第四章 VS双銃要塞⑤
「まぁ、このくらいで倒せる相手じゃないってことは分かってるわよ」
ミサイルに搭載されたカメラで、グレンの曲芸じみた芸当を目にしたリーゼロッテは、関心半分呆れ半分といった様子でそうぼやく。
ここ数日で嫌と言うほど見た同級生の技量に驚きはせず、リーゼロッテはコンソールを操作する。
「でも、これで準備完了よ」
正面モニターに、小さなサブモニターが複数現れた。そして、それに対応するコンソールが手元に展開される。
丁度そのタイミングで、グレンが彼女の下へ到着する。
工場同士の隙間にできた道を走り、複雑に絡み合うパイプの隙間からその姿を覗かせたレギオンがモニターに映った。
赤く光るアイカメラとガンダリスの眼が合う。
「飛べ、〔浮遊する牙〕ッ!」
ガンダリスの大型バックパックが開き、五つの牙《、》が浮かぶ。矢じりの様な三角形の金属片が浮かび、機体の周囲を浮かぶ。
モニターに表示された五つの画面に、ガンダリスを含め周辺の景色を投影していた。
「さぁ行くわよ、グレンッ!」
コクピット内に、誰にともなく叫んだリーゼロッテの声が響く。
やや間をおいて、二人の戦いが再開された。
〈ガンダリス〉の両腕に取り付けられた六連ガトリング砲の口がレギオンを向き、唸りを上げた。
刹那、大量の実体弾が吐き出される。
「チィ――ッ!」
横っ飛びにそれを躱すレギオンを追うように、ガトリング砲から打ち出される弾丸。先日グレンが用いた一四〇mmよりも強力な一八五mmの弾丸が、標的を外れフィールドにまき散らされる。
通常よりも強力な電流と、『フロート・テクノロジーズ』の技術により効率化された仕組みにより強化されたレールガン。そこから打ち出される弾丸は、リミッタープログラムが作動した状態でも、まともに当たれば一発でレギオンの装甲をぐちゃぐちゃに潰す程度の威力は持っている。
ガイオスが操る〈フルアーマー・レギオン〉とはまた別種の、圧倒的な火力による圧殺が始まった。
コンビナートに点在する発電所のタービンが回る音など余裕でかき消される、低く乾いた発砲音が戦場を彩り、硝煙が白く世界を染め上げる。
雨霰の如く降り注ぐ徹甲弾から逃れる様に、グレンは付近の工場の陰に隠れる。だが、そんな障害物など初めから無かったかのように、ガトリング砲は消し飛ばし背後のグレンを狙う。
だが、それはグレンにとっても予想の範囲内であり、盾が破壊されるよりも早く移動し、次の障害物へと姿を隠す。
数十秒続いた発砲音が鳴りやみ、耳鳴りが残る中、グレンは工場の影を飛び出す。
ビームライフルを背面に収納し、代わりにヒートホークを抜く。機体から供給されるエネルギーにより、刃が発熱。赤く発光する。
弾丸を撃ち尽くし、リロードまでの隙を見逃さずグレンが攻撃を仕掛けた。肩のミサイルの餌食にならぬ様に側面へ回り込む。だが。
「おっと」
急停止したレギオンの足元に、ビームが飛ぶ。リーゼロッテが空中に展開した〔浮遊する牙〕の先端から発射されたものだ。
小型のドローン兵器が撃ち出したとは思えぬ熱量で、着弾した地点のコンクリートが溶ける。
「やっぱりそれを先に潰さないといけないみてぇだな」
グレンの周辺を、五機のドローンが旋回する。そこから撃ち出される超速の荷電粒子砲がグレンを襲った。
「くッ……!」
〔浮遊する牙〕の名に恥じぬ五機のドローンは、レギオンを包囲する様に展開し、次々と攻撃を放つ。
射撃兵装を格闘兵装に持ち替えた以上、〈ガンダリス〉に攻撃を加える為には接近する必要がある。最も、レギオンが装備できるビームライフル程度で〈ガンダリス〉の装甲を撃ち抜ける確率はかなり低い。
グレンが攻めあぐねていると、その間にガトリング砲のリロードが完了した。
バックパックから伸びる新たな弾倉がガトリング砲の給弾口に接続され、砲身が回転すると共に弾丸が装填され、即時発射される。
そうして再び形成された弾幕から逃れる為にグレンはレギオンで物陰に移動する。それを追従する〔浮遊する牙〕の一つを、隠れて直ぐに武装をビームライフルに換装したレギオンが狙う。
