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残響戦域レゾナンス  作者: 素人Knight


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第二章 機動兵器〈ストラクト〉②

「どうっすか?」


 先の一件の少し後。旧市街地フィールドに繋がる格納ドッグ内で、グレンは自身の相棒となるストラクトの調整を受けていた。


「おう、完璧だ!」


「ならよかったっす」


 胸部に取り付けられた操縦席コクピットのハッチを開き身を乗り出したグレンがグッドサインを向けるのは、溶接ゴーグルを頭にかけた少女。


 ストラクトの調整と言っても、機体のパーツをいじるのではなく、平均的な調整の施されたOSをグレンの操縦に適した形に調整し直すという作業だ。


 作業は全て少女の前に置かれた複数本のケーブルが伸びる専用PCで完結する。故に、少女が頭に引っ掛けた溶接ゴーグルはこの場において何の意味もなしていないのだが、グレンがそれを尋ねることはリーゼロッテとノワール二人の手によって阻止された。


 その際にリーゼロッテは、「あれがお洒落だと思っているイカれたファッションセンスの持ち主なの」と説明したが、どうやらそれは本当らしく、少女は度々頭のゴーグルに触れてその感触を味わっている。


「すげぇなミフィーラ。授業中に乗ったのとはまるで別物だぜ」


 グレンが乗り込んでいるのは、午後の授業で使用されたものと同一のモデル。


 アクシア重工製、型式番号AM007。汎用量産機〈レギオン〉。全高十六メートル、機体重量二〇トン。


 ドッグの照明を受けて影をせり上げるアステリウム合金の外装は無機的のフォルムを形作り、胸部の内側に位置する操縦席コクピットを保護するために暑い胸板を作り出していた。


 表面の外見は無機質な合金であるものの、全体として人型を成しており、人体と同程度の可動域を持つ間接が存在している。


 だが、左側頭部のアンテナやアイカメラ、肩に装着されたシールド。照明を受けて鈍く輝く鉛色の配色が、そのストラクトが歴とした兵器であることを示していた。


 耐久力、出力、機動力の全てにおいてバランスが取れた機体。


 学園が教育目的で所有するストラクトだが、決闘の際にはこうして貸し出しを受けることもできる。


「どうもっす。そっちこそやばいっすね」


 ミフィーラは手元のPCに映る数値を見ながら、純粋に驚いていた。


「なんちゅう反応速度してんすか。機体性能の一歩外すよ、これ」


「こいつがポンコツ過ぎんだよ。授業中も、全然思ったように動きやがらねぇ」


 そうぼやくグレンだが、〈レギオン〉は量産機ながら優れた機体だ。現行の第五世代ストラクトの中でも、如何なる環境下でも安定的な数値を出すことができる汎用機の名に相応しい万能性や、第四世代に初めて搭載された、姿勢制御を含めた多岐にわたる操縦をサポートする〈意思伝達システム〉もかなり洗練されたものが搭載されている。


 操縦システムを管理するOSに搭載されたAIも、アクシア重工が社歴と共に積み上げてきたデータで学習させた実践仕様。


 学生が教育目的で使う機体にしては、これほど高級なものはないと多くの関係者に言わしめている。


「いい腕だろ、彼女」


 地上へ降りて来たグレンに声を掛けたのは、決闘に備えて急いで機体の調整が必要だと彼女を紹介したノワールたった。


「ありゃもうプロ並みだな。学園の量産機が、殆ど専用機同然の仕上がりに化けやがった」


「へへ、そりゃどうも。もし決闘に勝てたら、ワタシと個人的に契約結んでくれてもいいんすよ?」

 調整を終えたミフィーラが、頭を掻きながらそんな話を持ち掛ける。


「勝てたらっつうか、今すぐにでも契約したいくらいだ。でもいいのか? 勝つにしても負けるにしても、俺は派閥外の人間だろ」


「ワタシはどこの派閥にも入ってないんすよ。基本的にフリーで契約してるっす」


「工業科の生徒は、パイロット科と経営科ほど派閥に加入するメリットが少ないんだ。彼女達の殆どが卒業後はどこかの企業に就職するんだけど、誰の派閥でどう活動したとかはあまり評価されない」


