初仕事
どこに向かってるのかわからないまま、筋肉(母)を信じて付いていく。しかし、本当に臭い。家の周りや家の中は控えめで、風呂キャンプロの私だから耐性がついたが、このあたりはかなり臭い。家も少なくなってきた。さすがにこのあたりに住める私超えの人間は少なそうだ。ここまでかれこれ500メートルくらいだろうか。
――ッ!?何だここ!!5メートルほどに掘られた穴のなかにハエが群がっている。異臭もここが一番強い。え?ここ、なに?
「ほら、ついたよ。水場だ。」
え、水場?もしかして昨日のご飯も…。
吐きそうになるのを何とか抑え、母に問う。
「もしけしてご飯の水も……」
「……?アハハ!何言ってんのさ、便所の水を使うわけないだろ?メインは横にある井戸さ。」
横を見ると、50メートルほど先に井戸のようなものが見える。よかった。でもなんでここに?井戸に直でいけよ。わざわざ水場をみせたかったの?
「わたしは、ちょっとお腹が痛いから、アンタは先水くんできな。」
まず分かったこと。1、トイレを一から作る手間は省けた。2、これが普通。3、ここでするの!?
こんなところで排泄するなんて、溜まったもんじゃない。丸見えじゃないか。もし一人で来たとき、変質者とか人さらいが襲ってきたらどうするつもりだ…。まぁ、この人は大丈夫だと思うけど…。
「ちょっと待って!!こ、ここでするの!?」
無論、私はこんなところでしたくなんかない。慌てて母に問いかける。
「アンタ、今までずっとこうしてきたのに、今さらなにさ!?まぁ、アンタがずっとここでするの嫌がってたのは知ってるけど…。」
そうだよ。藍。その感性は正しいよ。天国でもその感性を忘れないで。
「アタシだって人に見られるのは趣味じゃないよ!!だから早く水汲みにいけっつってんだ!!ほら、いったいった!」
「うん!」
確かに、自分の母のトイレは見たくないなんてもんじゃない。しかも、私にとってこの人は他人だ。もっと見たくない。人生で一番と言っていいほどのダッシュで井戸に行く。
「はぁ…。この世界もう無理かも…。」
さすがの私でも、水回りはちゃんとしておきたい。(風呂をのぞく。)
決めた。トイレ、作ります。今頑張って踏ん張ってる母さんのためにも。
遠目に見える母は、無茶苦茶シュールだった。このままだと、私の腹筋が耐えられない。それに、私も腹筋崩壊に触発され、私まで便意を催す危険性が、ある。
井戸の水を汲み終わったあと、母の所に行こうか、迷う。待ってたら来てくれるとは思うが、少し怖い。自分の顔を初めて桶の中の水で見たが、かなり可愛い。あの筋肉ゴリマッチョから生まれてきたとは思えない華奢な顔。きれいな藍色の髪。これじゃ人攫いに狙われてもおかしくない。その点、母さんは抑止力になる。あれに立ち向かってくる人間は、相当な勇者じゃないと無理だろう。母さんも、昔は顔がかわいかった面影ある。今は、おばさんだが、顔は整っている。しかし、その下についている鍛え抜かれた筋肉がすべてをかき消し、異質な存在感を放っていた。
どうしようかな。まぁ、50メートルしか離れてないし、大丈夫か。
え?なんか15分くらいこのままなんだけど。何?終わらないの?見るからにトイレットペーパーなんてなさそうだし、終わったら来ると思うんだけど。え?そんな便秘だったの?
