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残響戦域レゾナンス  作者: 素人Knight


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第五章 闇を駆ける流星雨①

「なるほどねぇ。結構必要なものがあるんだな」


 学位戦から数日後の昼休み。グレンとリーゼロッテは食堂で購入したサンドイッチを食べながら、中庭の端に設置されたベンチに座り話していた。


 リーゼロッテが太ももに置いたPCのモニターには、リーゼロッテが徹夜で作成した派閥結成に関する資料が表示されている。


「資金にメンバー、顧問。経理担当の経営科が必要ね。メカニックは最悪外注するとしても、それならそれで余計に金がかかるわ」


「顧問ってのはどういうことだ。先生が必要なのか?」


「派閥を作れば学外の人間と関わることも増えるから、責任者が必要なのよ」


 派閥を組んだ生徒には、学園を通じて仕事を受けることができる。いくら名門の学生とはいえ、所詮は子供。要するに、大人の監視が必要、ということだ。


「それと、派閥に所属する生徒が使ったストラクトが傷ついた場合、その修繕費用の全額を負担する必要が出てくるの」


「うげぇ、マジかよ」


 先日の学位戦で、故意に自機を破壊する戦法を取ったグレンには耳が痛い話だった。


「まじよ。言っておくけど、あんたはまだましなのよ?」


 そう言って、リーゼロッテは肩を竦める。疑問を浮かべるグレンに、リーゼロッテが補足した。


「学園のレンタル機じゃない専用機を持ってる生徒は、最初から費用は自分持ちなんだから」


「じゃ、俺も今度からは自分で払わないといけないってことか」


「あぁ、そういえばアンタの専用機って今日搬送だったっけ?」


「おう。今朝届いたって連絡が来てたぜ」


 小惑星の内部に建設された学園は、外部から定期的な物資の補給を受けることで成立しており、物資には食材や備品等が含まれている。


「アンタの機体ってどんななのよ、見せてよ」


 リーゼロッテが珍しく好奇心旺盛な様子でそう尋ねる。優秀なパイロットとして、派閥を組むことになった仲間の機体が気になるのだろう。


「勿論だ。放課後見に行こうぜ」


 グレンもそれに快く応える。


「って、話がズレた。とにかく、私達には準備しないといけないことが沢山あるのよ」


「それは分かったけどよ。何から用意するんだ?」


 グレンの問いに、リーゼロッテは顎に触れて考え込む様子を見せた。


「そうね。資金と顧問は用意するとして、まずはメンバーかしら。パイロット科の生徒は私達がいるし、経理や渉外なんかをしてもらう経営科の生徒と、できれば工業科のメカニックも欲しい」


