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残響戦域レゾナンス  作者: 素人Knight


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第五章 闇を駆ける流星雨④

 エヴァの尽力の甲斐あり、システムの復旧は当初の想定よりも早く進んだ。果たして二時間後、完全に復旧した通信システムによって応援要請の準備が整った。


『カウントダウンを始めます。三、――』


 リペアドックに格納されていた汎用量産機〈レギオン〉へ乗り込み、システムを起動させてグレンは待機している。ガイオスとリーゼロッテも、それぞれの専用機に乗り込み、イリシアのカウントダウンを聞いている。


『二、一、――出撃してください!』


 イリシアの宣告と同時に、三機が動き出した。出撃を悟られないよう、〈レギオン〉が装備したビームライフルによってシャッターを破壊して道を開いた。既にリミッタープログラムは解除されており、制限が解除された機体が莫大なエネルギーを銃身に供給し発射された熱量が鉄製のシャッターを容易に溶かしきる。


 開いた穴から飛び出した三機。機動力に乏しい〈ガンダリス〉と〈フルアーマー・レギオン〉を置き去りに、〈レギオン〉はその場を一気に走り去った。




 出撃から二分。リーゼロッテとガイオスは自機を駆り、ノワールが搭乗しているであろう黒い機体を目視可能な距離まで近付いた。


 ――〈オブシディアン〉。ストラクト登録・削除ログに残っていたのはその機体名のみ。機体の装備や性能面に関しての情報は現時点で皆無。


 よって、リーゼロッテは先制攻撃を兼ねて発射した誘導ミサイルのカメラで観察する。


 黒曜石を示すその名の通り、全身の装甲に光沢のある漆黒の塗装を施した機体の頭部からは、ブレード状のアンテナが二本伸びている。その外見は地球の旧日本国に伝わる妖怪の鬼を思わせるものであった。


 〈ガンダリス〉や〈フルアーマー・レギオン〉に比べて全体的にスリムなフォルム。そして何より、背中に二本と腰の左右に二対四本装備されたブレードが、〈オブシディアン〉を高機動の近接戦特化型の機体であることを説明していた。射撃系の武器は装備しておらず、周囲に展開された三機の小型ドローンがその役目を担っているのだろう。


 その証拠に、ブレードを抜いた様子もなくミサイルが撃墜されカメラからの映像が途切れた。


「飛べ、〔浮遊する牙(スカイ・ファング)〕!」


 出し惜しみは無い。元より惜しみ隠すほどの物はない。グレンとの学位戦によって破損した両のガトリング砲は予め持ち込んでいた予備に取り換えたものの、六機のドローンのうち二機は完全破壊され未だ新しい物は届いていない。肩のミサイルポッドも、右側は接合部の破損が大きく、左側しか付け直せなかった。


 肩関節の修復が済んでいたのは幸運だった。無茶な動きで壊れたままではまともに戦うこともできなかっただろう。


 とはいえ、機体の相性自体は悪くない。ガトリング砲に、ドローンやミサイルを装備した射撃特化の〈ガンダリス〉と圧倒的な格闘能力を誇る〈フルアーマー・レギオン〉。白兵戦特化の機体を相手取るには問題ない。


 不安要素もあるが、それは勝てない理由にはならない。ハマれば勝てる作戦が、実行されることもなく圧殺されることなどよくあることだ。


 モニター正面に展開される四つのサブモニター。〔浮遊する牙〕が絡みつくように〈オブシディアン〉へ向かう。周囲に展開された小型ドローンの機動力では〔浮遊する牙〕に追いつけないのか、迎撃の様子すら見せない。


 速攻で機体の重要部分を撃ち抜き行動不能に陥らせる。反撃の隙を与えず倒す。意思を同じくしたガイオスが、〈フルアーマー・レギオン〉を猛スピードで走らせ〈オブシディアン〉に急接近。


 僚機を巻き込まない角度を取った〔浮遊する牙〕が、一斉に射撃を開始する。同時に戦斧を振りかぶった〈フルアーマー・レギオン〉。二人の脳裏に、勝利のイメージが浮かび上がり、


