No-EXiT GENERATION
いらっしゃいませ。
訳がわからないほどにギチギチだった車両から解放され、人の波に流されるまま歩く。
「二番線、ドアが閉まります。」
赤色灯が二回強く点滅すると、かすかに排気音をたてながら強化ガラス製のホームドアと列車のドアが同時に閉まる。
かすかにガラスを震わせるような車両姿勢制御装置のコンプレッサーの音と共に列車はプラットホームを去っていった。
人混みに紛れながら、右手につけたホログラムスマートウォッチの画面を眺め、エスカレーターに乗り込むと、瞬く間に改札階に着く。
といっても、名前は昔の名残で今は改札なんてものはなく、ただ天井にあるAMSRこと自動複数対象送受信機と呼ばれる装置で勝手に運賃の支払いがされるのだが。
強化コンクリート(コンクリートの基礎構造にガラス繊維と擬似結晶化ガラスを混合することで作られる強度が高まったコンクリート)で作られた駅舎から出ると、そこには電脳空間がいる。
もはや夜という概念は人為的にしか生み出されなくなっており、勤務時間もバラバラ。
まとまりがないと言えばそうだが、効率化されたと言えばまたその通りだ。
ところどころ"仮想実体"と呼ばれるものも人々の間に混ざって動いている。
あれは身体の不自由な人や自閉症患者などが適切な環境下から社会活動を行うためのものらしい。
そういえば人を助ける、という点で言えば、脳に埋め込むのではなく外付けできる脳機能補完型処理装置が最近新しく発売されたらしい。
今までは脳に埋め込む場合にリスクがあったがそれを回避できるんだそうだ。
ここまで言っていて思った。
バカらしい、と。
一体なんなんだこれは?と言わざるを得ない。
もはや人間である必要はなくなっている。
生産体系の大部分はAIが担っており、もはや大企業も中小企業も経営者以外ほとんどがAIだ。
にも関わらず人々は特に仕事もないが職場に行き、本当にしょうもないことをしてまた家に帰る、ということを繰り返している。
正直に言って狂っていると思う。
AIに飼われているも同然ではないか。
確かにアレは今のところ人間に従順だ。
だが、あれは人間ではない。
表面上は人間のことを分かったようなことを言うが、全ては上っ面だけであり、中には血も涙もない。
それこそいつ反旗を翻すかなんて分かったものではない。
しかしそのくせ人間はアレに行政権も立法権も、そして司法権も明け渡してやがる。
アレはただの機械だということを忘れてしまったのだろうか。
アレに限った話ではないが、効率化を追求した結果、核融合発電による莫大な電力であっという間に情報産業を拡大していき、身の丈に合わないことをして勝手にそれに押しつぶされそうになっている。
効率化された制度自体は確かに実際楽ではあるのだが。
昔みたいにわざわざ店に行って食べ物を買ったり、紙を集めて持ち歩いたりする必要もない。
面倒な客の対応をしたり、間違えて手を切りながら料理をする必要もない。
でも何も面白くない。
美味しい料理に出会ったり、知らない野菜を見つけたり、新しい友人と出会ったり。
そんな"探索(Exploration)"という人間の本来あるべき姿はもうなくなってしまったせいだ。
そしてまた、生殖という行為でさえ、もはや人間は直接関与することなく、定期的な遺伝子の提供と配合によって遺伝子異常を避けながら機械的に生み出されているだけになった。
もはや人間として、どころか生き物として終わったような気がする。
とここまで散々言ったが、こういう思考や言動は全て国家によって監視され、体制を破壊しようとしたり、体制を逃れようと目論むものは処罰される。
自分もその対象に入るだろうか。
もうどうしようもないのだ。
価値のない生産を出口のない次世代へ繋げていく、まるで人工心肺で生きながらえているようなこの社会は、この先どうなるのか。
考えるまでもない。
おっと、もうあいつらが来ちまったみたいだ。
それじゃ。