 言いながら、リーゼロッテはPCを操作して画面を変えた。


「何だそれ?」


「学園非公式の掲示板よ。一応、この前からメンバーの募集をかけ始めたの」


 【至急】新派閥のメンバー募集中。


 グレン・アールド、リーゼロッテ・ノクティスが結成した派閥メンバーを募集します。経営科・工業科各一名。

 少数精鋭のため、加入直後から重要な仕事をお任せします。給料は活躍に応じて変動あり。業績によりボーナス支給。

 応募はこの投稿への返信でお願いします。


「お、おぉ……、なんか生々しいな。けど、流石はリーゼロッテ。仕事が早くて助かるぜ」


「適当な誉め言葉ありがとう。でも、残念なことに成果は無いわね」


「え、でも結構返信来てるぜ?」


「これが全部応募だったら、最高なんだけどね」


 困った様な表情を浮かべながら、リーゼロッテが画面をスクロールする。そこには投稿への返信が表示されていた。


『太陽風浴びれば名無しさん@貧乏芸人:特待生やるじゃん』

『太陽風浴びれば名無しさん@限界学生:マジか。ノクティス遂に堕ちたか』

『太陽風浴びれば名無しさん@お腹減った:俺のリーゼロッテがあぁぁぁぁあ!!!』

『太陽風浴びれば名無しさん@アフィカス:ノクティスの写真あります』


 次いで並ぶリーゼロッテの写真。食事中や授業中の写真等、どう考えても盗撮画角のそれらを見てグレンは目を点にした。


「ナニコレ……」


「ま、まぁ非公式の掲示板だから。民度はお察しの通りなんだけど、それは突っ込まないで」


 若干顔を赤らめながら、リーゼロッテが画面をスクロールする。投稿から二日経って、要約本題に入ったようだ。


『太陽風浴びれば名無しさん@伝説の富裕層:つか誰か入るの?』

『太陽風浴びれば名無しさん@あせんぶり:ナシではない』

『太陽風浴びれば名無しさん@原住民:ノクティス可愛いしなぁ……』

『太陽風浴びれば名無しさん@モンスター:あわよくば狙うな童貞』

『太陽風浴びれば名無しさん@潮風:いや、絶対ナシだろ』

『太陽風浴びれば名無しさん@原住民:お前レイモンド派なの? 見る目ゼロ』

『太陽風浴びれば名無しさん@潮風:いや、そうじゃなくて。こいつら会長に喧嘩売ったの知らないの?』

『太陽風浴びれば名無しさん@原住民:マジか。じゃあなしだな』

『太陽風浴びれば名無しさん@潮風:さっきまでの愛どこいったんだ……』

『太陽風浴びれば名無しさん@原住民:いや、流石に会長は敵に回せん。将来終わる』

『太陽風浴びれば名無しさん@あせんぶり:ノクティスってそんな馬鹿だったっけ?』

『太陽風浴びれば名無しさん@潮風:特待生の方がとんでもない馬鹿らしい。喧嘩売ったのも主にそっち』

『太陽風浴びれば名無しさん@あせんぶり:納得』


 一連の流れを見せ終えたリーゼロッテが、掲示板サイトを閉じてグレンを向き直る。


「つまり、俺のせいだと?」


 グレンの問いに、リーゼロッテは無言でこくりと頷いた。


「まぁ、アンタのそういう性格が気に入って仲間にしたかったんだから、文句は言わないけど」


「っていうか、どいつもこいつも根性無しばっかじゃねぇか、この学園の奴ら」


 調子良く責任転嫁を試みるグレンの思惑を見透かしながら、リーゼロッテは語る。


「それだけ会長が……、【星屑戦隊】が強いってことよ。ま、まだ何の圧力もかけて来てないだけ幸運だと思いましょ」


 肩を竦めてそう言ってのけたリーゼロッテ。


「圧力ってお前……」


「冗談じゃないわよ。あの人、その手の噂には事欠かないから」


 学園が派閥というシステムを容認しているのは、それがある種の社会勉強として機能しているからである。


 会社経営やその中での立ち回り。あるいはその厳しさを在学中に学ぶことになるそのシステムこそ、学園がいくつかあるアカデミーでも名門と称される所以でもある。


「それで、どうやってメンバー見つけるんだ?」


「地道に声掛けするしかないわね」


「それで集まるのか?」


「難しいかもね。入学して二ヶ月経ったこの時期にどの派閥にも所属してない生徒なんて、一年生の中でも少ないだろうし」


「どっかの派閥から引き抜くってのは? それこそノワールの奴とか、頼み込めば――」


 グレンの提案に、リーゼロッテは呆れ顔になる。


「アンタ、【星屑戦隊】から引き抜きしようっての? 喧嘩売りすぎでしょ、それは」


 リーゼロッテは正気を疑う様な目でグレンを眺めた後、真面目な顔に戻って続けた。


「それに、引き抜くならそれ相応のメリットを提示しないといけないわ。【星屑戦隊】を抜けて私達に寝返るメリット、存在する?」


「……ないな」


 流石にそれはグレンにも分かった。


「こりゃ、マジで困ったことになったな」


「ようやく理解できた?」


 ベンチの背にもたれ、映し出された空を見上げるグレン。


「あぁ。まさかこんなに大変だったとは思わなかった――ってうわっ」


 珍しく弱気になったグレンの視界から、突如空が消えた。


 代わりに視界に入ったのは、特徴的な鴇色の瞳をした美少女だった。





「拘束完了しました」


 指示を受け先に侵入していた組織の工作員がそう告げる。その背後には、外部から持ち込まれたストラクト四機が佇んでいる。既にOSが起動し、アイカメラが薄暗い空間に光っていた。