ロックオンシステムに頼らない目視での照準による早撃ち。
機動力を生かして敵を破壊する為、〈ガンダリス〉ほどの厚さの装甲を持たぬ〔浮遊する牙〕の重要機関を撃ち抜き破壊した。溶けた金属片が地面に転がった。
「流石にそう簡単には勝たせてくれないわね」
〔浮遊する牙〕が一機破壊され、ノイズの走ったサブモニターを見ながらそう呟く。
「でもまだまだこっからよ!」
物陰に隠れてガトリング砲の連射をやり過ごそうとするレギオンをロックオンし、肩部のポッドからミサイルを二発撃ち上げる。この距離では自機すら巻き込みかねないその攻撃を、積み重ねた装甲を頼りに突貫する。
高く昇った二つのミサイルが空中で一時静止。数カ所に設置されたスラスターを吹かして方向を変え、自由落下とほぼ同一の軌道で落下してきた。
「今度はそれかよ!」
レギオンのエネルギー残量は十分であり、砲身も自然に冷却されている。しばらく撃ち続けても問題はない。
しかし先程とは異なり、二つのミサイルは同時に発射された。異なる軌道で迫る二発は、片方を撃ち落としている間にもう一方を当てるという思惑だろう。
ならばとグレンはレギオンを遮蔽部の更に奥へ。〈ガンダリス〉から遠ざかる様に移動させる。
リーゼロッテはマニュアル操作でミサイルの軌道を変える。大量の推進剤が爆発的な勢いで燃焼される音と共に、レギオンの背を追った。
数秒走り続けたレギオンが、蜘蛛の巣の如く張り巡らされたパイプラインによって作られた壁に行き当たる。
ミサイルが背後に迫る中、グレンは目の前のパイプを片手で掴み、足元の一本を踏み台にレギオンを高く跳躍させた。
二〇トン以上の荷重によりパイプが拉げる。
宙に浮いた巨体が翻る。斜め左に倒れる様な空中機動から作り出した射角で、急上昇するミサイルに狙いを定めた。
距離にして約二m。そこまで引きつけ、二つのミサイルがビームライフルの射線に重なる瞬間にグレンは素早くトリガーを引く。
真っ直ぐ走る一条の光が、ミサイルを続けざまに貫き爆発させる。爆風と共にまき散らされる金属片からアイカメラを守る為に空いた腕を盾にする。
そのまま幾度か足裏のスラスターを吹かし、重い着地音と共に地面に降りた。
「痛ぇ……」
地震と勘違いするほどの揺れを生み出す衝撃がコクピットに伝わり、頭と尻をそれぞれコクピットの硬い天井と座り心地の悪いシートに強打した。
ミサイルを撃ち落としたグレン機を、四機のドローン兵器が襲う。
ビームが発射されるタイミングを予測し、寸前にステップを踏むことで躱す。障害物を使って射線を切り、回り込んで迎撃を狙う。しかし――。
「――アっぶねぇッ!?」
ビームライフルを構えたレギオンの背後から、〔浮遊する牙〕が火を噴いた。死角からそれを相変わらずの直感で避けたグレンの顔に驚愕が浮かぶ。
続いて発射されるビームを躱し一度距離を置こうと全速力で後退するレギオン。
向かう先は密集したパイプラインの内にある一本道。集団で追って来たところを撃ち落としてやろうというグレンの狙いは、しかし実らなかった。
〔浮遊する牙〕は、まるでグレンの狙いを分かっていたかのようにその場に留まり散開する。
「どうなってんだ……?」
数瞬前とはまるで異なる動きを見せたドローン兵器に首を傾げる。
死角からの一撃や今の行動は、グレンが観察し見抜いた〔浮遊する牙〕の行動パターンとズレていた。
自律起動する〔浮遊する牙〕を動かしているのは、リーゼロッテによる操作ではなく、OSに搭載されたAIであるとグレンは予測していた。
そして、人間ではなくともその動きには癖がある。グレンが一機撃ち落としたのは、それを短時間で分析し、僅かに生まれる隙をついたという道理だ。
だが、それがここに来て覆った。明らかに動きが変わっている。だが、別のAIが操作しているという事でもない。
「むしろ、こっちの癖を見抜いたって感じか……?」




