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残響戦域レゾナンス  作者: 素人Knight


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第四章 VS双銃要塞①

 グレンの登校初日から、数日が経ったある日の昼休みの食堂。


「いやー、あっという間に順位が上がったな!」


 学園支給のスマートデバイスに表示された、十三位の文字を眺めながらグレンがそう言った。


 表示されているのは、学園規則に記された公式な試合。学位戦の結果を基に付けられたランキングだ。


「次の対戦相手の通知は来たの?」


 同席し料理をつつくリーゼロッテがそう尋ねる。


「いや、まだだけど」


「そう」


 この数日間、グレンは毎日学位戦を行っていた。


 二ヶ月間の遅れを取り戻すために、登録を済ませるや否や、学位戦を管理するAIが、次々と学位戦の相手と戦場を指定するメールが送ってくるのだ。


 一日に一戦なら少ない方で、放課後に三試合連続という日もあった。


 普通の学生であれば疲労から音を上げたくなる頻度であるが、当の本人は気にするどころかそれを楽しんですらいる。


「このままいけば、今週中には一桁台に行くかもね」


 現在グレンのランキングは、学年別が十五位、全学年共通が五〇位となっている。


「あぁ。そうなりゃ、お前ともヤレそうだな」


 目の前に座るリーゼロッテを見て、にやりと笑うグレン。リーゼロッテは不動の学年一位。先日行われた学位戦でも、無傷で相手を蹂躙していた。


「そうね。このままいけば、いつかは当たる」


 リーゼロッテが、まるで自分に言い聞かせるようにそう言った。


「楽しみにしてるぜ、双銃要塞キャメロット


 リーゼロッテに付けられたパーソナルネーム。先日の学位戦で見せた強さは、その名に恥じないものだったと思うと同時に、いずれ相まみえる瞬間を楽しみにするグレンであった。


「すみまんせ、少しお時間よろしいですか?」


 ふと、上品な女の声がした。二人がそちらを見ると、上品に佇む生徒会長、イリシア・ヴェルエールの姿があった。


 食事中の生徒達の注目が集まる。その視線を意にも介さずイリシアは微笑みを浮かべ優雅な振る舞いを見せる。


「何の用だ、会長」


「お二人に用があって尋ねました」


「なら場所を変えましょう。ここじゃ、注目を浴びすぎます」


 何の用かは知らないが、わざわざ食堂へ尋ねて来たイリシアの思惑には乗らない、とリーゼロッテが提案する。


「いえ、大した用ではありませんから。それにお二人とも、まだお食事中でしょうし? 作っていただいた料理を残させてまで連れて行くのは、生徒の模範となる私のすることではありません」


