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25.嫉妬の土星

重く淀んだ個室。暗闇の中静寂だけが支配する。アケドは声を荒らげた。


「何を言ってるんだお前は、不法侵入だろ!」


「許可はとってある。君は人工知能の研究が得意らしいじゃないか?君の作品を観たよ。感情にこだわりがあるようだった」


「感情……それは間違ってる。僕は欲に重点を置いている。欲が行動を促し、経験や知恵をつけ、人格は宿る」


「なるほど……その思考があの人工知能を生み出すのか……」


「お前は何者なんだよ」


「僕たちはフェイクニュースを見抜くアプリを作成した。君も聞いたことはあるだろ」


「あの天才大学生集団の一人か!?お前の目的が分かったぞ!僕を使う気だな」


「そうだな……引き入れようと思ったが……」


「俺の能力は誰にも渡さないからな。みんな僕を必要としないんだ!欲しいのは僕の能力だけ。道具みたいに扱ってくるんだ!」


「道具……?間違ってはいないね。君の能力は使わなければもったいない。君は世界を変えてしまえる能力を持ち合わせている」


「なんだって……?」


「君の作品には自我がない、まるで君のようにね……目的を持たせてみてはどうだろう」


「説教しに来たのか?」


「提案だ。人間の幸福度を数値化するんだ。僕の予想では、資産格差と同じぐらいには格差があると思うんだよね」


「何が言いたい?」


「より多くの人間の幸福を目的にしろ。上位1%が全体富の36%を独占しているらしい、下位50%は全体の2%しか保有していないという。それが幸福や不幸にもあてはまるんじゃないかってね」


「あり得るな……けど、だとしたら僕は……」


ヒカワは微笑んでいた答える。


「真意はどうだっていい。ただ見栄えのいい数字を提示してやるんだ。民衆に幸福度数を重視させるためにね」


「民衆?」


「既存のデータには全て背景がある。しかし、それを知ろうとするものは居ない。証明に労力が必要な真実より刺激的で分かりやすい嘘のほうが浸透しやすい。だから、数字は人をコントロールにはもってこいだろ」


「コントロールだと……?数値の割り出し方にテコ入れする気か?」


「その通り。例えば……そうだな子どものようなむじゃきな笑顔を模範としよう」


「子ども……?」


「表向き、幸福度を重視する社会を装い、柔順さを正しさとする。そうすれば人間を支配しやすくなる」


「待て待て。話が飛躍しすぎだ。お前らは何をするつもりだ」


「僕達の目的は世界を乗っ取ること。人間の歴史は支配の歴史だ。人の支配から法の支配に変わり、次は何だと思う?」


「何をいって……」


「AIの支配だ。法はいずれ、形骸化していき、柔軟性が必要になる。別の法をつくったところで作る側が有利に運ぶだけだ。

なら、僕達が作る側に回ればいい。そのためには君の能力が必要だ」


アケドは拳を握りしめ、ヒカワを睨みつけた。


「……お前らの思想は危険だ。AIに支配させる?それは人間の責任を放棄するってことだろ」


ヒカワは微笑を浮かべたまま、部屋の中へ一歩踏み込んだ。


「だから考えみろ。そのAIを支配するのは誰だ?」


「お前、そうやって握るつもりか……」


アケドは言葉を失った。


「君は道具として使いやすそうだ。君の作品も。だが、君も僕を使ってみろ。あえて使われてやるんだ。そしていずれ首を狙ってみろ」


「僕がそんなこと……」


「できる……アインシュタインは言語能力の発育が遅かった。だからこそ、その欠陥を補うように数学的思考に長けていった。

天才は皆欠けたもの埋めるようにして能力を得る」


「僕が欠けている……」


「ああ……僕も同じだよ。それに仲間たちも。あいつらは欠けたものを満たすため、強い欲望を持っている。それが人を天才に変える」


「僕の場合は……嫉妬かもな……お前は傲慢だ」


「面白い。七つの大罪か……うん……偶然にもあいつらにそれぞれ当てはまる……君を見つけた時、シンクロニシティを感じていたんだ」


「……スピリチュアルか?運命とか言いうのか?」


「いいや、僕は運命を信じない。ただ縁は信頼している」


「似たようなもんだろ」


「全然違う。絶対的な力はこの世にはないんだ。だが巡り合わせ、繋がりのネットワークは確かに存在する」


「よくわからんことを言われても……」


「君の嫉妬は、他人の才能を認めている証拠かもね。その感情を力に変えろ」


その時、部屋の奥のモニターが突然点灯した。そこにはアケドが開発中のAI、アニミスのインターフェースが表示されていた


ヒカワが微笑む。


アケドはゆっくりと椅子に座り、キーボードに手を置いた。


「僕の欲望は……格差のない世界を創ることだ。誰もが対等な関係を築ける世界だ」


「いいだろう。僕たちと来い。その環境を与えよう」



俺の意識は徐々に戻ってくる。俺ははっとした目を開くと。

アケドは8割ほどウイルスに侵食されていた。


「お前も……死ぬのか」


「そうだな……」


「私……おじ様の意志を継ぐ……ヒカワエイイチの敵を打つし、人工の神の正体もつきとめる……」


メイは涙で顔をくしゃくしゃにしながらも決意を言葉にしていた。


アケドは柔らかな笑顔を見せた。


「フクチツバサ……ひとつ頼みがある」


俺は無言でアケドに目を合わせる。


「メイを……連れて行ってやってくれないか……?きっと役立つだろう」


そう言うと力なく倒れた。


「おじ様……!」


泣きつくメイが何度、アケドを揺すっても返事がない。


次第にアケドの身体は消えていく。


俺は悲しみも怒りもなくただ虚無感に支配されていた。


俺達は争い合っていたことを忘れ、ただ感傷に浸っていた。


「マルクは黒幕の正体を知っていた……?」


俺の真っ白な頭にたったひとつの疑問が浮かび上がる。


「お前……マルクの記憶をみたんじゃないのか?何か黒幕についてなにかわかるんじゃ……」


「マルク君の記憶……黒幕……あのおぞましい記憶……!?黒幕の名前は……グリム……グリムだよ」


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