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残響戦域レゾナンス  作者: 素人Knight


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第六章 共振〈レゾナンス〉④

 思念で吠えたノワールが操る〈オブシディアン〉が、両腕のブレードを構え〈インフェルノ〉へと迫る。


「ま、端から説得が無理なことはわかってたぜ、ノワール!」


 応えるようにグレンも叫び、機体を前進させた。


 両者の中間地点で交わるパルチザンとブレード。出力は僅かにグレンが上だった。


 交錯する二本のブレードごと相手の機体を押し込んでいく。瞬間、不可視の斬撃が来ることを予期したグレンの意思を読み取ったシールドが二機の間に割り込みそれを防ぐ。


 互いに一歩後ろへ退くと、息つく間もなく再度接近し得物をぶつけ合う。その度に壮絶な衝撃が機体を伝い月面に走る。


 ぼろぼろになったその場所では戦えまいと足場を変えようと〈オブシディアン〉が空中へ飛び出した。


 月の重力は軽い。〈インフェルノ〉に比べて機体重量が軽い〈オブシディアン〉の機動力はその分さらに機動力が増すことになる。


 機体にかかる慣性を無視するかのようなマニューバを繰り返しながら、ノワールは再び機体をステルス化させた。


 〈オブシディアン〉本来の戦闘スタイルは奇襲と速攻。視界からもレーダーからも消え、接近を悟らせぬまま相手を一方的に打ち倒す。


 それゆえ、ステルスシステムは地上戦ではなく空中戦、あるいは宇宙空間での戦闘を想定して設計されている。


 地上戦では、グレンがリーゼロッテ達に伝えたように機体の痕跡が残ってしまうからだ。それではせっかくのステルス化もその効果は半減してしまう。討たれはしないが、練度の高いパイロットが相手では逃げられてしまうだろう。


 ある意味で、先程までノワールはハンデを背負って戦っていたようなものだ。


 とはいえ、一度も着地せずに戦うというのは言うほど簡単ではない。


 足場のない空中で戦うためには途方もない技術がいる。まずもって空中で姿勢を安定させる必要があり、その次に敵機に攻撃するための重心制御の技術が必要となるからだ。


 ストラクトに搭載された姿勢の制御システムは、あくまで地上での行動を想定したものである。いかなる改良を施しても、宙に立ったり走ったりできるものではない。


 地上で暮らす人間が、いきなり水中や無重力空間に投げ出されてもまともに動けないのと同じ理屈。


 パイロット科の二年生が課外授業で宇宙空間での戦闘訓練を積むのは、少しでもその環境に慣れるためだ。


 だが、仮にその技術を完璧に会得したのならばそれはまさしく脅威。前後左右関係なく、察知する間もなく襲われる。


 それはもはや戦いではなく、一方的な蹂躙に他ならない。


 だが。


「読めてるぞ、ノワール!」


 思い切って振り向きながら薙いだパルチザンで、ステルス化した敵の刃を受け止める。


 響振能力の影響下であるなら話は別だ。空間に広がった残響粒子は、二人の思念を断わりもなく共有させる。当然、そこには敵を打ち倒そうとする殺気も含まれている。当然の話だ。


 そして残響粒子が伝えるものは、パイロットの殺気だけではない。機体の動きすらも伝えている。


 大型シールドを向かって右側面に展開し攻撃に備える。透明なブレードがシールドに受け止められる。衝撃を感知したOSが、真空では発生しない音を再現しグレンにそれを伝えた。


 どれだけ機動力が優れていようとも、攻撃をガードされた直後には僅かな硬直が発生する。そこを狙ってパルチザンを振り上げた、その直後。


「おっと」


 目の前で二枚のシールドが左右に広がり、次いで向かってきた不可視の斬撃が〈インフェルノ〉の装甲を浅く切り裂いた。


「重ねてきたな……」


 それを成した敵の技を、グレンはすぐに理解する。二本のブレードを深いシールドを掻き分け、その隙間から斬撃を放ったのだと。


 響振能力に目覚めた者が相手の思考やストラクトの気配を察知できるといっても、その行動の全てを完全に把握できるわけではない。


 これまでグレンが攻撃を捌けてきたのは、〈オブシディアン〉の攻撃が素早い連続だとしても、それが二本のブレードを同時に使用するのみであったからだ。不可視の斬撃はあくまで両腕のブレード攻撃の後、追加として放たれていただけ。


