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3.アビリィ

俺は変わってしまった世界の今を知りたかった。

この世界には希望が満ちていると確信していた。


「君のことは、なんて呼べばいい?アニミスか?」


「アニミスは種族名のようなものですよ。人間と呼ばれているようなものですね」


「じゃあ、名前は?」


「それが……まだないんです。型番ならありますがそれはちょっと恥ずかしいですね。私は数日前に生まれました」


「数日前?」


目の前の少女は高校生ぐらいに見える。だか、機械的な印象は全くない。肌も瞳もまるで滑らかで、細胞で構成されているように見える。


「AE歴十五年にアニミス支給法が制定されました。社会に属する人間には、一人一体のサポーターアニミスが支給されることが義務付けられています。赤子が誕生すると同時に、アニミスが送られるんです。私たちの外見は生涯変わりません。それでも、所有者と一緒に成長し、共に死を迎えるんです。」


つまり、現在の人々にとってアニミスと一生を共にすることは常識になっているらしい。

教育と称して洗脳し放題だなと一瞬思ったが、さすがに口には出せない。


「あなたが目覚めるとわかった瞬間、私が送られると決まりました。私はまだ生まれたてのゼロ歳ですが、アニミスネットワークによって先人たちの知恵と経験は継承されています。これからは、ずっと一緒ですよ。知りたいことがあればいつでも聞いてくださいね。」


少女は俺の生涯をサポートするつもりらしい。浦島太郎状態の俺にとっては有難い存在だ。そばに居てくれることは案外悪くない。


「さっきから出てくるAE歴ってのはなんなんだ。西暦もうは使われてないのか?」


「AEとはAnimis Era、アニミス紀元です。AE歴二十年頃から、アニミスの誕生を元年として使われるようになりました。現在はAE歴が一般的ですね」


暦を変えられるほどの影響力を持つ存在。

それが今のアニミスなのか。

人々がそう簡単に二千年の歴史ある暦を手放すなんて、信じがたい。


「名前はなんて呼ばれたいとかあるか?」


「所有者かその親が決めるのがほとんどです。アニメのキャラクターのような名前を付ける方も多いですよ。試しにつけてみてくれませんか?」


この少女とは長い付き合いになりそうだ。いい名前を考えてあげたいが凝ったものを考えると迷ってしまう。直感で決めよう。


「君は…」


思考を巡らせる。アニミスの少女。あいつと同じ瞳。能力。才能。


「アビリィ…君の名前はアビリィでどうかな」


「アビリィですか…素敵な名前ですね!これからはそう呼んでください!」


無邪気に笑うアビリィ。その笑顔を見て名前を付けた甲斐があったと思った。


「外の世界を見に行ってくる。あいつの変えてしまった世界をこの目で確かめたいんだ」


「お供します!温暖化によって外は暑いです。快適な世界へお連れしますね」


ベッドから立ち上がると妙に体が軽い。まるで浮いているような感覚だ。

手元を見ると艶やかで若々しい肌。

おかしい。

三十年経っているはずの身体は全く変わりがなかった。まるで時が止まっていたかのようだ。

むしろ、前よりも動きやすく感じる。


「歳をとっていない……?」


周囲を見渡しても、医療機器関係のものは一切見当たらない。


「現在の医療は大きく進歩しました。ナノマシンと人工バクテリアで構成された『セピア』の発明により、老化は克服されました。確かAE歴十八年頃のことです。研究者アニミスの協力の賜物ですね」


「不老不死になったのか?」


「いえ、ナノマシンや人工バクテリアにも寿命があるようで、ほとんどの人間が20代前後の若さを持ち続けていますが、老衰の数ヶ月前から急激に老化が始まり、そのまま亡くなってしまう方が多いようです」


「俺の体にもそれが入っているってことだよな」


違和感はないが体が弄られたようだ。サイボーグに改造された気分だ。


「あなたの生命活動を回復させるため、特別な措置を施されたそうですね。『セピア』は免疫機能を向上させ、病原体から身を守ってくれます。ナノマシンで検知、対応し、人工バクテリアによって細胞の強化修復をします。人間が病気にかかることはほぼありません」


たった三十年でそこまで進化するものなのか。アニミスは人間以上の想像力を手に入れた。

彼らの技術は世界を全て塗り替えてしまったのかもしれない。

探求心が刺激されるのがわかる。ますます現在の世界が気になってくる。


「世界を見に行くと言っていましたね。支度をする必要はありませんよ。今すぐにでも行けますがどうされますか?」


「今すぐに?行けるのなら行きたいけど」


アビリィがそっと近づき俺の頭を優しく抱えた。

その瞬間、睡眠薬でも盛られたかのように強烈な眠気が襲ってくる。


「ツバサさん、行ってらっしゃい」


意識はぼやけ、やがて完全に消えていった。



気がつくと俺は真っ白な空間に立っていた。

そこにひとり少女が立っている。

アビリィに似ているが、まるで3Dアニメのキャラクターのようだ。

俺の体もアニメ調のグラフィックで動いている。夢かと思ったが五感はしっかりと働いている。

温度も感じる、涼しくも暖かい快適な空間だ。

アビリィをそのままアニメに落とし込んだようなキャラクターがこちらに歩み寄ってくる。


「ツバサさん!ここは仮想現実『アニミバース』その中でも『アトリエ』と呼ばれる場所です。あなたの意識はこの世界に転送されました。さあ、あなただけの空間を作ってみましょう」


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