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残響戦域レゾナンス  作者: 素人Knight


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第六章 響振〈レゾナンス〉③

「どうしてテロを起こす。答えろ、ノワール」


 向こうにも聞こえているだろうと決めつけて語り掛ける。相手も使える(、、、)ことは分かっている。言葉で語られずとも、文章で書かれずとも、なによりも正しい己の直感がそう言っている。


 ノワール・シングリスは、自分と同類なのだと。程度には差があるだろうが、少なくとも返答するくらいには使えるだろうと。その直感が違うはずもなく、頭に響く言葉があった。


『僕ら【星の雨】の活動目的は知っているだろう。革命だよ。この腐りきった宇宙社会の構造をひっくり返す。そのために、僕たちは戦っているんだ』


「あぁ、そういやそうだったな。一つ聞くぞ、ノワール」


『なんだ?』


「その革命のために、お前はあと何人殺すんだ?」


『いまさらそんなことか。なら答えは簡単、必要な数だけだ。といっても、その対象はきちんと選別している。むやみやたらに、無差別に殺す気はない』


「選別ねぇ……」


『僕らが殺すべきなのは、この宇宙社会の搾取構造を作り上げそれを維持している醜い大人たちだ。だから僕も、この学園の生徒を殺すつもりはない』


「殺すつもりはない? お前、正気か?」


『何が言いたい?』


「生徒を殺したくないだと? 俺にはさっき、お前がリーゼロッテとガイオスを殺そうとしているように見えたぜ?」


 グレンが割って入らなければ、間違いなくリーゼロッテは殺されていただろう。にも関わらず、ノワールは殺す気はないと言う。その矛盾をグレンは突き詰める。


『彼女は別だよ。それと、ガイオスもかな。あの二人はどちらかといえば殺すべきだろうね。僕らの革命のためには』


「また革命か。そのためならどんな非道も許されるって言いたいのか?」


『革命と犠牲は常にセットだ。人類の歴史を紐解いてみれば分かることだ。体制に反旗を翻して構造を変えるには、結局多くの血が流れる必要がある。リーゼロッテやガイオスは体制側だ。彼らを殺すことには大きな意義がある』


「今度は大儀と来たか」


『大儀なき暴力は悪だ』


「まるで自分たちのやっていることが悪じゃないとでも言いたげだな」


『価値観の違いだ。今は悪に見える僕らの行いも、一〇〇年後の歴史の教科書には善行として書かれているはずだ。どんな革命も初めはテロだからね』


 つらつらと語るノワール。その言葉に、グレンは言いようのない違和感を覚えた。その正体はすぐに分かった。


『僕らとともに来い、グレン。君はきっと、僕らと志を同じにできる』


「はっ、なに言ってやがる。意味が分からねぇよ」


『いや、君は分かっているはずだ。僕らの目標は、宇宙社会の構造を破壊し恒久的な平等を実現することだ。それが達成されれば、今は荒廃した地球にも安寧が訪れる』


 五年前のバベル事件より以前から、地球は宇宙へ進出した人類に用済みとして半ば捨てられた惑星だった。経済は滞り、教育も福祉も何かもが足りていない。もし全ての惑星、全ての人間に平和が与えられるというのならば、ここでノワールの手を取るのもありなのかもしれない。


 そんな考えが僅かに過り、すぐに否定する。――そんなことはあり得ない、と。


「お前の言っていることは無茶苦茶だ、ノワール」


 ノワールの口から出た言葉の全てを、グレンは続く言葉で否定した。


「殺すのは大人だけと言いながらリーゼロッテ達を殺そうとする。恒久的な平等を実現するのに、真っ先にやるのが社会的地位の高い人間の殺害だと? それじゃどうやってそのあとの社会を立て直すんだ? まさか、子供や教育の足りてない大人に押し付けるのか?」


 ノワールの言う通り、今の宇宙社会には否定のしようもなく搾取構造がある。それを作り維持している者の存在も言わずもがな。


 しかし彼らはそれと同時に、この仮初の平和を維持している張本人たちでもある。搾取を繰り返して得た強大な力で、宇宙の住人たちを守護し、発展を支えている。それが巨大複合企業ヘリオス・グループであり、人類文明の存続と宇宙秩序の維持を担う広域宇宙連合ユニオン・セクターだ。


