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残響戦域レゾナンス  作者: 素人Knight


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第四章 VS双銃要塞④

 第五演習場・コンビナートフィールドは、複数の工場と燃料タンクを繋ぐパイプラインが張り巡らされた工場団地をモデルにしたフィールドである。


 海に面した港に作られ、煙突からは常に煙を模した着色水蒸気が出ている。


 学位戦特有の環境設定は、晴れの日中。眩しい光がパイプに反射し、ギラギラと光っている。


 レーダーに敵機が映っていないことを確認し、グレンは〈レギオン〉で高所に移動する。フィールド全体を見渡すには少し足りない石油タンクに飛び乗り、事前に頭に叩き込んだ演習場地図を頭に思い描き、現在地を確認した。


 グレン機の出現位置は、立方体フィールドの東側。海を模した水が貯蔵された港のすぐそばだった。


「さて、リーゼロッテの奴はどこだ?」


 アイカメラが搭載された頭部を振り敵機を探す。レーダーで感知できる範囲及び目視可能な位置に敵を見つけることができないでいると。


「お、来たか」


 グレンがモニターに投影された景色を見て呟く。だが、そこには何も映っていない。


 しかし次の瞬間には、工場と工場の隙間から、低い音を響かせて空高く打ち上げられるものが見えた。


 それから数瞬遅れてアラートが鳴る。合成音声がその内容を告げた。


『十時上空より、熱源が急接近中』


 猛スピードで撃ち上げられ、緩い放物線を描きながら落下してくるそれは、仮想重力の影響を受けた自由落下以外にも、内部燃料の燃焼による加速と微調整による誘導を伴っている。


「ミサイルか。工場の上に登ったのはミスったな」


 接近するミサイルを眺めながら、グレンはそんなことを独り言ちる。高所に位置取ることは、敵を発見しやすいというメリットとは反対に、発見されやすいというデメリットも抱えている。


 特に遮蔽物の多い戦場では、高所から見下ろすことが敵を先に発見することに繋がるとも限らない。実際、リーゼロッテは先にグレンを捕捉することができた。


 自機を先に発見し、ロックオンしてミサイルを発射すると共に姿を隠したのだろう、とグレンは予想する。


「ってことは、あの辺にいるってことだよなぁ!」


 だが、先に敵機を発見し先制攻撃を仕掛けるという有利は所詮最初の一撃のみの話。一度攻撃を飼わしてしまえば、その有利はすぐに失われる。


 グレンはビームライフルでミサイルを迎撃し、OSが逆算した発射地点へ向かって進もうとして、ギョッとする。


「あぁ?」


 一時的に方向を転換し、音速を遥かに超えて飛ぶ荷電粒子をひらりと避けたミサイル。


「どうなってんだ?」


 自分の見間違えかミスかと思い、グレンはもう一度ビームライフを発射する。


 しかし、やはりこれも避けられた。それはまるで、グレンがかつてレオンの長距離狙撃を躱した光景の再現だ。


 だが、グレンはそれが自身が披露した芸当とはまた別の仕組みで起こされたことをすぐに察知する。


「手元の操作で避けたのか。器用な奴め」


 あらかじめロックオンした敵を自動で追尾する誘導ミサイルのプログラムに手動で介入し、攻撃を躱したのだろうと。


「つっても、マニュアル操作じゃ限界あるだろ!」


 そう言って、グレンは出力を抑えた状態でビームを連射する。ミサイルの装甲に穴をあけて撃墜するのに、それほどの火力は必要無い。無駄にビームの出力を上げれば砲身に熱がこもり、直ぐにエネルギー不足になってしまうからだ。


