約束を交わした……はずだった。
———とある夜王国の一室
「魔力の蓄えはどうだ?」
そう言ったのはシュルトだった。
「これ程あれば十分だと思います。では、このくらいの金額を……」
「フッ、これでもうアイツは用済みだ」
黒服の男との会話が皆が寝静まった深き夜に終わりを告げた。
———シュッ……
「おはようございます、シュルト、今日も魔力付与を……」
———ガシャンッ!
シュルトは手に持っていた紅茶の入ったティーポットとカップを落とした。割れた破片は飛び散り、紅茶はカーペットを覆っていく。それは流れた血が滲みていくようだった。
「なんで、なんでシュルトッ!」
いつもは魔力付与をするまでまともに立つことすらままならないはずのシュルトが元気が有り余る立ち姿でルミのことを待っていたのだ。
「おはよう、ルミ。早速で悪いけど、君との関係はもう終わりだ」
———パチンッ!
シュルトが指を鳴らすとルミを使用人二人が背後から押さえつける。
ルミの顔は紅茶と破片が広がったカーペットに押さえつけられ、破片でルミは頬を切った。血が滲みていく。広がっていく。
「んッ、んーッ」
言葉を発することもままならない。
「今までありがとう、君には感謝しているよ。でもね、君の役目は終わったんだ。でさ(笑)君さ、僕が本当に病気だったと思ってる?」
「……?」
顔を押さえつけられながらも必死に上げ、涙を流した瞳で見つめる。
「今までのは演技さ……、魔力付与……本当に便利だよねえ、上手くやれば超過分を蓄えることができるんだもの……。フフッ、ああ! 君が僕に愛情を注ぎ! 必死に応えてくれていた姿はおかしくって腹が痛かったよぉ。あ、でも……君との恋愛ごっこは楽しかったし、実際少し隙になったりもした。本当のトコもあるかもね?」
シュルトは灰色の髪をたくし上げながら絶好の笑みでルミを見つめる。高笑いをしながら押さえつけられるルミの周りを観察する。
ルミは力を振り絞り、
「ぷはっ……ッ! 嘘! じゃああの時のシュルトは、……全部嘘だった———」
「ああ、嘘さ」
「ッ———」
目を見開き、糸が切れたように抵抗を止めたルミ。
ルミは使用人に吊るされるように連れて行かれる。
「じゃあね♪ ルミ……いや、魔力付与係さん」
◆
———ボトッ
馬車で王国から遠く離れた魔物が蔓延る森に捨てられたルミは気を失っていた。
全身が使用人に殴られ蹴られ、服はあちこちが破け、まるで使い古された雑巾のようだった。
顔は膨らんではいないものの、青く腫れ、切り傷だらけだった。
血の匂いに引き寄せられる魔物たち、
「ガルゥゥゥ」
リ・ウルフと呼ばれる狼の魔物がルミに近づく。爪を光らせ、牙を剥き出し、ヨダレが垂れている。その目は既に獲物を狩る者へ変わっていた。
———ザッ
「グゥゥゥア———クゥゥゥン……」
ルミは間一髪助けられることとなった。
ルミを助けた少年はシュルトによく似ていた。髪色は青で、顔も違う。だが、その雰囲気はまるでシュルトそのものだった。
「んっ、ん? くッ、ここ……は」
「目が覚めたかい?」
「あ、貴方は?」
「僕はクライス。シュルトの……弟だ」
「シュルトの……」
ルミは左手で右腕を抑えながら警戒心を強める。鋭い眼光は数時間前までのルミを失ったことを表すには十分だった。
「ふぅ……君が警戒するのも無理は無い。だが、実際僕は君のことを助けている。その時点で僕がアイツと同じとは思わないだろう? 君もきっと、分かっているはずだ」
「……」
そう言われ、ルミは警戒を解き、手を下ろした。安堵したのか、身体が前に倒れる。
「危ないッ!」
「あっ、……ありがとう、ございます」
ルミは咄嗟のことで言葉が途切れた。クライスに抱きしめられ、ルミは最近まで感じていた思いをクライスに対して想ってしまった。
顔を赤くして、クライスの胸に身を委ねる。
「かなり疲弊しているだろう、僕の胸の中でゆっくり休むと良い。話はそれからにしよう」
◆
「すみません、寝てしまって」
「大丈夫、その方が色々と楽だからね」
5時間後、目が覚めたルミはクライスとの話を始める。
「シュルトには怪しさを感じていた、だが僕が不甲斐ないばかりに証拠が揃わず踏み出せずにいた。だが、今は君が居る。シュルトは絶対に殺さなければならない、王家の恥だ」
「殺す……本当に殺すんですか?」
クライスは唖然としていた。
ルミは上目遣いで再度「本当に?」と聞いたからだ。
「本気で言っているのか? 君は殺されかけたんだぞ? 僕が少し遅ければ君は……」
「……でも、でもッ! 私があの男と過ごした時間は本物だったッ! たとえ嘘だったとしても、あの男を……シュルトを殺す気には、私はなれない。つい数時間前まで……あんなに、ッ———」
ルミの涙はゆっくりと滴り落ちた。
「シュルト……本当に罪な男だ、金に目が眩むとは。王子としてだけでは物足りないなどと、……傲慢な奴だ。やはりアイツは殺さなければ……」
「———私に考えがあります」
◆
「ッハハ、ハハハハッ! これで俺はこの国を思い通りにできる。あのクソ親父を始末して、この俺がッ———ハッ、なっ、グッ———こんな、何が起こっているんだッ」
シュルトの皮膚が萎んでいく。死ぬ間際の老人のように、姿が変化していく。胸を抑えながらシュルトは地面に落ちていく……。
「こんなことが、こんなことがあり得るノカァッ———」
音が消えた。空気は未だ流れている———
◆
「これで良かったんですよね……」
「ああ、これで良かったんだ」
「私の魔力付与は一度付与すればその人間の魔力と繋がる。蓄えることはできても永遠に繋がっているまま……。付与を解除すれば全ての魔力が蒸発する、そしてその人間は死に至る———」
ルミは直接殺すことを躊躇っていたが、それでないのであれば……と考えてもいた。結論として殺すことに変わりはない、殺しを躊躇っていたのは嘘だったのか? 否、あの精神状況が不安定なルミにはそれを問うのは酷なことだろう。
「この選択が良かったとは思えません、ですがこれしか無かったとも思っています。……分かりません、分かりませんが、これで……これで良かったんだと思います。クライス」
「ああ」
「全てを、忘れさせて」
二人の唇は重なった———




