第一章 二ヶ月遅れの特待生④
昼休みが終わり、午後の授業が始まった。
グレン達パイロット科の生徒は学園指定のパイロットスーツに着替え、ストラクト格納ドッグに集まっていた。
ようやくストラクトに乗った授業を受けられると目を輝かせていたグレンだが、数分後には欠伸をしながら授業を受けることになっていた。
『くぁ~。なんだ、このクソつまんねぇ授業は』
この日のパイロット科の授業は、学園に用意されたストラクト訓練場の一つ、第二演習場・市街地フィールドを舞台とした、瓦礫を指定のポイントまで運び終えるまでのタイムを競うという内容のものだ。
学園に支給された汎用量産機〈レギオン〉に搭乗し、瓦礫を運ぶグレンがぶつくさと文句を垂れた。
「私語を慎めアールド! 減点されたいか!」
『やべ、マイク繋がってたか』
教師の注意を受け、グレンが黙々と瓦礫を運ぶ。
するとその最中、〈レギオン〉が足をもたつかせ姿勢を崩した。
それが操縦技術の未熟による姿勢制御ミスに見えたのか、教師は手元の紙に何かを書いている。
「アイツ、まじめにやりなさいよ」
格納ドッグ内のモニターでグレンの操縦を見て、教師とは別の評価を下したパイロットスーツ姿のリーゼロッテは頭を抱えてため息を吐いた。
とはいえ、この授業が退屈であるというのはリーゼロッテも同感だった。
普段はもう少しやりがいのある、緊張感のあるカリキュラムなのだが。生憎今日はパイロット科の担当教師が二年生の課外授業の付き添いで不在。
その状態で危険度の高い授業を行うことはできず、こうして基本的な操縦技術を向上させる授業内容となっているのだ。
「けッ、ふざけた野郎だ」
いつの間にか隣に立ったガイオスが、モニターに映る〈レギオン〉の動きを腕組みで見上げながら舌打ちした。
「だがまぁ、流石は特待生ってところか」
「アンタにも分かった?」
「あの野郎、ふざけてやがるが実力は本物だ。〈レギオン〉の姿勢が崩れたのはミスしたからじゃねぇ。退屈しのぎにタップダンス踊っただけだ」
ガイオスの評価を無言で肯定し、リーゼロッテは続ける。
「指定ポイントまでの移動に一切の無駄が無かった。市街地フィールドとは言え、足場は瓦礫だらけで段差も多い。それをアイツ、一切迷いなく突っ切ってた」
「真面目にやってりゃ、俺達よりも短いタイムだったろうな」
実際、指定ポイントに到着するまでのタイムは二人が知る限り過去最速だった。
双方、何があっても仲良くできない奴と相手を表しながらも、グレンへの評価は同じだ。
――グレン・アールドという男は、ただ者ではない。
「ありゃ、間違いなくやってるな」
ふと、ガイオスがそんなことを言った。小声と言うほどではないが、リーゼロッテ以外には聞こえない声量。
「やってる……?」
「とぼけるなよノクティス。学園生活で平和ボケしたか?」
「なに、喧嘩売ってるわけ?」
「ふん、やるか? 決闘ってなら、俺は派閥を使うぞ」
「チッ」
リーゼロッテは舌打ちでガイオスに続きを促した。
「野郎は間違いなく実践経験を積んでるな」
「実践経験?」
ガイオスの言葉にリーゼロッテが疑問を示す。
「お前だって何となく分かってる筈だ。俺もお前も、そういう奴は嫌ってほど見て来たからな」
言われて、リーゼロッテはグレンの言動を思い出した。
やがて、ガイオスの言っていることに思いあたる節があったのか、静かに頷く。
「……そうね」
フロート・テクノロジーズとアクシア重工は共に、宇宙空間における警備業を営んでいる。
その社長の子女である二人は、学園入学以前より会社に所属し、パイロットとして訓練を積んできた。
教官の中には、戦地で数多くの任務をこなし、血みどろの戦場を駆け抜けて来た退役軍人もいる。
二人がグレンから感じたのは、彼らを前にした時と同じ感覚だった。
それは二人を以てして容易に言語化できるものではない。
普段の歩き方や、ストラクトへ搭乗する際の足取り。一切無駄のない操縦技術。
平和な学園にいると忘れそうになる無数の違和感の積み重ねが、あれは間違いなく実践を積んでいると二人に確信させた。
そんなことを思いながら、ふとリーゼロッテが思い出したかのように口を開く。
「そう言えば、昼休みにアンタの派閥メンバーがグレンと揉めてたわよ。ちゃんと管理してよ」
登校初日の奴に絡まないでよね、とぼやくリーゼロッテ。
「あぁ知ってるぜ。ありゃ俺がけしかけたんだからな」
ガイオスはにやりと口角を上げた。
「はぁ!? アンタ、何考えてるの?」
「決まってんだろ。あの野郎を俺の派閥に入れる計画だ。ま、楽しみにしてろ」
「待ちなさい。グレンは私が先に声を掛けたのよ!?」
「知るかよ。行動を起こしたのは俺が先だな」
そう言って、ガイオスは踵を返した。
「ちょ、待ちなさいよガイオス!」
悔しそうな表情を浮かべながら歯を食いしばるリーゼロッテ。
「どうした。腹でも痛いのか?」
ストラクトを降りたグレンが、リーゼロッテに声を掛ける。
今日何度目か分からないリーゼロッテのため息が、格納ドッグ内に零れた。




