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残響戦域レゾナンス  作者: 素人Knight


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第二章 機動兵器〈ストラクト〉⑦

 宙域内の治安維持を務めるため、全コロニー政府は宙域警察を配備している。各惑星やコロニーの政府、広域宇宙連合から独立している学園においてもそれは同様であり、第五宙域警察が警備を担当している。


「――というわけだ。理解できたか?」


「はい」


 宙域内を漂う警察船内の警備システム管理室にて、新たに配属された女性警察官――階級は巡査――への引継ぎがなされていた。


 制服を乱雑に着崩したに如何にも不真面目といった風体の三十代半ばの男性警察官――階級は警部補――が、几帳面に制服を着こなした若い女性巡査に、警備システムの説明をする。


「にしても、何でこんな時期に配属されたんだ?」


 中途半端な時期にやって来た彼女に尋ねながら、警部補は何かを思いついたように言う。


「さてはアンタ、何かやらかしたな。それもお上の逆鱗に触れるような」


「どうしてそう思うのですか?」


「そりゃ、配置換えにしちゃ半端な時期に、こんな辺境に配属される奴は大抵訳ありだ」


 彼が言うように、第五宙域は宙域警察の管轄宙域ではかなりの辺境である。そもそもコロニーを建設し辛い小惑星帯で、数少ないコロニーもアカデミー関係以外のものは存在しない。


 かつての大戦で放棄され、未だに紛争が絶えない金星周辺の第二宙域等と比べて大した事件も起きない宙域である。


 故に、民間の警備会社とは異なり、簡単に解雇できない警察組織内の問題児達を自主退職に追いやるための左遷先。


「まぁ、大方予想は付くさ。アンタみたいな若い女性警官が馬鹿な正義感を拗らせて上に反発した挙句、ここに追いやられる奴は沢山見て来たからな」


「警部は違うのですか?」


「まさか。俺は特に訳なし、タダの問題児だよ。三十超えてもロクに出世できなくてここに配属された口だ」


「それは、ご愁傷様です」


「憐れむなよ。余計に傷つく」


「では、警部は出世を果たしたかったのですか?」


 彼女の問いに、警部補は肩を竦めて答えた。


「まさか。俺は最初から出世なんて興味なかったよ。ぶら下がリーマンでも簡単に首を切られないのが、公務員の数少ないメリットだろ?」


「悪しき風習ですね」


 人類が宇宙に進出し、技術も文化も様変わりした世界であるが、政治や役人の在り方というのは簡単には変わらない。


 警察を始めとする政府組織の上層部や役人の間では汚職や天下りが存在し、社会的地位の低い人間からの搾取が横行している。


「ま、否定はしないさ。だが自惚れるなよ」


「はい?」


「今日からアンタも、その悪しき風習の仲間入りってことさ。アンタがどんな思想を持っていようが、客観的に見れば俺と同じ悪しき風習の一員だ」


 その言葉に、巡査は僅かに顔をしかめる。否定したいが、その言葉が見つからない。そんな表情だ。

「変えようとは思わないのですか? 私達が怠惰を貪りつつも豊かな生活を保障される一方で、明日の生活すら見通しの立たない人もいる。この宇宙社会の根本には、未だに搾取構造が残っています」


「かもな。だがそれがどうした? その構造を作ったのも、変えられるのも俺じゃねぇ」


 巡査の口から出る綺麗事に、警部補はきっぱりと返した。


「つまり警部補は今の社会の在り方が正しいとおっしゃりたいのですか?」


「話を聞いてなかったのか? 俺もアンタも、正しい正しくないを論じる立場にないと言ったんだ。何か変えたきゃ、警官じゃなく政治家になるんだったな」


「どんな立場、肩書の人間にも政治に意見する権利はあります」


 食い下がる巡査に、警部補は先程までよりも幾分か低く冷たい声で尋ねた。


「――アンタ、今年何年目だ?」


「二年目ですが」


「若いな。俺は十五年目だ」


「長いですね」


「俺もアンタと同じように考えた時があった。俺も決して裕福な家に生まれた訳じゃないからな。社会に一石を投じてやろう、なんて考えた時期がな。だが結果はこれだ。こんな辺境に飛ばされて、地位と権力からかけ離れた場所にいる」


 両腕を広げて、自分の現状を見せるように語る。


「俺はアンタの未来だ。だから知っている。理想を語り続けた先に迎える未来には、無力感しかねぇよ」


「警部補は、諦めたのですね。社会を、全てを変えることを」


「そうだ。アンタもいずれ諦めることになる。そしてそれは早い方が良い。俺みたいになりたくなければな」


 そう言い切って、警部補は踵を返した。


「そんじゃ、俺は仮眠室で寝るわ」


「警部補の担当時間はまだ終わっていませんが」


「どうせ何も起きねぇよ」


「あ、待ってください警部補。一つ言い忘れたことがあります」


 管理室を出て行こうとする背中を呼び止める。


「ん、どうした?」


 振り返る警部補。


「こんな所にいるあなたであれば、共感してもらえると思ったのですが。無理だったようですね」


 巡査が腰から抜いた拳銃の銃口を向けて立っていた。


「私は――いや、私達はあなたとは違う。私達は決して諦めない」


「チッ、お前ナニモン――ッ!」


 言いながらホルスターの拳銃を抜く。いくら怠惰でも、さすがに訓練を受けた人間と言うべきか。それとも自分で言うほど怠け者でないのか。その動きは素早かったが、それよりも早く巡査が引き金を引いた。


 消音器サプレッサーを装着した拳銃から静かに放たれた弾丸が、着用義務のある防弾チョッキを着ていなかった警部補の胸を撃ち抜いた。

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