「なっ!?」


 それは完全に裏切られることになった。空振りした戦斧の刃が中庭の地面をひっくり返し、圧縮された熱量が地面を溶かした。


「野郎、どこに消えやがった!」


 通信システム越しに狼狽えるガイオスの声が響く。刹那、サブモニターの二つが黒く染まる。敵の攻撃によって二機の〔浮遊する牙〕が落とされたのだ。


「やっぱりそう来たか!」


 その事実に、リーゼロッテが襲撃時の光景を思い出す。何もない上空から、何の予兆もなく表れたあの光景。まるで透明人間のようなその現象を表す言葉をリーゼロッテが吐き捨てる。


「ステルス化……光学迷彩か!」


「本気で言ってんのか、ノクティス。そいつは十年以上前に否定された技術だぞ」


 その言葉に、リーゼロッテも知っているその技術についての知識を思い出す。


 ガイオスの言う通り、ストラクトの開発過程において機体の完全ステルス化やそれを起こす光学迷彩技術は幾度も研究されてきた。しかし、今日に至るまでその実現は成っていない。要はそういうことだ。


 端的に言って不可能なのだ。機体の完全ステルス化など。まずもってストラクト程の機体を覆い隠すために要求される技術レベルは、人間大のそれに求められるものより遥かに高く、ましてや動き回る機体をステルス化するとなるともはや現代の技術では達成できない。


 だが光学迷彩が完全に否定されるに至った経緯は他にある。サイズの問題は技術の進歩によって解決される可能性がある。機体のカメラ性能は既に上がり切っており、人間の目が突然進化することもないからだ。


 最大の問題は、日々進歩するレーダーの性能だけはどうやっても追い抜けなかったことだ。ストラクトに搭載されているレーダーは、熱源探知と電波の反射によって敵機の位置を捕捉している。


 言わずもがな、ステルス化による最大の恩恵は近い間合いから強力な攻撃を無防備な相手に叩き込めることにある。それ以上の距離になると格闘兵装はまず届かず、当時の技術力では例えビーム兵器であっても機体を一撃で破壊する威力は望めない。


 長く続いた研究の果てに、ストラクトのレーダーを至近距離から欺ける技術は開発できなかった。機体に搭載されたAIは熱源探知による温度変化や、電波による形状把握で透明な物体の動きを完璧に捕捉できてしまう領域になってしまっていたからだ。


 それを基にパイロットをアシストするAIが搭載されたストラクト相手に、例え完全な透明化が実現したとしてもレーダーを掻い潜れないそれには意味がなくなってしまったのだ。


 そこまで思い返して、リーゼロッテは思考を打ち切り現実に戻る。過程がどうであれ、現に敵のストラクトは視界に映らずレーダーを欺いている。


「そっちのレーダーには映ってる!?」


「いや、映ってない! 気をつけろ、どこから来るか分からねぇ!」


 警告と共に自身も防御の体勢を取る。完全にステルス化した敵がどこから攻撃してくるかはもはや予測できない。


「――!?」


 ほとんど勘だけで一撃目を捌いた。容赦なくコクピットを狙ってくると想定し、瞬時に戦斧を構える。相手の狙いが正確だったのが功を奏し、幅広の刃の腹で受けることに成功した。


 しかし急いだせいで足腰の踏ん張りが足りず、大きくバランスを崩す。


「……くそッ」

 追撃の斬撃を全力の離脱でもって回避する。空ぶった透明のヒートブレードが数秒前まで〈フルアーマー・レギオン〉が立っていた地面を叩き芝を燃やした。


「……ハァ……」


 まだ生きていることが驚きだった。どこから来るのかも分からない攻撃を回避し反撃する術などガイオスは知らない。もとよりそんなものは端から想定していない。


 寸分の狂いなくコクピットを狙った初撃。そして唐竹割の追撃。それがこちらを本気で殺しに来た攻撃であると嫌でも理解し、戦慄と共に冷や汗が背中を伝う。グレンと戦った時でさえ、こんな感覚には陥らなかった。あるいはこれが彼の人生で初めて感じる実戦の恐怖であったかもしれない。


