第二章 機動兵器〈ストラクト〉⑤
ジャミングから回復し、モニターとレーダーが正常に起動し直した。
「さぁて、これで残りはガイオスだけだな」
敵六機を撃退したグレンは、最後の一騎打ちのために再び移動を開始する。
「お、来たな」
禿げた芝生が広がる廃公園に入る。
『前方より攻撃を確認』
システム音が示す通り、レーダーが攻撃を捕捉する。
弧を描いて迫り来る三つの榴弾。着弾するよりも早く機関砲で打ち抜くと、空中で爆発した。
軌道から敵機の位置を逆算して向かうと三ブロック進んだところで、ガイオスの〈フルアーマー・レギオン〉が仁王立ちで待ち構えていた。
「よぉ、これで一対一だな、ガイオス」
グレンは拡声機能を使用してそう言った。
「追い詰められた気分はどうだ、クソ野郎」
ガイオスの方も機体の拡声機能を使って返答する。
『調子に乗るなよ、アールド。お前程度、端から俺一人で十分だったんだよ』
「おうおう。お仲間揃えて奇襲してきた奴は自信の持ちようが違ぇな」
『勘違いすんな。アレはお前の愚かさを自覚させるためにすぎん。俺の派閥に所属しないということがどういうことか、教えてやろうとしただけだ』
「お前が何しようが、俺をどうこうするなんて出来ねぇよ」
『ハッ。今にそのその大口叩けなくなるさ』
「ならやってみろ、リーダー君」
ガイオスは舌戦は十分と判断し、グレンの挑発に沈黙で応える。
「ねじ伏せてやるよ、ガイオス!」
グレンの〈レギオン〉とガイオスの〈フルアーマー・レギオン〉。二機のストラクトが一気に距離を縮めた。
ガイオスの〈フルアーマー・レギオン〉が専用のヒート系近接兵装、戦斧を上段から振り下ろす。グレンは〈レギオン〉を急停止させ、〈フルアーマー・レギオン〉を空振りさせる。戦斧が空を切り、地面に亀裂が走った。
攻撃の後隙を狙ったグレンが、左手で高周波アックスを引き抜き前屈みになった首元目掛けて振り下ろすが。
「――おぉっ」
ガイオスは戦斧で地面を叩いた姿勢そのまま、通常の〈レギオン〉よりも脚部に増設されたスラスターを吹かし猛烈に前進。
総重量差約一〇トンの機体のショルダータックルを食らったグレンの機体が大きく後ろへ弾かれた。
姿勢を制御しバランスを整えるグレンに、右肩部に搭載された榴弾砲が咆哮を上げる。
接近する四つの榴弾砲を右手の機関砲で打ち抜き空中で破壊。爆発で生じた煙を掻き分けるように、〈フルアーマー・レギオン〉が戦斧を掲げて襲い掛かる。
「くっ……」
後退してはダメだと判断するグレン。機体を前進させる勢いで、振り抜かれる直前の戦斧をその根元で抑えに行く。
互いの斧の柄同士が衝突し、激しい振動が空気を揺らすと共に、両機の動きが止まる。だが、鍔迫り合いではガイオスの駆る〈フルアーマー・レギオン〉が重量と出力の分だけ有利となる。
徐々に押し込まれていくグレンは、その場で機体を半回転させ戦斧を受け流す。流しきれなかった勢いの分だけ体勢を崩した〈レギオン〉を、再びガイオスが攻め立てた。
逃げるグレンは演習場を広く使い、倒壊したビルの残骸に回り込み榴弾砲の射線を切り、段差を利用し高所を取ると、その場所から機関砲による射撃やアックスを振り下ろしての攻撃を行う。
モニター上で繰り広げられる二機の攻防を、四人は固唾を呑んで見つめていた。
「押されていますね、アールド君」
「パイロットとしては同等、いや、グレンの方が上だろうね」
「単純に機体性能が違いすぎるわ。〈フルアーマー・レギオン〉は〈レギオン〉のカスタム機だけど、実質上位互換だから」
「対して、アルファード君の戦い方は実に堅実です。アールド君の動きに惑わされず、機体の性能差を活かして着実に削っている。焦らず、じっくりと、確実な勝機を待っています」