「ちょっと!早くこっち来なさい!」
あ、あ〜、行くのね…うわ、いやだな…。
まあ、ここは愛娘藍。頑張ります。
小走りでトイレ中の筋肉に駆け寄る。すると、なぜか叱責を受けた。
「何やってんだい!事が終わったあとは水で尻とこの穴のなかに水をかけなきゃならないだろう!」
「セルフウォッシュレット!?」
「何訳の分かんないこといってんだい!?せるふうぉしゅれっと?いいから早く桶をよこしな!」
「うぇ〜、はいどうぞ。」
思わず顔を背けてしまう。そのままオケを母にわたす。
「顔を背けるのは正解だけど、うぇ〜は余計だよ。」
母の事が終わったあと、もう一回桶に水を入れた。私は桶一個。母は、持ってきていたデカめの樽を3個を両手に担いでいた。この樽は、物置で見たことある。まさか担いでいくとは夢にも思っていなかったが。
その後、畑に向かった。母さんの畑は、川の近くにあるらしいので、ここからもう少し歩かなければいけない。多分、山川芋なるものを育ているに違いない。
しかし、断定できないので一応聞いてみる。
「母さん、作物ってなに育てるんだっけ?」
「なんだい、しばらく手伝わない間に忘れちまったのかい?私の家は山川芋を育ててるんだよ。管理が難しいし、この村で育ててるんは私くらいだろうね。」
え?もしかして山川芋も貴重だった?
金持ち活路見いだした私は早速便乗する。
「てことは、めっちゃ高く売れるね!」
「バカ言ってんじゃないよ。乳牛育ててるんじゃあるまいし、作物はみんな一定の価値しかない。」
「え?」
あまりに不公平である。将がいなければ山川芋は食べられない。あ、でも市場で人気がなかったら元も子もないか。
では、市場で人気を跳ね上げさせれば、ある程度の値段の融通がきく。この村の特産物にも出来るはずだ。そうすれば、山川芋の価値は跳ね上がる。金持ちルートまっしぐらだ。これでも、大学は楽して取れる単位が多いと有名な大学の経済学部だった。授業聞いてなかったし、たぶん今のは誰でも思いつくけど…。
「母さん!それすごいことだよ!この村で育ててるのが母さん一人なくらい育てるのが面倒なんでしょ?じゃあ、その特別性を生かしてなんかするべきだよ!」
「でもどうやってやんのさ。価値はみんな同じだし、芋は料理で使う人も多いから、村の人は私の山川芋を買い取ってくれる人もいる。別に、みんなの常識からしたら山川芋なんて特別じゃないのさ。」
決めました。私の今の目標に追加で。母さんの山川芋の利益を跳ね上げさせる。かなり金持ちへの活路が見えた。出来るかな…トイレに金。本気出すぞ。うん。明日か明後日くらいから。
「と言うか、明日は奉納の日だからね。山川芋はかなり気候につよいから、明日奉納する分がある。」
「え!そうなの!」
じゃあ手っ取り早いじゃん。領主に直々にプレゼンしたら良いだけだ。
あと、食べた感じ、さつまいもに似たような感じがした。芋と言うのは気候に強く、結構いろんな国で作られてる的なのを社会科で習った気がする。いや、習った。そういうことにしておこう。
「確かに、芋って乾燥に強いしね。今があんまし作物が採れない乾燥した時期ってことは育ちどきかな?。」
「あんた、何処でそんな事知ったの!?そうよ、山川芋は川の清らかな水を吸って育つ。そこから適度に乾燥させる、つまり頻繁に水やりしすぎないように気をつけながら育てていく。甘みと口当たりが良い、山川芋の育て方 特徴を、何でアンタが知ってんの?」
あ、しまった。これはいかん。私は前世の記憶があるから分かるが、そんな事言えるわけもないため、周りからしたら急に知識がついたように見えるのか。
「やだな、前教えてくれたじゃん!早く点と遊びたくて話半分でしか聞いてなかったけど、たった今急に思い出したの!」
「そんな事もあったかねぇ…。」
素晴らしい演技力。点と遊びたいという屈辱な嘘も突き通したのだ。通じてもらわなくては困る。それなりに忘れる理由も、前の藍の性格に則ったものにした。前の藍が遊びに行く(サボりに行く)とき、母追いかけなかったと言うことは知れている。忙しくて追いかけられなかったという裏設定を考慮することで、この時母が忙しく、その時のとことを思い出せないという説得力も持たせている。完璧だ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。もし誤字脱字や設定の矛盾、不備等あれば、教えていただけるとありがたいです。
次回は、この物語のテーマの根幹ともなっている、領主の娘についに相見えます。ぜひ見てみてください。




