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残響戦域レゾナンス  作者: 素人Knight


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第三章 宇宙史②

「さて、今日も元気よく授業するぞ~」


 物理と数学の授業を終え続く三限目は近代宇宙史。授業を受け持つのは、C組担任のオリアナである。


「先週の続きから始める。教科書の五四ページを開け……と言いたいところだが、今日は予定を変更してここまでの復習とする。アールド、お前は二ヶ月分授業が遅れているようだからその確認も兼ねてな」


 オリアナが教卓のコンソールを操作し、ガイダンスと記されたスライドを表示させた。


「現在、人類は太陽系の至るところに居住しているわけだが、人類発祥の地は地球だ。では何故、私達は宇宙にその生存圏を広げたか。答えてみろ、特待生」


「おいおい、いくらなんでも馬鹿にしすぎじゃね先生。爆発的な人口増加による資源の枯渇と環境汚染から逃れる為だろ」


「正解だ。では、宇宙に飛び出した人類が最初に居住区とした場所はどこだ、ノクティス?」


 指名されたリーゼロッテが立ち上がり、すらすらと答えた。


「火星です。球体のドームを建設し、内部をテラフォーミングすることで移住を開始しました」


「ふむ、しっかり復習しているようだな。ノクティスの言うように、人類はまず火星に移住を開始し、紀年法も西暦から恒星歴に一新された。今年はそれから丁度一〇〇年だ」


 適時生徒を指名し質問に答えさせながら、大雑把に宇宙の歴史を説明していく。


 恒星歴二六年に起きた宇宙史上最初の戦争、『火星独立戦争』。その中で生まれた第一世代ストラクト。


 恒星歴四〇年に起きた『アイオス事件』を発端とする、火星、水星間で発生し宇宙中を巻き込んだ『七年戦争』。


 二度の大戦を経て、人類文明の存続と宇宙秩序の維持を理念とし、恒星歴四九年に設立された広域宇宙連合ユニオン・セクターの発足の歴史。


「さて、惑星やコロニー政府は宇宙憲章により平和と安寧を実現したわけだが、だからと言って全ての紛争がなくなるわけではない」


 その説明を受けた全生徒の頭に、一つの組織が思い浮かぶ。


「まさか知らないものはいないと思うが念のために言うと、宇宙最大のテロ組織、【星の雨】だ。恒星歴が半世紀を迎えた頃から活動を始めた奴らは、人類が多くの犠牲を払って築き上げてきた宇宙の平穏を乱している」


 教室の前に設置されたモニターに、【星の雨】が起こした事件の一覧が表示されている。


 破壊活動や政府要人の暗殺などの凶悪事件がこれでもかと並んでいる。


「一〇年前に起きた民間宇宙船襲撃事件や、六年前の『バベル事件』など比較的直近に起きた事件は君達にも馴染み深いだろう。特に、そこの二名にはな」


 含みある言い方をするオリアナが、リーゼロッテとエヴァに視線を向ける。


「特にバベル事件の方は【星の雨】が起こした破壊活動の中で最大規模且つ、最多の死傷者を出したとして、既に宇宙史にも載っている。ではレイモンド、バベル事件について説明してみろ」


 指名されたエヴァは立ち上がり、事件の概要を簡潔に語り始めた。


「恒星歴九四年に起きた、【星の雨】による建設中の軌道エレベーターの破壊工作です。降り注いだ残骸により地球の大都市の壊滅。建設及び警備に従事していた者にも多数の死者が出ました」


