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24.別れのワルツ

アケドは苦悶の表情を浮かべ、泥の中で膝をついた。


「……私は、なぜここまで……油断してしまったのだ……」


俺は刀を水で纏わせ、マルクの爪を受け止める。

衝突のたびに全身が持っていかれそうになる。


マルクの攻撃はまだ軽い。

俺を認識しているのか?


「アケド、動けるか?」


「……まだだ。だが、長くはもたん」


「なら、俺がやる。マルクを止める」


「殺すのか?」


「……違う。取り戻す」


マルクの瞳に、かすかに揺れる光が見えた気がした。

その奥に、かつての仲間の記憶が残っていると信じたい。


「マルク……聞こえるか?俺だ。ツバサだ!」


次の瞬間、叫びながら突進してくる。


「くそっ……!」


俺は波を盾に変え、マルクの体を包み込む。


「なあ、前にもこんなことあったよな!戻ってこい!お前は、俺たちの仲間だ!」


アケドが、泥の中から声を出す。


「そうか……私はこいつらに希望を。未来を見てしまった」


メイを抱えたクロウとミカイを抱えたアビリィが顔を見せる。


「敵の発生が止まりました……倒したんですね。ツバサさん」


「これはどういう状況かな。アケドを庇っているように見えるけど」


俺はすぐに答える。


「話は後だ。マルクを戻してやろう」


二人は俯いている。ミカイは声を震わせてながら話す。


「マルクは元に戻るのよね……答えてよ。アビリィ」


アビリィは答えない。アビリィの泣きそうな顔を初めて見た。


クロウは意を決して話出す。


「マルクは自らの意思で自身を切り捨てたんだ。僕達を守るために……」


マルクは攻撃する対象を失い悶え始める。頭を抱え、発狂している。

俺はそれを見ることしかできない。


「マルク……?嘘だろ」


アビリィは涙を抑えきれなくなりながら話出す。


「マルク……はもう力を解放しすぎて、ダメなんです……アニミスネットワークの禁忌を……使ってしまいました……彼の記憶も理性もデータは消えてしまったでしょう」


そのまま彼女は泣き崩れてしまった。


虚ろな目をしたマルクにミカイはゆっくりと駆け寄る。彼女の涙声が響く。


「何よ……いつもみたいに冗談なんでしょ……ねえ……また私を楽しませてよ……私がわからないの……?」


「ミカイ……!これ以上近づくと危険だ!」


マルクはミカイに大振りを振るう。

俺はすかさずミカイを庇うように盾を生成するが、その衝撃で二人とも一気に吹っ飛んでしまう。


「そんなことって……」


「いってえ……けど全力じゃない。俺たちだと認識できているんだ」


クロウは静かに言う。


「いいや……もう楽にさせてやってくれよ」


彼が指差すマルクは明後日の方向を見つめ涙を流していた。


「理性を代償にした力の解放には苦痛が伴うんだ。相当のね。マルクはそれを教えなかっただろうね。今も必死に戦っているんだ。僕達を傷つけないために」


俺たちは顔を見合わせる。アビリィの顔を見ても首を振っている。

クロウはナイフに力を込めてバクのウイルスを発現させる。ミカイは取り乱したように声をあげる。


「待って……待ちなさいよ……ほんとに……本当に……殺してしまうの?」


クロウはゆっくりマルクに近づく。


「ああ……マルクを苦しみから解放させてあげるよ」


クロウは優しくマルクを抱くとそのままナイフを突き刺す。


「……ああーー……ああーー……」


声にならない声でマルクは叫ぶ。ウイルスはゆっくりと全身に回っていく。


「マルク……?」


俺は実感が持てなかった。

視界が白くぼやけ、景色がよく見えない。

アビリィとミカイは目を覆い、泣いていたようだ。

俺はマルクの全身にウイルスが回るのを目に焼き付けていた。

苦しみ、それを必死に抑える様子は思わず、目をそらしたくなるが、俺は瞬きもせずに見つめていた。


「ごうぇ……ね」


彼が振り絞って声をあげた瞬間、彼の表情は石像のように固まった。

その光景に美しささえ覚えた。

表情は強張ったまま動かないが、強い苦しみから解放された彼に神秘性を感じた。

彼はまるで生命の終わりを表現する彫刻のようだった。


彼の身体が光粒となって蒸発する。


俺はその場に立ち尽くし、膝から倒れていた。


『守る者がいればもっと強くなれると思いませんか?』


『ツバサさん、お嬢様のことをよろしくお願いします』


彼の言葉が脳裏をめぐる。

思い返せば彼と会ってから一ヶ月も満たない。

けれど、彼はいつも俺たちを導いてくれた。

だが、彼は献身的すぎた。

俺達は彼に甘えていた。

彼を殺したのは……


呆然と時間が経つのを感じていると掠れるような声が聞こえてくる。


「そんな……おじ様……おじ様……」


ふと振り返るとメイがアケドに駆け寄っていた。


「……今度は私の番のようだな」


マルクが与えたウイルスはゆっくりと着実に侵食している。


「死なせないよ。アケドさん。あなたには償ってもらわないといけないことがたくさんあるからね」


クロウは持参していたワクチンをアケドの腹に打つが効き目がない。


「マルクは……新たなウイルスをつくってしまうほど自らの全てを生贄にしていたのか……」


「ゲンイチロウ。お前はいつから裏切っていた……?」


「最初からだよ。アケドさん。ただあなたの功績には敬意を表する。それも最初から変わらない」


泣きつくメイにアケドは声をかける。


「アニミスの所有者が死ぬと共に亡くなるプログラム、お前のは組み直しておいた。これからは……自由に生きろ」


「嫌だっ!私はずっと一緒にいるって約束したよね。まだご主人って呼ばせてよ……」


「すまんな……私はずっとお前を道具として使ってきた。まるでペットのように」


「それでもよかったよ。私はおじ様が嬉しいなら何にでもなるよ……」


メイは頭をうずめ、アケドが優しく撫でるとこちらに向いてくる。


「フクチツバサ……ひどい顔をしているな」


「うるせえよ。ロリコンのおっさん」


「だがな、お前なら乗り越えられるはずだ。ヒカワの敵を頼んだぞ」


「俺を……信頼できるのか?」


「わからん……だが今は信頼したい気分だ。そのまま聞き流してくれて構わんが。聞いていてくれないか」


「聞くだけならな……」


「お前の言う通り……私は仲間が欲しかったのかもしれん。ヒカワは人の弱みにつけ込むのがうまかった。仲間というものを教えてくれた。ろくでもない者ばかりだったが、目的を共にし、競い合い、確かに仲間だった。けれど、もう疑いは晴れない」


「仲間ね……エイイチ……マルク……」


「私はそれ以上のものを求めてしまった。私は最初からお前らのような関係を望んでいたのかもしれん。私はずっと羨ましかっただけだったんだな……」



その瞬間、俺の頭に電流が流れる。

黒幕め。またこの感覚か、今度はアケドの記憶のようだ。




暗い部屋。モニターの光だけがアケドの顔を照らす。キーボードを叩く音だけが響いていた。

ゴミ袋が積み上がり、空気は重い。


突然、扉が開き、光が入り込む。

アケドは、声を荒らげる。


「だから!勝手に入ってくるなって言ってるだろ!」


だが、そこに立っていたのは見知らぬ青年だった。


「君がアケドユウシか。数々のプログラムコンテストに入賞しながら。表彰式には顔を出さない天才……まさかこんな場所に籠もっていたとはね」


「お前……誰だよ」


「僕はヒカワエイイチ、いずれ日本を、いや世界を変える者だ」


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