 彼らを一度に無くせば、宇宙中が混乱に陥る未来は避けられない。


『新たな秩序は僕らが作る』


「本気でそれが上手く行くと思ってるのか?」


『僕らは搾取をしない。万人の平等を作り上げて見せるさ』


「無理だな。歴史を紐解けよノワール。お前が言ったことだ」


 体制に反旗を翻し、多大な犠牲を払って成し遂げた革命。一時的に築かれた平等や平和が恒久的に続いたことが、人類が築き上げた二千年以上の歴史の中で一度でもあっただろうか。


 答えるまでもない。そうはなっていないから今の宇宙社会における格差が生まれ、【星の雨】は生まれたのだ。


「万人が平等な新たな秩序か。耳障りのいい言葉だが、俺にはお前らが世界を支配する未来しか見えないぞ」


『そうだとして、それに何の問題があるんだ? 現状よりはマシだろう』


「いいや、同じだよ。お前らも結局、自分たちが成し遂げたものや掴み取ったものに執着する。今の社会が人に搾取を押し付けるように、お前たちも平等を押し付ける。それでじゃあその平等の基準は誰が作って、基準から外れた奴をどうするんだ? 追放か、あるいは処分か。なんでもいいが、結局は自分の理想を追い求めて、そのために犠牲を山ほど積み上げる。だってそうして得たものなんだからな」


 今の社会は自由競争を前提にした資本主義によって形成されている。【星の雨】が目指すのはその逆なのだろう。


 だがそのどちらにせよ結局は同じことだ。いや、下手をすれば今よりも悲惨な結末かもしれない。なぜなら【星の雨】が掲げる理想の世界では、彼らを抑制する者が誰一人としていない。叶わぬ理想へ盲目的に走った先にあるのは、かつて地球で多くの人間を殺した独裁だ。


「お前の言ってることは頭の先からケツまで理想論で、現実を無視してる。自分が矛盾していることにすら気付かない。だからリスクとリターンが合わないような選択を平気で取れちまう。頭の中で目的と手段がすり替わっちまってるんだ」


 もはや憐れみすら含みながら、グレンはつらつらと語る。それが相手の逆鱗に触れることなど気にならない。戦いを止めてでも言ってやりたかった。


『君に、なにが分かる……。僕らの何が分かるッ!?』


 怒号が頭に響く。それは自分の言葉が相手に突き刺さったことの何よりの証拠だ。

「賢いお前をそうさせちまう何かがあったんだってことは分かる」


 数日とはいえ関わりを持ったグレンには、ノワールは聡明な人物に見えた。だが、今はそれが嘘のようだ。


「誰も教えてくれないってなら、俺が教えてやる。お前は狂ってるよ、ノワール」


 相手がおよそ最も言われたくないであろう言葉を、グレンは容赦なく突き付ける。

 数秒の沈黙があり、ノワールが言葉を紡ぐ。


『狂ってる……? 僕が、狂ってるだって……? 違う、僕は正気だ。僕たちのやってることは、何も矛盾してないはずだ……』


 僅かにノワールの声が揺れる。確信を突いたのだと思い、グレンは言葉を続けた。


「考え直せ、ノワール。今ならまだ間に合う。致命的に破滅する前に、台無しにする前に踏みとどまれ」


 それは短い期間とはいえ、親しく接してくれた友人へ向けた最後の忠告だった。憐憫と同情が多分に含まれた優しい言葉。


 響振能力が共有するのは、互いの言葉だけではない。その奥に潜んだ感情と本音すら晒し強制的に理解させ合う。


 ノワールが胸の奥に宿す悲しみとそこから生まれた激情。グレンが言葉にした伝えた思い。その二つが、何一つの齟齬も障害もなく伝わり合う。


 そしてノワールはその思いを、怒号を上げて吐き捨てる。


『それが遺言かッ、グレン!』


 それが決定的な合図となった。両者の永遠の決裂を示す言葉となった。


『もういい、スカウトは止めだ。君とは何があってもわかり合えない!』


「そうみたいだな」


『最後に聞かせろ、グレン。君は何を求める……何のために戦うんだ』


「自由のためだ。俺もお前も、地球で暮らしてるガキどもも。皆が自由に人生を選べるようにしたい。だからそのために学園を卒業して金を稼ぐ。世界を変えるなんていうお前らの理想と比べりゃちっぽけだが、まぁ悪くないだろ」


『そうか、よく分かった。やっぱり僕らは相いれない。ならば、今から君は僕の敵だ! 君を殺してまた一歩、僕らは理想へと歩みを踏み出す!』



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