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残響戦域レゾナンス  作者: 素人Knight


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第四章 VS双銃要塞③

 午後の授業を終え、放課後。グレンはリーゼロッテとの学位戦、および決闘の為に、搭乗する〈レギオン〉の調整を行っていた。


 昨日使った物と同機体のレギオンを、ミフィーラが調整する。


「これで準備オッケーすよ」


 ドッグに備え付けられた専用PCを忙しなく操作し、完璧な仕事を果たしたミフィーラがそう告げる。


「助かった。急に呼び出したのに、よく来てくれたな」


 現状、ミフィーラはどこの派閥にも所属していない。だが、彼女の腕を買いストラクトの調整や改修を求める者は多い。


 前回はノワールの紹介であったため手を借りれたが、今回は公平を期する為とノワールは介入を控えた。


 にも関わらず、ミフィーラは自らグレンに声を掛け、〈レギオン〉の調整を行ったのだ。


「そりゃ、一年最強を決める試合っすからね。他の生徒達も大注目ですよ」


 そう言って、ミフィーラは学園支給ではない私物のデバイスをグレンに見せる。そこには、グレンとノワールの戦績やストラクトの情報と共に、オッズが載っていた。


「俺が不利か」


「少しだけっすよ。殆ど変わりません」


 ミフィーラの言う通り、二人のオッズはほんの数人がグレンに賭けただけで逆転しそうなほど僅差なものだった。


「入学以来、不動の学年一位相手でこれなら上等っす」


 加えて、十五位のグレンと一位のリーゼロッテではランキングにも開きがある。


「お前はどっちに賭けたんだ?」


「どっちにも賭けてないっすよ。今回は第三者として公平でいようと思ってるんで」


 実際、ミフィーラはここに来る前にリーゼロッテのストラクトを調整していた。


「そうかよ。ま、助かったぜ」


 公平を期する為に手を出さないノワールと、両者に同じだけ手を貸すミフィーラ。グレンとしては、ミフィーラの方がありがたかった。


 グレンが用いるのは、学園に支給された汎用量産機。対して、リーゼロッテは自前の専用機。機体のスペックとしては比べるべくもない。


 グレンの操縦技術をフルで発揮できるよう調整した〈レギオン〉でなければ、勝負にすらならないだろう。


「ちなみにですが、私はあなたに賭けましたよ。アールド君」


 いつの間にかドッグ内に入っていた女の方へ向く。


「いいのかよ。生徒会長が非公式の賭博とか」


「生徒会長がギャンブルをしてはいけない、という校則はありませんよ」


「未成年だろ、あんた」


「学園は周辺の惑星やコロニーの政府からは独立した存在ですから問題ありません」


 まるで用意してきたかの様にすらすらと答えるイリシア。グレンにもこれ以上問い詰める気はなかったのでそれで終わった。


「で、何の用だ?」


「いえ、特にこれと言った用事はありませんよ。ただ、折角の一年生最強候補の試合なら、一番近くで見たいではありませんか」


「アルファードさんも同じこと言ってたっすね。どこで見ても変わらないと思うっすけど」


「あら、そうなのですか。彼が……」


 そう言われて、イリシアは素直に驚いた様子を見せた。


「これは、ますます一番近くで見たくなりましたね」


 学位戦の様子は、学園の公式アプリで中継されている為、生徒であれば誰でも配信を見ることができる。それは過去の試合に関しても同じことで、録画された映像はいつでも視聴可能となっている。


 決闘も配信はあるが、そちらは学園非公式である為、演習場内に飛ばされたドローンを介しての映像となる。そちらも有志が運営するサイトで中継や過去の映像を視聴できる。


 ちなみに、昨日の決闘は演習場内のドローンが全機不調であったため、中継や録画は為されていなかった。


 パイロットスーツのまま、準備体操を行うグレンを見て、イリシアが感心した様に口を開いた。


「先日も思いましたが、あなたは本当に肝が据わっているのですね」


「そうか?」


「普通、学位戦の前は殆どの生徒が緊張するものです」


「たかが学校の試合だろ?」


 学位戦や決闘で用いるストラクトには、パイロットの生命を保護する為のリミッタープログラムが組み込まれている。兵器の威力制限や、規定以上のダメージを負った際に戦闘を強制終了させるプログラムといった、最大限の安全が確保されている。