「むしろ、非活動的な派閥に属して技術を占有されたくらいならフリーでやって腕を磨きたいというのが本音でしょうね」

 ノワールの説明に、リーゼロッテが補足する。


「一年生の間は派閥に所属して仕事をもらって、二年生から独立する人もいるっすね。

 まぁ、腕が無い間はそれが安牌っすね」


「なるほど。それで個人契約か」


「そうっす。一応、学園に来る前から仕事してたんで、その辺に関しては信用してもらっていいっすよ」


 継続して金を稼ぐことができれば、本当に契約をしても良いかもしれないなとグレンが考えていると、


「どうやら準備は万全のようですね」

 ドッグ内に、上品な女の声が響いた。


「会長、いらっしゃったんですか!」

 ノワールが驚いて声を上げる。


「えぇ。何やら面白いことをしていると噂で聞きまして。グレン君、登校初日に問題を起こすとは、なかなかのヤンチャぶりですね」


「問題は起こしてないぜ? こりゃ決闘だからな」


「その決闘に至るまでのいざこざについては、聞かないことにします」

 その口ぶりからして、食堂や先程起こったことについては知っているのだろう、とグレンが察した。


「それで、今回はかなり不利な決闘と聞きましたが。勝機は見えているのですか?」


「アイツの映像は見たからな。勝てない相手じゃないさ。唯一不安だった機体も、ミフィーラが完璧に調整してくれたからな。余裕で――」


「負けるわよ。絶対に」


 グレンの言葉を遮って、リーゼロッテが冷たく言った。脅しではなく、純粋な予想としてだ。


「ミフィーラの調整とアンタの腕があったとしても、ガイオスには勝てないわ」


「理由は?」


「何もかもが不利だからよ。アイツの機体、〈フルアーマー・レギオン〉はこの〈レギオン〉のカスタム機。肩書は汎用量産機の派生機だけど殆どアイツの専用機同然で、耐久力も出力も機動力も〈レギオン〉の数段上よ。アンタには分からないかもしれないけど、基本的に汎用機じゃ専用機には勝てないわ」


「一応、専用機なら俺も持ってるぜ」


「え、アンタ専用機持ってるの? じゃあなんで〈レギオン〉になんて……」


「あぁ、それが……」


 リーゼロッテの疑問に、イリシアが代わりに答えた。


「彼の機体は搬入が遅れているんですよ。学園仕様のプログラムもインストールしないといけませんし、仕えるようになるまではまだ時間がかかります」


「そもそも、本人からして二ヶ月遅れで入学してるからな」


 冗談めかしてグレンが付け加えると、困惑した表情のノワールが言った。

「グレン、君それは本当か?」


「本当だ。地球に居た頃からの相棒なんだよ」


「そうか。君もそっち側なのか……」


「ノワール?」


 意味深な発言に、僅かにグレンが引っかかる。だがリーゼロッテはそうではないようで、気にせず話を続けた。


「専用機を持ってるなら分かるでしょ。パイロット本人に最適な設計でゼロから作られた機体と、汎用機じゃ勝負にならないことは」


「かもな。でも、機体の性能だけが勝負を決めるわけじゃない。違うか、リーゼロッテ」


「ええ、そうね。パイロットの技量や戦場の環境。仲間の有無や腕前。そういった要素が戦いの勝負を決める」


 それで、とリーゼロッテは続けた。

「アンタに仲間はいるの? 旧市街地フィールドで戦った経験は?」


 グレンは特に返答せず黙ってリーゼロッテの言葉を聞く。


「パイロットしての技量は認めて上げる。そこだけはガイオスともタメ張るわ。でも、それでもこの決闘には勝てない。絶対にね」


 リーゼロッテのその言葉には、何の感情も含まれていない。ただ冷淡に事実を告げている。


「まぁまぁ。先にグレン君を勧誘しなかった後悔は分かりますが、もう決闘は決まってしまっていますから。ここは静観しましょう」


「先にグレンを勧誘したのは私です。ガイオスが無理やり割り込んで――」


「それが派閥争いというものです。あなたよりもアルファード君の方が派閥拡大に貪欲だった。それだけの事です」


 ガイオスが決闘で無理やり仲間を増やすのは、今に始まったことではない。彼は入学以来ずっとそうして派閥を拡大してきた。


 そんなガイオスに対して、リーゼロッテは消極的だった。自身のバックである『フロート・テクノロジーズ』の業績が『アクシア重工』に比べて悪いことに負い目を感じ、有無を言わないような姿勢が足りていなかった。


「そういう意味では、彼の方がこの学園での振舞いを心得ていた、というだけの事ですよ」


「ぐぅ……」

 リーゼロッテがイリシアの正論に押し黙る。


「おいおい、勝手に人が負ける前提で話し進めるなよ」


「勝つ気なの?」


「当然だ。アイツの下に就くのもそうだが、勝負に負けることはもっと嫌なんでな」


「楽しみにしてますよ、グレン君」


「おお、期待しててくれよ会長」


 笑って答えると、時計を見たノワールが言った。

「時間だ、グレン」


「おお、もうそんな時間か」


「兵装はどうするすっか?」


 〈レギオン〉は汎用機というだけあり、兵装にも複数の種類がある。〈レギオン〉が使用できる兵装の一覧表を見せながらミフィーラが尋ねる。


「一四〇mm機関砲と高周波ブレードアックスで頼む」


 グレンが選択したのは、〈レギオン〉の最も標準的な装備だ。着脱式マガジンを機体に複数本携行できる、レールガンの原理で実体弾を放つフルオート射撃可能なアサルトライフルと、刃が高速で振動することで斬撃の威力を向上させる斧のような形状の格闘兵装だ。


「そんなのでいいんすか? 一応、学園がビーム系やヒート系も用意してるっすよ」


「いや、それでいい。早速つけてくれ」


「本人がそういうなら……了解っす――!」

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