 努めて冷静であろうとするガイオスは、乾いた唇を一舐めして対処法に思考を巡らせた。敵のステルスが、|攻略は不可能ではないとする《、、、、、、、、、、、、、》。理由は二つ。第一に、そうであれば自分達に勝ち目はないからだ。イリシアの言によれば応援が到着するまでの時間は十五分程度。今はせいぜい二、三分。連合軍が来るまでの時間を稼ぐことすらできないだろう。


 第二に、ステルス化が完全なのであれば、機体を学園の警備システムに反応しないように登録する必要がない。


「こっちに来て、ガイオス! バラバラじゃ危険――っ!?」


 呼びかけたリーゼロッテが言葉を詰まらせる。二人の眼前で、漆黒の機体が現れたからだ。


 背中に装備していた二本のヒートブレードを抜いて立っている。機体と共に現れた小型ドローンがその周囲に浮いていた。射撃兵装かと思っていたが、今のところ撃ってくる気配はない。


 〈ガンダリス〉の隣に並んだ〈フルアーマー・レギオン〉。そのコクピットから、ステルスを解き姿を見せた敵機を観察する。


「どうしてステルスを解いたのよ……」


「さぁな。少なくとも、姿を見せないままなら俺らは殺されてた。ステルス化の継続時間には制限があるのかもな」


「機動力もかなり高いわね」


「あぁ。あそこまで接近して攻撃を躱されるとはな。ノワールの野郎、操縦の腕のかなり高いみたいだな」


 目の前で起きた現象を二人は冷静に分析する。例え光学的に姿を消しレーダーを欺こうと、幽霊のように実体を失うわけではない。〔浮遊する牙〕のビーム射撃と戦斧による攻撃をあのタイミングで躱したのは、単純に〈オブシディアン〉の機体スペックと並外れた操縦技術だ。


 牽制を兼ねてガイオスが肩の榴弾砲を発射する。地面と平行に走る弾頭と、それに追従するかの如く穿たれた〔浮遊する牙〕の射撃。


 前者はヒートブレードで打ち払い、後者を素早くステップを踏むことで〈オブシディアン〉は回避した。そして再び、その姿が視界とレーダーから消える。


「また消えた……っ!」


「構えろノクティス!」


 しかし構えたところでどうなるというのか。完全に消えた敵からの攻撃を防ぐなど不可能である。


 完全な勘でガイオスは戦斧を振り回し、リーゼロッテも両のガトリング砲から弾丸を放つ。アイカメラの映像とレーダーを基に自律起動している〔浮遊する牙〕は沈黙しており、マニュアル操作で当てる誘導ミサイルを撃ったところで意味はない。


 だがそんな攻撃は当たるわけもなく、瞬く間に〈オブシディアン〉の攻撃に曝される。不可視の斬撃が〈フルアーマー・レギオン〉を襲う。


「――くっ……!」


 戦斧を振りかぶる腕にヒートブレードが直撃し、左腕の肘から先が飛ぶ。右腕の力だけではどうしようもなく支えられないその質量。仮想重力に引かれ後ろへ転ぶ。その寸前、咄嗟に戦斧を手放すことで転倒を回避する。


 しかし、〈フルアーマー・レギオン〉はなおも死に体。立ってはいるものの体は後方へのけぞり、コクピットがある胸部は隙だらけ。急いで右腕を動かすが致命的に遅かった。


「ガイオス!?」


 〈フルアーマー・レギオン〉を庇う盾とする。その意思を読み取った〈ガンダリス〉のAIが四機の〔浮遊する牙〕を集結させるがそれすら不可視の斬撃に弾かれ地に落ちた。二本の腕に二本の刃。それでどうやって四機を撃墜したのかは想像すら及ばない。


「あぁ、くそっ……」


 数瞬先に訪れる絶死を悟り、


「勝手に諦めてんじゃねぇぞ、ガイオスッ!」


 死神の鎌を弾く少年の声が届いた。刹那、弾丸の如き速度で駆け付けた〈レギオン〉がヒートアックスを振り回す。鈍い金属音が四度鳴り、果たしてステルス化を解いた〈オブシディアン〉が姿を現した。


 格納ドックの方を見れば、黒い煙が上がっている。その出元には、破壊された四機の〈ヤクタレス〉が転がっていた。


『来たか、グレン!』


 拡声機能を通してノワールの声が響いた。

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