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4.アトリエ

真っ白な空間にアニメ調にデフォルメされたキャラクターが目の前に立っている。

アニメの登場人物にされてしまった気分だ。俺はただ何も無い世界に立ち尽くしていた。


「私のアバターはどうですか?いい感じでしょ」


「君は……アビリィだよな、一体ここはどういう仕組みなんだ?」


「あなたの意識は体内のセピアによって電子世界に転送されました。安心してください!肉体は眠っているだけです。いつでも現実に戻れます」


意識だけがネットの世界に飛ばされたらしい。周囲を見渡しても何も無い無地の空間が広がっていた。やっぱり俺は夢をみているんじゃないのか。


「ここは元々アニミスネットワークを体験するための空間でした。昔はVRゴーグルと全身タイツのような感覚体験スーツを着てこの世界を楽しんでいたそうですが、だいぶ進歩したでしょう!五感全てが感じられるはずです。」


確かに服の質感さえ感じる。ポリエステルのTシャツに短パン。まるで、ゲームの初期スキンだ。期待感と不安感が交錯する。


「意識だけを飛ばして俺の体は大丈夫なのか?」


「そこはよく疑問視されるみたいですがサイバートピア社が安全性を保証しています。事故率はあなたの時代の交通事故よりもずっと低いみたいですよ」


またサイバートピア社か。つまりあいつも関わっているなら少しは安心出来る。あいつは何を思ってこの空間を創ったか。きっとあいつのことだ。人を喜ばせるためだろう。


「ここでは何が出来るんだ?」


「ここはあなたのアトリエ。アニミバースのホーム画面のような場所です。模様替えしましょう!」


アビリィ指を鳴らすと視界の右から左へ無数の粒子が空間を満たし、それらが繋がり滑らかなCGアニメ調の部屋になっていく。数秒でオリエンタルな高級ホテルの一室に変わる。アビリィが魔法使いのように見え、俺は思わず腰を抜かしそうになった。


「すごいな……好きな部屋を一瞬で作れるのか」


「素敵な部屋ですよね!こんなのもありますよ」


再び指を鳴らすと、部屋は粒子となって散り、再度結合して別の部屋になっていく。今度は温泉旅館の和室になった。辺りを見渡すと木造の温かみを感じる。足元はしっかりと畳の藁の感触がする。アニメ調な風景だが、ここが現実であるかのように錯覚する。


「自由自在だな!アビリィが創っているのか?」


「これはフリーで公開されているデフォルトアトリエの一つです」


さすがに瞬間的に創っている訳ではないようだ。誰かが一から創り、無償で公開しているらしい。職人の技術に感嘆する。


「どうせなら服も変えちゃいましょう。」


指が鳴ると一瞬でバサッとアビリィの格好が変わる。俺も服の重みを感じ格好が変わっていた。アビリィは薄ら桃色がかった若女将のような浴衣を着ている。手元が萌え袖になっている。アビリィには何を着せてもマッチしそうだ。俺は若干渋めの青紫の浴衣を着ていた。こんなことが当たり前に出来る世界なんて楽しいに決まっている。


「どうですか!似合ってますかね?」


「いいな。これもフリーなのか?」


「そうです!フリースキンです!自分で創ることもできるんですよ」


「俺も何か創ってみたいな」


「でしたら、そこの座布団を持ってください」


座布団を拾い上げると綿のもちもちとした感触が心地がいい。これも誰かが本物そっくりに創ったようだ。


「持ったけど、どうするんだ?」


「片手で指パッチンしてメニューを開いてください」


指を鳴らすとアビリィが現実世界でやったように俺の手首から光が溢れ、空中にウィンドウが現れる。パソコンのデスクトップのように色々なアプリがあるようだ。


「モデリングアプリをタップしてくださいね。立方体のマークのやつです」


CGのモデリングソフトのようなものが開く。ここで編集を行い、大きさや密度、質感などを決められるようだ。クリエイティブ好きが飛んで喜びそうな機能が満載だ。当の俺は何が出来るのか試してみたくてたまらない。