「正解だ。では、その【星の雨】について。奴らの活動理念や目的は何だ? 分かる者がいれば答えてみろ」


 オリアナは指名ではなく、挙手での回答を求めた。だが数秒待っても、手を挙げる者はいない。


「何だ? この程度も答えられんのか。勉強不足だぞ」


 オリアナの叱咤を受けた生徒達がひそひそと話し始める。


「っつてもなー」


「アイツらの目的なんて、分かるはずないよ……」


「そんなの授業で教わったか?」


 誰も質問に答えられそうにない。見かねたオリアナが答えを述べようとすると。


「宇宙社会における恒久的な平等の実現、及びそれに伴う社会構造の改革。歴史の言葉を借りるなら、『革命』。それが彼らの活動の理念であり、最終目的です」


 立ち上がったノワールが、すらすらと回答した。まるで何度も練習した台本を読み上げる様に、洗練された回答だ。


「よく勉強してるようだな、シングリス。ちなみに聞くが、それは何処で学んだ? 教科書には載っていないだろ?」


「民間宇宙船襲撃の際に、【星の雨】が出した声明です。彼らはそれ以前にもそれ以降にも発信していません。これが唯一、彼らが自ら明かした情報です」


「そこまで抑えているとは、流石は学級長」


「ありがとうございます」


 オリアナの賞賛を素直に受け止め、ノワールが席に着く。


「まぁ、これくらいは常識なわけだが。アールド、付いてこれているか?」


「……………………」


「先生、ダメです! 情報量が多すぎてフリーズしてます」


 硬直するグレンの代わりに、リーゼロッテが答えた。


「なに? この程度でどうやって入試を突破したんだ――って、そういやそいつは座学試験はフリーパスだったな」


 オリアナの暴露に、激しい受験競争を繰り広げて来たクラスメイト達が『なんだこいつは』という冗談交じりの殺気を込めた視線をグレンに送るが、当の本人がそれに気付く様子はなかった。


「さて、お前達が勉強不足であることが明るみになったようだし、ここからはグループワークとしよう。各班、今取り上げた二つの事件のどちらかについて調査し、後日レポートを提出しろ。以上だ」


 オリアナは適当に班を決めると、教室を出て行った。


生徒達は残りの座学が半ば自由時間になったことに感謝すると共に、彼女がシャツの胸ポケットに入った紙のケースを取り出すのを見て悟った。


 ――あぁ、ニコチンが切れたな――、と。


 ようやく再起動したグレンは、リーゼロッテにエヴァ、それからノワールを加えた四人班でグループワークに取り組みだした。


「私達の班は『バベル事件』についてね。背景情報がかなりあるけど、どこからレポートにまとめる?」


「ま、それはリーゼが一番詳しいでしょうし、任せるわよ」


「リーゼロッテ、お前実は結構賢かったのか?」


 エヴァの言葉に、グレンが純粋に疑問を示した。


「アンタの百万倍賢いわよ」


「一応、リーゼロッテは座学でも学年トップクラスだからね。普通に賢いよ」


「座学総合学年一位に言われても何にも嬉しくない」


「流石は経営科主席入学様」


 ノワールのフォローに噛みつくリーゼロッテと茶々を入れるエヴァ。


「僕はそれで良いけど。リーゼロッテ、君はいいのかい?」


「別に構わないわよ。皆知ってることだし、グレンにだけ隠す必要はないわ」


 リーゼロッテは顎に手をついてあっけらかんと答える。気にしていない、というアピールをするためのポーズだ。


「どういうことだ?」


 首を傾げるグレンに、リーゼロッテは語り出した。


「私の父が『フロート・テクノロジーズ』っていう会社を経営していることは知っているわよね」


「そういやそんなこと言ってたな」


「『フロート・テクノロジーズ』の仕事は、建設業と警備業をしてるんだけど。【星の雨】が破壊工作を仕掛けた軌道エレベーターの建設と警備は、『フロート・テクノロジーズ』がグループを代表して担当してたのよ」


 つらつらと語られるそれを、グレンは黙って聞いた。


「『バベル事件』で、軌道エレベーターの残骸が地表に落下。それによって起きた大量の被害の責任を取らされて『フロート・テクノロジーズ』はグループ内での序列を下げられて融資額が減少。で、そのタイミングで『フロート・テクノロジーズ』が担ってた警備業を『アクシア重工』に奪われて経営難が加速、って流れよ」