 その状況下で行われる戦いは、実戦ではなく試合であるとグレンは理解していた。


 それに対して、イリシアは至極まっとうな言葉を返す。


「その試合で使うのは、戦争の道具ですよ」


 いくら安全が保障されているとはいえ、事故が無いわけではない。リミッタープログラムの誤作動や、想定外の事故等。あるいは、悪意を持った人物による策略。人が死ぬには十分な理由がそこにはある。


 総重量二〇トンの金属の塊が近付き攻撃してくることや、薬莢だけで人を押しつぶせるサイズの銃弾が雨の様に降る恐怖は、例え頑丈な装甲に守られたコクピット内であってもそう簡単に払拭できるものではない。


 少なくとも、学園で戦い続けて来たイリシアはそう思っている。


 だがそれと同時に、そう言った恐怖を感じない者が稀に存在することも、彼女は知っていた。


 ここにはいない、彼女の従者。二年生の紫封刃雷はイリシアの為なら命を捨てることは厭わない。


「俺はそういうのを求めてここに来たからな」


 そう答えた少年が持つ思いが何なのか、イリシアは想像した。闘争か自由か。あるいはその両方か。


 そんなことを考えながら、ドッグ内で悠然と佇む〈レギオン〉を見上げた。


「今回は、ヒートホークとビームライフルを装備しているのですね」


 右手と腰に設置された装備を見て、そんなことを言う。


「あぁ。今日はそれで行く」


「ちなみに、どの様な作戦なのですか?」


「そいつは始まってからのお楽しみさ」


「ふふ、では楽しみにしています」


 そうこう話している内に、開始時刻が近付いてきた。


『時間だ。準備しろ』


 正面モニターに映るガイオスがそう告げる。


 グレンはコクピットに入り、システムを起動させた。


『意思伝達システム起動』


『AM007レギオン』


 コンソールが立ち上がり、全天モニターに周囲の景色が投影される。


『ストラクトを移動させるっすよ!』


 足元のミフィーラの声をシステムが拾った。


「頼む」


 ミフィーラがPCを操作すると、ドッグの足元から、〈レギオン〉の全身を覆うコンテナがせり上がって来た。


 〈レギオン〉を完全に閉じ込めると、足元の床が開き、エレベーターの様に地下空間へと〈レギオン〉を運ぶ。上下左右に走るレールの上を音もなく流れるコンテナ。


 しばらくしてその動きが止まると、再びガイオスの声が聞こえた。


『両者、準備は良いな』


「あぁ」


『ええ』


 立会人の確認に、二人が応える。


『ではこれより、リーゼロッテ・ノクティスとグレン・アールドによる学位戦を行う。尚、今回の学位戦は決闘も兼ねているため、一年C組パイロット科、ガイオス・アルファードが立会人を務める』


 ガイオスが決まりきった口上を述べると、コンテナが上昇を始めた。


 学位戦の場所として指定された演習場のランダムな位置に、両者のストラクトが収まったコンテナが出現する。


 演習場の両端から出撃する決闘とは異なり、学位戦では演習場のランダムな位置から決闘が開始されることになっている。


『学位戦の内容は対機戦。敵陣営ストラクトを先に全滅させた方の勝利とする。尚、ストラクトには学園仕様のリミッタープログラムが施されているため、敵機パイロットを殺害するような攻撃は不可能。機体が一定以上の損傷を認識すると同時に機能停止、当該ストラクトは脱落とする』


 開始のカウントダウンが始まる。グレンは操縦桿を握る手に軽く力を籠め、足元のペダルを遊びの範囲内で軽く踏む。


 モニターにカウントダウンが表示される。三秒前。二秒前。一秒前。


『始め!』


 ガイオスの号令と共に、コンテナが開いた。

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