モニターには、グレンがガイオスに追い詰められる姿が映っている。ガイオスの戦斧を受ける度にグレン機の姿勢が大きく崩れ、体勢を立て直す前に次々と攻め込まれる。
純粋に武器を扱う能力ではグレンの方が上。だが、〈フルアーマー・レギオン〉の出力や二機の重量性、その技術差を覆している。
射撃兵装にも大きな差がある。一四〇mm機関砲が大したダメージを与えられないのに対し、ガイオス機の榴弾砲は一発でグレン機の体勢を崩し甚大なダメージを与えるだけの威力を持っている。
まだ直撃はしていないが、この分ではいつ榴弾砲の餌食となってもおかしくはない状況だ。
ふと、リーゼロッテが呟いた。
「【巨獣】……!」
超重量・超出力を活かしたガイオスの戦法を見たものが、彼に名付けたパーソナルネーム。その名が示す様に、〈フルアーマー・レギオン〉の巨躯が一回り以上小柄な〈レギオン〉を追い詰めていく。
その様子を見ながら、イリシアは思い至った。
「彼は、口で言うほどの自信家ではありませんね。寧ろその逆。積み上げた研鑽と冷静な状況分析。そうして勝って来たのですか」
「あの、どうしてグレンさんはビーム系を選ばなかったんすかね? 実弾系より、ビーム系の方が、まだダメージを与えられるんじゃないっすか? リーゼロッテさんが勝った時も、確かビーム系の射撃であの装甲を打ち抜いたんすよね?」
「それは無理よ」
ミフィーラの疑問にリーゼロッテが即答する。そこにすかさずイリシアが解説を挟み、彼女の言葉を捕捉した。
「学園が用意しているビーム系射撃兵装では、あの装甲は抜けないでしょう。リミッタープログラムもかかっていることですし」
ビーム系の射撃兵装は、機体が生み出すエネルギーの一部を砲身の粒子加速器に流し込み、質量の大きい荷電粒子を打ち出すことで成立しているものだ。その威力は、銃そのものが持つ粒子加速器の性能と、機体から流れるエネルギーの量で決まる。
「私の〈ガンダリス〉でも、あの装甲を抜くのは簡単じゃなかった。〈フルアーマー・レギオン〉の外装は、アステリウムの純度がかなり高いから」
ストラクトの外部装甲を形成する金属は、小惑星帯で発見された、既存のいかなる鉱物よりも強く結合した分子構造を持つ、アステリウムという鉱物を主成分とする合金で作られている。
純度の高いアステリウムは非常に高い剛性や耐熱性を持っており、膨大な加工コストにさえ目を瞑れば〈フルアーマー・レギオン〉の様に、強固な耐久力を誇る機体を製造することができる。
更にアステリウムは、その純度が一定以上に高まる際に、周囲の荷電粒子の運動エネルギーに対する斥力を発生させる力場を形成するという特性を持っている。
そのため、ストラクトの格闘兵装やシールドには高純度のアステリウム合金が使用されており、ビーム兵器の威力を減退させ、またはベクトルを偏向させることができる。
ガイオスの〈フルアーマー・レギオン〉の外装にはその基準を満たすアステリウム合金が使用されており、並のビーム兵器は無効化されてしまう。
「学園仕様のリミッタープログラムは、粒子加速器へ注入できるエネルギーに上限を設定していますから、あの装甲を撃ち抜ける威力は出せません」
「リーゼロッテさんはどうやって勝ったんすか?」
「火力制限されたビームを収束させて斥力場を貫通させたからよ。一発でアレを抜くのは無理」
グレンが乗る〈レギオン〉に、同じ芸当はできない。
「じゃ、じゃあどうやって勝つんすか!?」
「いや、私に聞かれても……」
言われて、リーゼロッテは言い淀む。
これまでの戦いぶりからして、グレンが投げやりで決闘を申し込んだ訳ではないことはよく分かった。