「ま、そりゃそうだ。飯は大事にしないとな」


 そう言って、グレンは食事を再開する。その状態でも話を聞く気はあるようで、視線はにこにこ笑うイリシアの方を向いている。


「…………」


 リーゼロッテは食べかけのサンドイッチを皿に置いて、イリシアの話を聞く体勢になる。その表情には、若干の緊張が見て取れた。


「そう緊張なさらないでください、リーゼロッテさん」


「ごめんあそばせ。どうも一般市民の私には、王女様の話し相手は荷が重くて」


「王女様?」


 リーゼロッテの嫌味しか含まれていない発言に、グレンが引っかかる。


「今は学園の一生徒として、お二人にお話があるのです」


「それより、王女様ってのは?」


「い、ま、は、学園の生徒として、お二人にお話があるのです」


 グレンの疑問を黙らせる様に詰め寄るイリシア。それで話したくないこともあるのだろうとグレンも察し、それ以上追及することはしなかった。


「んで、会長が何の用だよ。まさか、書類に不備があったとか?」


「いえ、そちらに関しては問題ありません。というか、私はアールド君だけでなくリーゼロッテさんにも用事があるんですよ」


「私にも?」


「ええ」


 イリシアは上品な笑みを浮かべながらこくりと頷いた。その表情はまるで顔に張り付いた仮面の如く一切変化せず、仕草や声色までも計算尽くのものだった。


 そんなイリシアの様子に、リーゼロッテが静かに唾を呑み、食堂に集まった生徒達が注目している。


 一体何を言うつもりだろう、と。


「実は、お二人を我が派閥、〖星屑戦隊スターダスト〗と生徒会に勧誘しようと思いまして」


 美しい楽器の音色の様な声が食堂に響く。一瞬間があって、イリシアの発言を理解した生徒達が騒ぎ出した。


「おいおい、マジかよあの二人……」


「生徒会長自ら指名とか、気合入ってんなぁ」


「生徒会ってどんな仕事してるんだっけ? ノクティスはともかく、特待生の方は結構アホって聞いたけど」


「いや、そんなことより〖星屑戦隊〗のパイロットに勧誘ってやばくね? 学園史上最大規模の派閥だぞ」


 思い思いの反応を見せる野次馬達だが、おおよそ同じリアクションだった。


「突然ですね、会長。〖星屑戦隊〗は現在、パイロットは募集していないとのことでしたが」


 イリシアが率いる派閥、〖星屑戦隊〗は学園最大規模の勢力を持っている。しかし、所属しているパイロットの総数はその規模に対して少ない。


 総数約一五〇人の派閥構成員に対して、所属パイロットは約三〇名。残りの一二〇人は、経営科と工業科の生徒で占められている。


「ええ。大勢の未熟者より、少数の精鋭が必要な時代ですから」


 現代の戦闘、特に宇宙空間でのストラクト戦において、イリシアの言う通り少数精鋭という考えは非常に理にかなっている。


 広大な宇宙での戦闘では、未熟なパイロットを揃えたところで、機体に投じた金や資源をばら撒くだけになるからだ。


 故にイリシアは、優れた技量を持つパイロットのみを受け入れている。


 そしてその姿勢をしる生徒達にとって、イリシアが直に勧誘するということは、これ以上の無い賞賛にもなるのだ。


「自分で言うのも何ですが、そう悪くないお誘いだと思います。お二方とも、現状どこの派閥にも入っていないようですし」


「おいリーゼロッテ。会長の派閥ってのはそんなに強い力を持ってんのか?」


「ええ。ま、会長自身がと言い換えることもできるけど」


「リーゼロッテさん。誤解されているようなので言っておきますが、私は学園で今の地位を築くに辺り、権力を行使したことはありませんよ」


「積極的には、ね。〖星屑戦隊〗がここまで大きな派閥になった背景には、会長の出自が大いにあるのも事実ですよね」


「ふふ、言いますね、リーゼロッテさん。どうしてそこまで敵意を剥き出しにするのでしょう」


 張り付いた笑みを崩さず、まるで噛みつく子犬を可愛がる様に尋ねるイリシア。


「分かりませんか? グレンは、私が派閥に勧誘している最中なんです。それを邪魔するあなたに敵意を持つなという方が無理ですよ」


 乾いた喉を潤す為に、リーゼロッテがコップの水に口を付ける。


「ですが、当の本人にその気はないのでしょう? もしアールド君がリーゼロッテさんの派閥に入る予定でしたら、勧誘は諦めません。私としては、お二人そろって我が派閥に参入してもらいのですが。アールド君、その辺りはどう考えていますか?」


「いや、リーゼロッテの派閥に入る気はねぇよ」


「ブッ!?」


 きっぱりと言い切ったグレンに、リーゼロッテが水を噴出した。


「あらあら、大丈夫ですか?」


「ゴホッゴホッ。だ、大丈夫、です……」


 咳き込みながらテーブルのティッシュで口を拭くリーゼロッテ。


「ここ数日幾つかの派閥に勧誘されて気が付いたんだが。どうやら俺は、誰かの下に就くってのがどうも受け付けないみたいでよ。今んとこ全部の誘いは断ってるんだ」


「な、何よそれ……」


「そうですか。リーゼロッテさん、あなたはどうですか?」


「私もお断りします。会長の派閥に入ったところで、私の目的は果たせませんから」


「ふふ、それはまた難儀なことですね。ですが私は諦めませんよ。私の派閥に入れば、間違いなくあなた方の将来に必ず役立ちますよ」


「将来?」


「失礼ですが、あなたが学園に提出した進路希望届を拝見しました」


「勝手に見るなよ、会長」


 非難というよりは軽い文句といった調子でグレンが言う。


「あなたの希望は、金払いのいい企業のストラクトパイロットになること。これは私の予想ですが、ご自身の出身であるリリード孤児院への仕送りの為、でしょうか?」


「あんた、そんなこと考えてたんだ」


 軽薄かつ好戦的、と評価していた少年が、意外と真面目に将来を考えていたことに若干驚くリーゼロッテ。


「リーゼロッテさんの方は、調べるまでもありませんね。お父様が経営なさっている会社にパイロットとして入社し、将来的には後を継ぐ、と言ったところでしょう」


「うわー、ボンボン」


 お返しとばかりにグレンがそんな反応を見せた。


「知っていると思いますが、派閥に入れば仕事を受けられるのはご存じでしょう? 〖星屑戦隊〗に入れば、報酬の高い仕事を優先して斡旋できます。

 卒業後の進路に関しても、ここでの仕事の評価が高ければ望む会社に簡単に入れるでしょう。

 アールド君が望むなら、私がいくらでも口利きします。私のところで働く、というのも一つです」


 イリシアの視線がリーゼロッテに向く。


「リーゼロッテさんも、在学中から多額の資金を得ておくのは悪いことではないでしょう?