 しかし先程の攻撃は違った。一撃目は防がれると想定し、直後にもう一撃を用意していた。着地を挟まず、同時に攻撃をされれば流石のグレンも捌ききれない。


「本気で殺しに来てるってわけか。上等だぜ、ノワール」


 だが、グレンの表情に焦りはなかった。冷静沈着、とも違う。一歩後退が遅ければ自分を襲っていた死を前に、高揚すらしていた。


 このまま行けばグレンの不利は明白。にも関わらず、そんな表情をしていたのは。それがすぐに覆ると知っていたからだ。


「さて、そろそろ出来ただろ、【A.L.I.C.E.】……」


 自機のOSに搭載されたAIに呼びかける。すると、合成された機械音にしては人間っぽい声が返ってきた。


『解析完了。光学迷彩を機能中の敵機をモニターに表示します』


 その声と同時、グレンの正面に広がるモニターに〈オブシディアン〉が表示された。ノワールがステルス化を解いたのではない。


 それは〈インフェルノ〉のOSに搭載されたAIが、アイカメラに映った〈オブシディアン〉の映像や、グレンが戦い続けて得た情報を基に再現された姿だ。


 全身を覆う漆黒の装甲に、両腕と腰に装備したブレード、そして……。


「やっぱそうだよな!」


 グレンは自身が予想していた敵の本来の姿と、AIが再現した姿が同じだったことに声を上げた。


 ペダルを強く踏み込み、再び〈オブシディアン〉に接近する。その動きに迷いはない。既に敵の攻撃のカラクリは暴き終えているのだから。





 一方、生徒会室ではリーゼロッテたちがグレンの戦いを息を呑んで見ていた。


 二人の間にどんな会話があったのかはわからない。だが、こうして戦いを再開している以上ろくなことではないだろうと予想は付いた。


 深紅の機体が月面を暴れまわる。時折ステルスを解いて姿を見せる〈オブシディアン〉は、高い機動力によってあちこち動いているが、グレンはそれを逃がさない。


 追いついては格闘を挑み、離れられればまた追いかける。そうして数分が経った、そのとき。


「ここに来て射撃……?」


 モニターの中でパルチザンをビームライフルに変形させた〈インフェルノ〉。それを見たリーゼロッテが首を傾げた。


「格闘ではらちが明かないと思ったのでしょうか」


「いや、むしろ格闘が一番勝つ可能性が高い。〈オブシディアン〉の機動力じゃ、射撃なんてほとんど当たらないだろ」


 実際に戦ったガイオスがそう言い切る。中庭で戦った際は、戦斧をガードの上から叩きつけることはできても、ミサイルやガトリング砲と言った射撃は一度も当たらなかった。


 それが月の重力で機動力を増したとなればなおさらである。


 しかし。


「野郎がそんな間抜けなことするとは思えねぇ」


「確かに……」


 グレンであれば、と考えてしまう。派閥メンバーを動員して戦いを挑んでも、遥かにスペックで上回る機体に乗っても倒せなかった。そんな相手に期待してしまう。


「う、撃ちました!」


 黙って観戦を続けていたミフィーラが叫ぶ。暗い空が広がる月面フィールドを、赤いエネルギーの弾が連続で飛ぶ。


 〈インフェルノ〉が装備しているハイブリッド・パルチザン〔崩衝〕は、連射性能に優れた射撃兵装だ。


 一発一発の威力は〈ガンダリス〉の〔浮遊する牙〕よりも低いが、燃費の良さは桁違い。他のビームライフルと比べても、砲身に熱が籠りにくいという特徴を持っている。


 砲身から放たれた荷電粒子の塊が真空を走る。〈オブシディアン〉は攻撃を避けるためにステルス化しているが、グレンの射撃に迷いはない。


 移動しているのであろう相手を狙っているのがその姿から分かる。それはひとえに、


「響振能力……」


 リーゼロッテが先程告げられた能力の名を無意識に口にした。


 数秒後、放たれた荷電粒子が弾けた。


「当たった!」


 月面フィールドは真空である。当然そこには酸素もなく火は散らない。よってビームライフルの弾が当たった形跡は基本的には装甲に残された傷でしか現れない。


 透明化した〈オブシディアン〉に着弾したのが分かったのは、数十メートル進んで霧散するはずだった荷電粒子の弾丸がその道中で弾けたからだ。


 同じ光景がもう二度続く。すると不可解な現象が起こった。


 荷電粒子が弾けた三カ所から小さなドローンが現れたのだ。


 機体の真ん中を撃ち抜かれたそれは、機能を停止し墜落する。その姿はまるで、先日の学位戦でグレンに破壊された〔浮遊する牙〕そのものだった。


 直後、地に落ちたドローンのすぐ上空に異変が起きた。まるで砂漠の蜃気楼のように、中継映像が乱れるように景色が歪む。


 果たしてそこに、漆黒の機体が現れた。

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