 報告を受けるのは、学園の制服を着た少年。好青年の鏡といったいつもの表情から一変。険しい表情で作戦の準備を進めている。


 彼らがいるのは、学園敷地を包み込むドームの外側。外部からの物資搬入を受けるために掘られた道の先にある巨大倉庫。俗に港と呼ばれる場所だ。


 搬入された物資に紛れ込み、職員達を拘束し自分達のストラクトを運び込んだのだ。


「外部との通信の切断は?」


「そちらも既に準備は整っております。我々の侵入と同時に、ジャミングプログラムが作動します」


「分かった。十三時十五分に作戦開始だ」


「承知しました」


 短くそう交わして、少年はその場を去った。港からエレベーターを使って学園敷地内に戻り、ある場所へ向かう。


 研究棟に隣接する森林エリアの中。現在生徒会名義で貸し出されているものの、使用されていない倉庫だ。


 ポケットから取り出した正規のIDカードをかざし中へ入る。暗い倉庫に足を踏み入れた。


 暗闇の中、何もない虚空へ向かって手を伸ばすと、しかしそこに確かな感触があった。


 冷たい鉄の感触。


 すると、少年の頭上から小さな駆動音が鳴った。校舎から離れた静かな倉庫内でなければ気付かないような小さな音だ。


 少年が一歩左に踏み出し、透明な足場を踏みしめる。足場の上昇により、ぐんぐんと上へ進む少年の体。


 約十二、三メートル程度進んだところで止まると、少年は足場から飛び降りた。


 しかし、その体が地面に叩きつけられることはない。何かがその体をしっかりと受け止め、次の瞬間には少年の姿が消えた。


 数秒後、倉庫の天井が開く。内部から何かが飛び出す小さな音と、風圧が倉庫に残った。




「やーっと見つけた」


 後ろからグレンの顔を笑顔で覗き込み、そんな風に語り掛ける。


「こんな所にいるとは思わなかったよ。なに、二人とも出来てんの?」


「は、はぁ? アンタ何言って――」


「っていうのは冗談で。二人に用があって来たの」


 ベンチの正面に回りながら言うエヴァ。


「何の用よ」


「二人とも、派閥メンバーを探してるんでしょ? で、全然人が集まらなくて困ってる」


 二人の状況を簡潔に整理するエヴァを、リーゼロッテが厳しい目で睨む。


「嫌味でも言いに来たんなら――」


「私、入ってもいい?」


 エヴァの突然の提案に、グレンとリーゼロッテは対照的な反応を示した。


「お、マジか」


「は、はぁ!? 何言ってんのアンタ!?」


 好意的に受け取るグレンに対し、驚愕し、思わず立ち上がるリーゼロッテ。


「マジマジ」


 軽いノリで答えるエヴァに、ベンチに座り直したリーゼロッテが、冷静を取り繕いながら問う。


「な、何だって急にそんなこと言い出したのよ。アンタ、確かどっかの派閥に入ってたわよね?」


「うん、だから抜けて来た」


 エヴァは入学直後、パイロット科の二年生が率いる派閥に勧誘され所属している。

 学年の特徴として、二年生には優秀なパイロットが多く、そんな中で勧誘されたというのは、エヴァの実力を高く評価している証拠だろう。


 それを抜けてまで自身の派閥に入りたがる気持ちが、リーゼロッテには理解できなかった。


「ま、元々そんなに熱量持って活動してたわけじゃないからね」


 言い訳の様にそう言ってから、「それに」とエヴァは続けた。


「生徒会長に喧嘩売る様なお馬鹿さんに付き合った方が、刺激たっぷりの楽しい学園生活が送れそうだなって」


 エヴァは目を輝かせて、グレンと同じ挑発的な笑みを浮かべてそう言った。


「アンタ、正気?」


 級友の思考回路を疑うリーゼロッテ。対して、グレンは立ち上がって手を差し出した。


「大歓迎だぜ、エヴァ。これからよろしくな。リーゼロッテも、優秀なパイロットが増える分には問題ないだろ?」


「それは、そうだけど……」


 メンバー募集には、経営科と工業科の生徒と書いていたが、それは優秀なパイロットが自分から応募してくるはずがないという想定に基づいたものである。


 学年六位のパイロットが入りたいというのであれば、わざわざ断る理由はない。リーゼロッテが素直に受け取らなかったのは別の理由。


「何か裏がありそうな気がする」


 握手を交わす二人を前に、リーゼロッテはそうぼやいた。


 そのタイミングで、昼休み終了を告げるチャイムが鳴る。


「っと、そろそろ移動しないとな。授業に遅れちゃたい――」


 大変だ、と言いかけて止める。


 何かの気配を感じ取り、空を眺める。


「グレン……?」


 不審に思ったリーゼロッテが尋ねた刹那。彼が見つめる先、明るい青空を映し出すモニターの景色が、蜃気楼の様に揺らぐ。


「――どういうことだ……」


 次の瞬間、彼の視界が黒に染まる。突然目の前に現れた巨大な立体物に、視界の約八割を占有された。


 それが空から落ちて来たのだと認識するよりも、着地の衝撃が三人を襲う方が早かった。


「うわっ!」「ちょ、なにっ!?」


 地震の如く地面が揺れる。


 二人の少女がその揺れに耐えかねて体勢を崩す。持ち前の体幹でそれを耐えたグレンは、真っ直ぐに頭上を睨みつけた。


 中庭の中央に、突如として漆黒のストラクトが現れた。


「な、なによこれ。何でストラクトが中庭に……」


「っていうか、これ誰の機体? 私、こんなの見たことないよ」


 二人が目を見合わせ、その事実が導き出す結果に脳内で辿り着いた。


「ねぇ、それってつまり……」


「つまりはそういうことってわけだ。逃げるぞ、二人とも!」


 いち早く状況を理解したグレンが声を荒げる。


 その瞬間。侵入者を検知した学園の警備システムが、敷地内に特大のアラートを響かせた。


『未登録ストラクトの侵入を検知。生徒は直ちに避難してください』

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