 リーゼロッテとガイオスの仲の悪さは、派閥争いだけが生み出したものではない。親の会社が、グループ内で仕事を奪い合っているという事実も、彼女達が訳も無く険悪になる一因であった。


「ガイオスやアイツの親の会社を恨むのが筋違いなのは分かってるわ。事の発端は、警備の配置や建設スケジュールの情報が【星の雨】にリークされた事だし、『アクシア重工』に仕事が奪われたのも、グループ上層部の判断だからね」


 だが、理性でそう分かっているとしても、それで割り切れるほどリーゼロッテは大人ではなかった。


「だからまぁ、昨日アンタがガイオス達に勝ったのにはスカッとしたわ。ありがと」


 ふっと笑ったリーゼロッテが、グレンに向けてグーを差し出し、にやりと笑ったグレンがそれに拳を合わせる。


「そう言えばグレン、君は地球出身だったね」


「あぁ、そうだぜ」


「差し支えなければ、『バベル事件』の際の地球の様子を教えてくれないか?」


「あぁ、それいいね。他の班とは違う視点でレポート書けそうじゃん」


「確かに、それはちょっと気になるわ」


 ノワールの質問に、エヴァとリーゼロッテが続いた。三人とも、生まれも育ちも宇宙で、地球出身の者と関わる機会はなかった故の疑問だった。


 興味津々といった様子の三人。しかし、グレンの方は申し訳なさそうに頭を掻いた。


「悪い。実は俺、五年前より昔の記憶がなくてな。『バベル事件』は六年前だろ? 知識としちゃ知ってるんだが。医者が言うには、頭に瓦礫でもぶつけたんじゃねぇのかって。両親もその時に死んじまったみたいで、戸籍もなくしちまってよ。グレン・アールドって名前も、孤児院の院長が付けてくれたんだ」


「そ、そうだったのか。いや済まない。そんな過去があったとは。辛かっただろうに」


「気にすんな。俺も気にしちゃいねぇ」


「いや、アンタは気にしなさいよ」


 開き直って言うグレンに、リーゼロッテが突っ込む。


「親には悪いが、忘れちまったもんは仕方ねぇ。それよりも、俺を受け入れてくれた孤児院の連中との記憶の方が大事だよ」


「いや、そんな割り切れるもんなの?」


「そんなもんさ。エヴァも記憶を失えば分かるぜ」


「うーん、それは遠慮したい……」


 あっけらかんとしたグレンとエヴァのリアクションに、ノワールは苦笑いを浮かべて話を移した。


「なら、事件後の地球の状況や復興の様子という観点を入れるのはどうかな? グレンも、その辺りの事はよく知っているんだろう?」


「あぁ、それならよく知ってるぜ。何から話す?」


「あ、じゃあグレン君がどんな生活してたかとか知りたいかも」


「なるほど。地球人の体験談から深掘っていくわけね」


「よし。じゃあ俺がいた孤児院の話からだな。俺が拾われた孤児院は、統合国第三区のエイジ地区ってところだ。えーと、お前らに伝わるように言うと……」


「かつての合衆国だね。海沿いの街だろう?」


「お、知ってんのかノワール。流石は主席」


 西暦から恒星歴への移行期には、地球上で数多くの紛争が起き、それ以前の地図が使いものにならない程多くの国が衰退し、新たな国が多く誕生した。


 その一つが、グレンが住んでいた統合国と呼ばれる国だ。以前は合衆国と呼ばれ、地球上で最大規模の軍事力を備え、世界の警察とも称された大国。


「確か、あの地域は軌道エレベーターの残骸がかなり降り注いだみたいだけど、その辺はどうだったんだい?」


「孤児院は田舎の方だから特に被害はなかったぜ。でも都市の方はかなりひどいな。復興プロジェクトも進んでるみたいだが、未だに放棄されてる場所もかなりある。聞いた話じゃ、スラム街みたくなってる場所もあるらしいしよ」


 その後もノワール達からグレンへの質問が続き、それを基にレポートが制作された。


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