 私との縁を使って、会社の仕事を増やすもよし。それこそ、あなたの会社に警備を頼むなんてこともあるかもしれませんね」


「はっ。専属の騎士連中を押しのけて、零細会社に警備依頼? 紫封刃雷が黙ってないんじゃないですか?」


「ふふ、それはそうかもしれませんね。ですが、一点目に関しては間違ってはいないでしょう?」


「うっ……」


 イリシアの勧誘に、リーゼロッテは言葉を詰まらせる。客観的に見て断る理由はない。だが、リーゼロッテが断り辛くなった理由は別にある。


「まじかよ。会長、本気で勧誘してるぞ」


「あそこまで言うなんて、よっぽど高く評価してるのね」


「いいなぁ。私も会長の派閥に入りたい。あわよくば水星で雇われたい」


 ――やってくれたな女狐め――と、リーゼロッテは内心で毒を吐く。


 〖星屑戦隊〗にパイロットとして入るのは簡単ではない。特にその長であるイリシア本人からの熱烈な勧誘を受けるとなると、そんな生徒は学園にも数少ないだろう。


 将来の為に、合理的に考えればその勧誘になんらデメリットはない。二人の返答に注目する生徒達がそう思える様にイリシアは情報を共有していた。


 イリシアは自身のカリスマや人望、生徒会長として得た情報を駆使し、リーゼロッテが断り辛い空気を作ったのだ。


「…………」


 答えに窮するリーゼロッテ。


「悪いが会長、アンタの誘いには乗れない」


 だが、彼女のほかにもう一人、空気を読まず非合理的な選択を好んでする人間がいる。


「おいおいおいお、マジかよアイツ断りやがった!」


「酒でも飲んでんの!?」


「正気じゃねぇよ」


 グレンの返答を聞いた野次馬生徒達がざわつく。


「グレン、アンタ大丈夫? 私が言うのもなんだけど、この誘いを断る理由は……」


 流石のリーゼロッテも、グレンの頭を心配する。


「ほんとになんだな」


「理由をお聞きしても?」


「理由は二つ。さっき言った通り、俺は誰かの下に就くのが好きじゃない。将来的にどこかの企業に入るにしたって、学生の間は好き勝手やりたいのさ」


「もう一つは?」


 イリシアが問うと、グレンは彼女の目をじっと見て、悪戯好きな子供の様に不敵な笑みを浮かべた。


「アンタとは、慣れ合うより競い合う方が楽しそうだからさ」


「アールド君、それは本気ですか? 私と、戦うと」


「本気さ。俺はそういうのを求めてここに来たんだ。俺を下に就けたいなら、決闘で倒せばいい」


 挑発の視線を向けるグレンに、イリシアはやはり余裕の表情を崩すことは無い。だが、その口角はほんの少しだけ上がっていた。


「なるほど。リーゼロッテさんやアルファード君があなたを欲しがる理由が良く分かりました」


「どういうことだ?」


「力や権力に屈せず、不敵に、リスクを承知で我を通す。若く未熟で、けれど自信に満ちた目をしている。この学園では、あなたの様な人は珍しいですから。いや、学園に限らずですか」


 各コロニーや惑星が独自の自治権を持ち、制度上独立している現代であるが、実際には宇宙開発による巨大な経済圏を築くヘリオス・グループや、広域宇宙連合が実質的に資源と権力を支配している。


 当然、その中で強大な権力に反抗する者や、数少ない資源で何かを成そうとする者もいた。


 だがそれらは全て広い宇宙の中では大した影響力を持たず、消されるか吸収されるかした。


 そうして築き上げられた共通認識は、『身の振り方を考えろ』というもの。


「これは派閥の長ではなく、あなたの先輩であり、学園の生徒会長として言います。あなたの生き方は敵を作りすぎる。その生き方を貫ける場所ではありませんよ、この世界は」


「なら試してみるか? 俺の生き方が気に入らないなら、倒して分からせろよ」


 グレンはイリシアだけではなく、食堂にいる、彼に敵意を向ける生徒達に向けて言った。


 ――文句があればかかってこい、と――。


 昼休み終了を告げるチャイムが鳴る。その音の中、イリシアが変わらぬ表情で、しかし先程よりも幾分か低い声で言った。


「そうですか。では、時が来ればそうするとしましょう。その時まで、あなたが誰にも折られていないことを祈ります」


「時が来ればじゃなくて、今日でもいいぞ?」


 薄い金色の髪を翻し二人の下を去って行くイリシアの背中にグレンが問う。それに対して、イリシアは振り返ることなく答えた。


「ごめんなさい、私の〈セレスティア〉は現在修理中なんです。万全でない私を倒しても、面白くないでしょう?」


「そりゃ言えてるな」


 そう言ってイリシアが立ち去ると、一連の流れを見届けた生徒達が、午後の授業を受ける為に食堂を出て行く。


 グレンとリーゼロッテもその流れに乗って食堂を出る。


 午後の授業は、第二演習場・森林フィールドでの射撃訓練だ。

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