 操縦桿のトリガーを素早く三度引く。砲身から飛び出た高熱が、空気を焦がして走る。


 一射目を躱したミサイルの腹に、二射目が直撃する。外装を溶かし、バランスが崩れた所を三射目が確実に射抜いた。


 高熱に晒された炸薬に火が灯り、空中で爆発した。轟音と共にまき散らされる破片。その範囲から逃れる為に、レギオンを後退させるグレンの口角が歪む。


「――やるな、リーゼロッテ!」


 煙の向こう側から、その中を潜る様に進んできたミサイルの弾頭が現れた。


 大量の推進剤を燃焼しながら一直線に走るミサイルは、レギオンに搭載された照準システムでは既にロックオンしきれない距離まで迫っている。


 発射されるビームは細く、弾幕を張って撃ち落とすことは叶わない。


「でも、俺も撃つのは得意なんだぜ!」


 モニターに表示されたレティクルが弾頭を中央に据えようと揺れるが、それよりも早くグレンは目視で照準を定めた。


 ビームライフに付けられた、誰も使わない飾りのアイアンサイトがアイカメラに映る様に両手でライフルを構える。


 ミサイルの弾頭を、フロンとリアのサイトに重なる様に瞬時に調整し、一度だけトリガーを引く。


 まっすぐに飛ぶ荷電粒子。レギオンのロックオンが間に合わないのと同じく、リーゼロッテの方でのミサイルの軌道を変更するだけの時間はない。


 釣った最中を針金で絞めるがごとく、弾頭から噴射ノズルまでを一直線に穿つ。再び爆音が響き、周囲の建造物に破片をまき散らした。


 中でも大き目の破片が、パイプに突き刺さり中身を零す。可燃性の液体に火が点き、一面が火の海に変わった。


「おっと、こりゃまずい」


 ストラクトの装甲は、石油が燃えたところでどうにかなる物ではないが、カメラが煤で汚れてしまえば戦闘に支障が出る。


 グレンはレギオンを急いで離脱させる。


「さぁて、行くぞ!」


 ミサイルの軌道を記録したOSが、再度敵機の位置を計算し割り出した。


 モニターに表示された、敵機を示す赤いマークへ向けてレギオンが走り出した。


 工場を踏みつぶさないように気を付け数ブロック進むと、〈ガンダリス〉が見えた。


 〈ガンダリス〉はグレンを待ち構える様に、コンビナートのタンクが密集するエリアに鎮座していた。


 その姿を見て、グレンは直感する。


「誘いこまれたか」


 〈ガンダリス〉が位置するこの場所は、小さな工場や石油タンクこそあれど、それらを繋ぐパイプラインやレギオンの全高を超える巨大な建造物はない。


 人間サイズならいざ知らず、巨大なレギオンにとっては、いわゆる開けた場所(、、、、、)だ。


 そんな場所の中央に位置取る〈ガンダリス〉は、グレンが搭乗するレギオンとは基本設計からして異なる姿をしている。


 FS214〈ガンダリス〉。黒を基調とする分厚い装甲を纏ったそのストラクトは、一応人型を保っているものの、その設計思想は従来の物とはかけ離れていることが見て取れた。


 まずもって、両腕の肘から先が、他のストラクトの様な五本指を模したマニピュレーターから実弾を発射する六連ガトリング砲に換装されている。


 さらに両肩には、先ほどグレンを襲ったミサイルを仕込んだ多連装誘導ミサイルポッドが乗っている。


 そしてそれらの弾薬を持ち運ぶにはあまりにも大きなバックパック。


 レギオンよりも二回り大きい脚部に、コクピットが収納された胸部や首を含めた肩回りには、並のビーム兵器では打ち抜けない、ガイオスの〈フルアーマー・レギオン〉をも凌駕する重装甲。


 総じて、ロクな機動力は期待できないことは明らかな機体であるというのが第一印象である。


 膝から下にかけて分厚くなる装甲と、三脚トライポッドの様な足裏の構造が、その圧倒的な機体重量を支える根幹として機能しているのがその証拠。


「あれじゃまともに動けねぇ。移動方法はホバーか……いや、タイヤホイールか」


 〈ガンダリス〉の足元に残る僅かなタイヤ痕を見て取るグレン。


 事前に見た映像では、そこまでは見て取れなかった。学位戦や決闘の映像が録画・配信されているとはいえ、流石に機体の構造や性能という情報までは公開されていない。


 だが、〈ガンダリス〉の移動方法が分からないという事実が、あの機体の性能と戦闘スタイルをこれでもかと示している。


 機動力が殆どゼロであることも、移動の瞬間の映像が少ないのも、アレが高速で動き回り、力強い一撃を加えるというストラクトの基本戦闘を無視しているからに他ならない。


 両腕のガトリング砲による弾幕の形成と、多連装誘導ミサイルによる爆撃、そして――。


「来たな」


 互いの機体はすでにレーダー探知範囲内。様子見は終了だと言わんばかりに、〈ガンダリス〉が動く。


 背後のバックパックが開き、その中から小さな何かが五つ飛び出した。小さい、と言ってもそのどれもが、学園敷地内で生徒達が乗り回している小型ビークルほどの大きさを持っている。


 三角形の底辺に切れ込みの入った、矢じりの様な形の立体物が宙に浮かぶ。


 ――〈ガンダリス〉のみに搭載されたドローン兵器、〔浮遊する牙(スカイ・ファング)〕による四次元攻撃。


 それら三つの武装により、動かずして敵を制圧する姿こそ、〈ガンダリス〉に搭乗するリーゼロッテに付けられたパーソナルネーム【双銃要塞キャメロット】の所以である。

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