「その座布団をスキャンしてください!」


ウィンドウ越しに写すと座布団は宙に浮く 。試しに座布団のモデル拡大すると画面先に浮いている座布団も一緒に大きくなる。


「なんだこれ!大きくなってんじゃん!」


「面白いでしょ?素材も変えて見ましょうか」


アビリィが遠隔操作してくれているようだ。画面端のバーが反応し設定されていく。人々はこのようにしてアニミスと共同で世界を創っていったのか。


「出来ました!スキャンを解除して触ってみてください!」


宙に浮いているウィンドウを消すと光の粒子となって消える。それと同時に布団ほど大きくなった座布団はゆっくりと床に落ちていく。そうやって職人達がひとつひとつ細かく設定していると思うとテンションが上がってしまう。思わず俺は座布団に思い切り飛び込んだ。


「なんだこれジャリジャリする」


「中の素材をスチールウールに変えちゃいました。痛覚は十分の一なので大丈夫なはずです。」


危ないな。はしゃぎすぎてしまった。鉄の匂いが鼻につく。痛みもほとんどない。アビリィの性格に引っ張られている気がする。


「このように、物や建物のスキンを作って人々とアニミスは多様なアトリエを創っています。売買も盛んなんですよ」


「この部屋もフリーなんだよな。他にもないのか?」


「そうですね……あります!あなたが気になりそうな部屋が」


指が鳴り今度は白い壁紙の民家のリビングに変わる。俺の昔の部屋もこんな感じだったような。


「ここは三十年前の一般的な住居がモチーフです。あなたには一番馴染み深い部屋ではないですか」


確かに一番落ち着ける。懐かしさが込み上げてくる。ここが拠点となるなら最高だ。


「これに決めよう!服も動きやすいものは無いか?アニミバースに行きたいんだが」


「服のアイコンのアプリを開いてください」


指を弾きアプリを選択すると、ゲームのスキン選択画面のように様々な服が並んでいる。ゲームの世界に入ったようでタップする手が止められない。ショップもあるようで出品アプリのように洒落た服が並んでいる。俺はスキンや服は集めたくなってしまうタイプなので散財の危険がある。


「手持ち欄の服は全てフリーのものです。試しに好きなものを着てみてはいかがでしょう」


このクオリティのものがフリーか。それに結構たくさんのスキンが着られるようだ。

俺は無難に白Tシャツに黒い上着、紺のジーンズを選択した。俺の格好は一瞬で変化する。


「綺麗めな格好が好みなんですね。似合っていますよ!」


アビリィも変化する。純白のワンピースに白い広つば帽を被っている。童話の少女のようだ。


「私、こういう服が好きなんです!」


「まあ悪くないんじゃないか」


アビリィは嬉しそうな笑みを浮かべる。俺も自然と笑みを返していた。


「アニミバースには、バースという巨大な空間があります。アトリエは個人的なスペースですが、バースでは世界の人々が社会やコミュティを築いています。ドームほどの広さもあれば国規模のものもありますよ。」


俺は前のめりになって話を聞いていた。

まるでオープンワールドのMMOのような世界。どんな世界があるのか探索したくてたまらない。


「すごいな。今すぐにでも行きたいな」


「はい!バースにはそれぞれのルールがあり、バースに合った振る舞いをすることが求められます。郷に従えというやつです。同接数世界一のバース、チェインシティに行ってみましょうか。」


指を鳴らし、ウィンドウには地球儀のようなアイコン。きっとこれだろう。サンドボックスゲームのサーバーを選択画面のように様々なバースが並ぶ。それぞれ観光プロモーション動画のような映像が流れ、鳥になったように世界を一望して廻っている。巨大な図書館のようなバース、異世界ファンタジーのようなバース、そして一番上には実写のような大都市のバースがある。


「これがチェインシティか」


「転送を押せばすぐに出発できます。準備はいいですか?」


転送をタップすると、体はみるみる光りに包まれ、粒子となって消えていく。



視界が白く染まり、次第に景色が現れる。ここは都市の自然公園のようだ。

太陽が眩しく、芝生では人々がくつろぎ、家族連れは笑っている。アニメ調とはうって変わってリアルな世界観だ。アビリィのスキンもリアルな質感に変化していた。


「綺麗な街ですよね。第二自然公園にスポーンしたみたいです」


「現実と間違えそうだな」


「言い忘れていましたがこのバースのルールはリアリティ。現実と同じ営みが求められます。違反をすると出禁になることもあるので気をつけてくださいね。」


俺は街を歩き始めた。

この世界で何が待っているのか。

今、冒険が始まる。


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