グレンの戦い方は、一見して定石を完全無視した滅茶苦茶な戦い方だが、それはラッキーで成立したものではない。
卓越した操縦技術や、長距離からの射撃やジャミング下での攻撃を避けた謎の勘。リーゼロッテからすれば正体不明なそれらも、グレンが自分の実力として作戦に落とし込んだものだ。
だが、やはりグレンの戦い方は彼女にとっては理解不能なものであり、次にどう動くのか、どの様な作戦を考えているのかは分からない。
「彼があえて実弾系や高周波系を選んだ理由も気になりますね。単純な攻撃力であれば、ビーム系やヒート系が優れているのは明らかです」
勿論、全ての場合においてその二つが優れているわけではない。実際、ビーム系やヒート系はエネルギーの消耗が激しく、長期戦には向かないというデメリットを持っている。
ビーム系やヒート系の兵装が生まれても尚、戦場がそれ一色に染まらないのには相応の理由がある。
だが、学園での決闘においてはそのデメリットは存在しない。そもそも長期戦ではなく、敵機に規定のダメージを与えることが目的である以上、当たれば勝ちのそれらを装備しない理由が無いのである。
「あぁ、やっぱダメっすよ!」
モニターに映る二機の状況を見て、ミフィーラが叫ぶ。二人の戦いは、巨大クレーター内に移動していた。
グレンが高周波アックスを〈フルアーマー・レギオン〉に振り下ろすが、ガイオスが戦斧を横に構えてガードしている。
機体と武器の重量を乗せて放った一撃だが、それよりも重く出力の高い〈フルアーマー・レギオン〉が弾き飛ばしてしまう。
グレンはバランスを整えながら機関砲を放つ。実体弾が脚部に着弾すると、やはりその外装には掠り傷程度しかなかったものの、ガイオスは追撃の機を逃すことになる。
「――今のは……」
その様子に、イリシアが何かを気付いたようだ。彼女だけでなく、リーゼロッテやノクティスも、今の動きを違和感を覚えたらしい。
「ガイオスの奴、なんで今追撃に行かなかったの?」
「え? そりゃグレンさんの射撃を嫌がったんじゃ……」
「いや、いつものガイオスならそんなの気にせず勝負を決めに行くはずだ」
四人が見つめるモニター上に、再び攻撃を仕掛ける〈レギオン〉の姿が映る。今度は一直線に突撃するのではなく、前進とサイドステップでガイオスを揺さぶりながら肉薄する。
迎撃のために榴弾砲を放つが、グレンは異常な反応速度でそれを左右に躱す。純粋な直線を走る速度において、二機に大きな差はない。むしろ、外装のデメリットを補う出力を有している〈フルアーマー・レギオン〉に軍配が上がる。
だが、細かい切り返しを含めた至近距離での機動力であれば、やはり軽量な〈レギオン〉が優れていると言わざる負えない。
まして、操縦の練度はおそらくグレンの方が上。
側面に位置取ると、頭部目掛けてアックスを振り下ろすフェイント。それに反応し戦斧を掲げ、がら空きになった右脚部――膝関節の駆動系――目掛けて機関砲を連射する。
通常の〈レギオン〉相手であれば膝から下をもぎ取るその攻撃に耐え、空いた左腕を振り回した。
「――嫌がった!」
リーゼロッテが反応する。
モニター上に映る映像では、〈レギオン〉が素早くバックステップを踏み、剛腕を躱す。再び距離を取りながら、攻撃の機会を探るためガイオスの周辺を蠅の様に素早く動き回っている。
「……なるほど、そう来たか」
「確かに、これなら実体弾や高周波系を選んだことにも納得です」
「え、ちょっとどういうことっすか!? 勝手に納得しないで説明して欲しいっす!?」
一連の流れからグレンの狙いを察した三人に、未だ理解が追い付かないミフィーラが説明を求めた。
「おそらくですが、アールド君の狙いは――」
イリシアが先輩且つパイロット科の生徒としてミフィーラに説明する。




